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転生領主とその周辺  作者: しから
動乱の幕開け
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ガムト子爵家の終末 / デート気分

緑赤 16日


 アレス・ガムトは目の前の机に拳を叩き付ける。


「セルドア達はまだ戻らんのか!」

「未だ戻られる気配はありません!」


 物見役が返答を返せば、近くの岩にコップを投げつけ、ポコッと音を響かせる。

 今、アレスが率いるガムト子爵軍はキージョ峠の南側、アムン騎士爵が治める街まで歩いて半日の距離に陣を張っている状態。

 アムン騎士爵にもこの軍勢が見えている以上は、使者を粗末に扱ったりはしないはず。


 …セルドア達は何処かへ逃げたんじゃなかろうか?


 アレスの頭に過る最悪の流れはそれだ。

 そうなれば、代わりに処刑されるのは自分も含めたガムト子爵家の全員。

 セルドアも国中に手配書が廻るだろうが、所詮、取り潰された子爵家の遺児。懸賞金が掛かるわけでもない。

 逆にペリル勢との戦いは最前線に立つ必要がある。

 その辺をセルドアに伝えることはしていないが、何処からか漏れた可能性も否定は出来ない。


 不意に視界が陰り、曇り出したのかと空を仰げば、そこを行くのは、

堅い鱗に覆われた巨体。丸太のような首と尾を悠然と揺らして空を行く災害の化身。

 破滅の王と呼ばれる最上級の魔獣ドラゴンが空を横切ったのだ。

 その1体を皮切りに、数十を数える竜達の影。


 …黒の竜の里で何かあったのか?

 どうせなら大陸全土を巻き込む戦乱でも起こしてくれれば、と考えながら空を見ている。


 …まて、伯爵家の次期当主は竜族ではなかったか?

 いや、竜の里が動くのは早すぎる。

 そもそも我々はガーランド伯爵援護の為の軍。敵対しているわけでは。


 アレスはガムト子爵。所詮、片田舎で威張るだけの貴族モドキだ。本物の貴族の怖さを知らない紛い物。

 アレスがやっと危険を理解したのは、最初に頭上を通った竜の旋回を終え、包囲が完了した後だった…。


「わ、我々はガムト子爵軍。ルナライト伯爵家の寄子で、その伯爵家の次期当主はアルヴィスと言う竜族だ!

 言わば、我々はアルヴィスの配下。手を出せばルナスフィア王国と他の竜を敵に回すと覚悟しろ‼」


 偶然現れたはぐれ竜の連中だろうからこれで躊躇するはず…。

 そう考えていたアレスは先頭の成竜が振るう尾の痛撃で気を失った。



ーーーーーーーーーーーーーー

緑赤 17日


「久々の自由だ‼」

「ちょっと! 危ないでしょ‼」


 回転しながら飛んだり、宙返りをして私の周囲を飛び回る白竜に注意をする。

 流石にこの年下の叔父もこの数日の書類仕事は、鬱憤を溜めることだったらしい。

 まあ新しく出来た従姉妹を優先して、面倒な仕事を手伝わなかった私も引け目があるのだけど。

 特にメルとは仲良くしたいのよ。混じり子の父親が上位血統の竜なら生まれてくるのは高確率で中位級の竜。ただし、黒の竜の里に上位血統の雄竜はクエント血統の老竜1人。

 せっかくの混じり子を中位に嫁がせるのは勿体ない。

 …そんな時、里の誰かが漏らした一言が、里の養子となった混じり子を次期伯爵に嫁がせたら、生まれてきた男の子を里に向かわせてくれないかしら? らしい。


 昨日、フォルがリリス達と話している時にシンクルメア達に囲まれて、お話しした内容がそれだ。

 その話は誰も損をしない有意義なものになった。

 私は見ず知らずの里竜ではなく、気心の知れた従妹を同じフォルの側室に得る。

 メルは誰とも知らぬ相手ではなく、叔父のフォルに嫁げて、そこには私がいる。

 里はフォルと繋がりを持てて、男の竜を得られる可能性を獲得する。


 っ、危ない‼

 あのバカ、遥か上空まで上昇して、垂直落下で地面すれすれを飛んでる。


「こら! いい加減にしなさい‼」


 たまらず叫べば軽々と私の横に並ぶ。今は精霊の加護が憎い。火と水の相性が良い私と既に雷霊と契約しているフォルでは飛翔能力にかなりの差が出ている。

 風程ではなくても雷も飛翔に優位な属性だし、むしろ短距離でなら雷属性が一番上かも…。


「すまない。少しはしゃぎすぎた。兄さんに乗せてもらうのと自分で飛ぶのはやはり違うな!」

「それでも気を付けなさいよ?

 幼竜がたった2人で飛んでいるんだから、魔物が襲って来るかもしれないんだし!」

「ないない。昨日ここを通った里の竜の気配を追い掛けて飛んでいるんだぞ? 成竜を敵に回すと覚悟がないと襲ってこんよ」

「下手に挑発するような飛び方して、破れかぶれで向かってくる魔物がいないと補償出来る?」

「…それもそうか。

 普通に飛ぶとしよう」


 …やっと落ち着いてくれた。

 気持ちは分かるのよね。西大陸じゃあ、自由に飛ぶなんて出来ないことだったし。

 ……『あの方』が出てくるだろうから、最上級の竜に囲まれても安心なんだろうけど、生まれた時から面倒見ている方としたら心配になるわ。


 そう言えば2人きりよね。……これってデートかしら?!


「おーい、ふらついてるぞ?

 一辺降りて休むか?」


 ……いけない。ただでさえ慣れない空の移動なのに、思考を脇道にそらせるのは危険ね。


「大丈夫。……いえ、少し休憩したいかも?」

「そうか。あの泉の辺りに降りよう」

「分かった」


 全く大丈夫じゃないわね‼ 慣れない空の旅なのよ! 疲れたフリして甘えるくらいの女の子らしさを見せなさいよ。リムティエル!

 直ぐに旋回しながら、高度を下げるフォルに付いていく。フォルだけなら急降下着陸とかも出来るのだろうけど、私には無理だし、せっかく昔オシメを換えたこともある叔父がエスコートしてくれるのよ。甘えないでどうするのって感じね‼



 降り立った泉はそこそこの広さがあった。空の上からとは印象が違うわね。

 先に降りていたフォルが大きな木を指差して。


「そこらの木陰で休憩でもしていて……」

「イヤ!」

「嫌って……。俺は周辺の安全を確認して来たいんだけど?」

「誰が寄ってくるのよ! それより可愛い姪っ子が疲れているのよ?

 背もたれ代わりになりなさい!」

「……はい。お姫様」


 私の命令に従ったフォルが大木にもたれて座る。

 そこへ飛び込むようにもたれ掛かる。

 ……良い感じじゃない?

 落ち着くわ。やっぱり結婚するならこの子しかいない。


 少し欲張っても良いわよね?


「フォル、頭を撫でなさい」

「…お前な」

「何よ」


 渋々と言う感じで私の頭に手を置くフォル。…それで良いのよ。


 …………。


 優しい木漏れ日にフォルの体温。木々の揺れる穏やかな音とトクントクンと言うフォルの心音。

 …何か幸せね。


「……眠くなって来るな」

「寝ちゃダメよ?」


 一応注意するけど、フォルも眠くなるくらい安心しているのよね。


「…もうちょっとしたら出るか?」

「そうね……」


 ガサガサ。


 本当に良い感じ……。

 静かで聞こえてくるのは、茂みの揺れるガサガサと言う音だけ……。

 ガサガサ?


「おい、野郎共!

 ここに身なりの良い餓鬼がいるぞ!」

「ですね。小さい竜が降りていったから取っ捕まえて、用心棒にでもしようかと思ったんっすけど?」


 ……薄汚い男共が数人現れる。馬鹿なの? 死ぬの?

 あり得ないんだけど‼


「ついでに領内の掃除も出来るとは運が良いな」


 その山賊らしき連中が現れたことを喜ぶこいつはもっとあり得ないんだけど‼


「こいつらを誘拐すれば、どんだけの金が手に入るかね?」

「「ギャハハ、違いない」」


 この程度の連中にどうこうできる相手だと思っているのかしら?

 私の勇気を無駄にしようとするやつに鉄槌を下さないと。


「アリス」


『はーい。私の世界にご招待』


 立ち上がろうとした私の肩を抱き締めて、雷霊アリスを呼ぶフォル。

 その声に答えて顕れるアリスが手を一振りして手品のように山賊を消し去る。

 前言撤回。ナイスよ! 山賊、フォルに抱き寄せられるなんて何て良い展開かしら。そう思ったのもつかの間で……。


「早めに移動するぞ。さっさとこの紛争を終わらせて領内の整備をしないと」

「ちょっと!」


 私を放り出して翼を広げるフォル。どうやら使命感に火を付けたみたい。

 要らないことをする山賊ね‼

 慌てて、後を追う為に竜化する。

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