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転生領主とその周辺  作者: しから
動乱の幕開け
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西部動乱最後の紛争、なのに誰も手伝いに来ない

緑赤 22日


 西部全域を巻き込んだ紛争はそのすべてで伯爵家の完勝と言う結果に終わっている。

 …ここ、北域平原でケンタウルスに対峙している本軍を除いて。


 アリオーン北岸の紛争は2度に渡る開戦の1度目で計18名の軽傷者のみ。

 後は、アムン家で暴れるガムトの使者を抑えるのに打ち身を負った者が2名だそうだ。

 この規模の動乱とは思えないほど、被害が少ない。

 2つの子爵家が改易待ち、10以上の男爵家が断絶、5つの騎士爵家が取り潰された動乱の被害とは思えない話だ。

 

『5つの騎士爵家は伯爵家の被害として計上しないと周囲には伯爵家の一方的な粛清に見えかねませんね』


 各地の被害状況を記した報告書と共に送られてきたフォルの手紙にも思わず納得してしまう。


「ガーランド様、援軍の目処は?」

「駄目じゃ。どいつもこいつも応援の言葉しか寄越さん」


 レオンに首をふって答える。正直な話、ここの戦場は既に勝敗が決している。

 領内の各街を散発的に襲われているペリル軍は疲弊して、士気が低い。

 その状態で複雑な奇襲戦が出来るはずもなく、こちらは重装兵を前線に配置するだけで被害を防げる。

 こちらが焦って陣を乱せば、多少の勝ち目も出るかもしれないが、そのような迂闊な兵は連れてきてはいない。

 その為に伯爵家に長年勤めるベテランだけで編成した。

 放っておいても勝てる戦いだが、前線に重装兵を配置する関係で敵を倒す戦功を稼げない。

 誰も来たがらない戦場になっているのだ。野心的な者は来ても追い返すが…。


「…2ヶ月くらいかかりますかね?」

「それはないと思うぞ?

 現状では食料の自給もままならないはず。もって半月じゃろうな」

「早めに投降してほしいものです。餓える子供は不憫ですし」

「そうじゃな」


 痩せ衰えた手を必死に伸ばす彼らを払い除けるのは辛い。

 それが大人達の意地のせいとなればなおのこと。

 …そう言えば我が家には、あえてその状況を作り出す悪魔のような孫がおったな。

 あやつがこの状況に気付いていないとも思えん。何ぞ手を打っておるかも…。


「閣下。数名のケンタウルスの子女が内々に会いたいと訪ねて来ております」

「ケンタウルスの子女が?」

「はい。一番年上と思われる子でも若様くらいかと……」


 既にフォルが動いておるのか?

 ルーが暗殺を企んだ可能性も否定できないが。

 武器を持っていない状況ならレオンの護衛付きで会う分には問題ないな。

 伝令に武装解除の上で連れてくるように命じる。


「レオン、どう思う?」

「多分、フォル様が何かしたのではないかと。

 ペリル子爵にそこまで画策する能力があるとは思えません」

「そうじゃな。何をやったのやら……」


 正直不安だ。こちらが躊躇するような手を平気で打つ。まさか、5才の少女を利用して侯爵家を叩くとは。

 南部はダガル侯爵派と次期侯爵派に別れて大紛争中だ。

 シースコンが動かないので、ジェイン辺境伯家が南端域を防衛できるから良かったものの、一歩間違えば、現侯爵派、新侯爵派、他国協調派の三つ巴の戦争に発展しただろう。


 南部の不安を憂いていると4人のケンタウルスの少女を連れて、当家の兵がやって来る。

 ケンタウルスの好むゆったりとした民族衣装。その衣装には上級家臣以上の者に着用が許可される銀糸が使われている。


「お目通りを叶いましてありがとうございます。

 私はルー・ペリルの娘、ヤヤと申します。これらは私の護衛。

 伯爵様に伏してお願い致します。何卒、我々にお口添えいただきたく」

「ペリル子爵より通達はなかったかね?

 そなたらケンタウルスは当家に剣を向けたのだが?」

「その事は承知の上で恥を忍んでお願い致します。

 一昨日の昼くらいから我々の街周辺を竜が飛ぶようになり、そのせいで平原の獣が何処かに隠れたのか、まともに狩りが出来なくなりました。

 元々、ゴルドパイヤの襲撃で街の護衛に人を割いており、後3日ほどで食糧庫は尽きることでしょう。

 意地で戦うと言っていた父達は母達が毒を盛りまして腹痛で寝込んでおります。

 何卒、我が領都にて竜の方々をご説得いただきますように!」


 やりおった……。本気で餓死させる気でことを起こしおった。隣のレオンも頭を抱えているが、儂も頭が痛いぞ。

 運良くペリル夫人が毒を持っていたから良かったものを…。

 運良く? 本当に?


「ヤヤよ、質問じゃが、その毒と言うのはどういう経緯で手に入れた物かのう?」

「一昨日の夕方に初見の行商人から貰った物です。強力な虫下しで飲みすぎると寝込むほどの腹痛をもたらすからくれぐれも注意してくれと言われたものがあったそうですが?」


 …やっぱりか。普通の行商人が飲みすぎた際の副作用など教えるものか!

 タイミングからみても間違いなくあやつの差配じゃ!


「すぐにでも陣を引き払い、領都へ向かうとするかのう?」

「は、はい。そうしましょう!」


 儂の言葉に即座に指示を出すレオンを見つつ、ペリル令嬢に向き直る。


「ヤヤよ、

 そなたらは偽りないと確証も持てぬ。故に…」

「どうぞ」


 両手を前で組む。

 人質となってもらう訳だな。

 側近の1人がヤヤとその護衛達の両手を縛る。降伏した年端もゆかぬ少女とは言え、これも戦場の習いじゃ。

 せめて、ペリル子爵の責がこの少女にも及ばないように兄へ会いに行くかのう…。

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