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転生領主とその周辺  作者: しから
動乱の幕開け
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ノッカの海戦

緑赤 11日


「さあ、野郎共持ち場に付きな!」


 穏やかな見た目と裏腹に過激な檄を飛ばす妙齢の女性騎士。

 それがルナライト伯爵夫人リリアナ様だと言うのが驚きだ。

 まあ、俺の現状も驚きなんだがと思いつつ、バリスタの射撃座に座る。

 ガントラックの街で暗殺者をやっていたのに、今はルナライト家が誇る大型船舶レリント号の射撃手の1人だと先月までの俺は想像も出来なかっただろう。

 …俺は北大陸の猫系獣人の出身だ。バランス感覚と射撃の腕を買われて、小国の海兵隊長にまで登り詰めたものの母国が滅亡して、船ごとガントラックまで逃げてきた亡命者の船長。

 そこで船を売り払い、その金を5人の生存者で山分けしたものの職にありつけることもなく、身軽さを買われて暗殺者に落ちぶれた。

 闇ギルドの長からまわされたアントン家子女の護衛の仕事を終えた時、従士になれるような功績もないし、次の仕事を考えていた俺に声をかけてきたのがレリント号の船長フック海兵長。

 バランス感覚の良さから目を付けられていたらしく、只酒に気を良くして過去に北大陸の海兵隊長をしていたことを話せば、次の日には従士見習いとして取り立てられた。

 曰く。


「船の上でバリスタを扱うのは技術がいるが、練習もなかなかさせられん。実戦でバリスタを扱っていたなら使えるだろう」


 だそうだ。俺の出身国じゃ1隻1門で海兵隊長専門のバリスタを、予備含めて50門も積んでいて射撃手の仕事だと言うのが驚きだが、それ以上に亡命者の俺をすんなり雇い入れる器量に驚いた。


「今日の働きが良ければ、正式に従士として取り立てる」


 と言うのだからこの家はおかしい。


「腕を見せてくれよ。次期射兵班長さん」


 バリスタに専用の矢を設置する装填手のベイが、声を掛けてくれる。

 俺が従士にとりたてられるとこいつも一緒に正規の従士になり、俺の射兵班に配属されるらしいから期待をかけているのだろうが。


「任せてくれ。こんな立派な物なら外す方が難しい」


 風避けに標準器とはどれだけ恵まれた代物だと言いたい。俺達の船に付いていたバリスタなんて矢が真っ直ぐ飛ぶのが希なレベルだぞ?

 右舷沖の5隻へ目を向けていると…。


「停戦指示無視!」

「「復唱、停戦指示無視!」」


 メインマスト上部にいる見張りの声が響き、そこかしこで復唱する。

 懐かしい雰囲気だ。海戦は相変わらず賑やかだな。


「4番に射一!」

「「復唱、4番に射一!」」


 指揮官リリアナ様の命令が伝わってくる。ルナライト伯爵家海兵隊では、北或いは東が1番になる日周り振り分けだったな。

 …なら左から2番目の船だな。


「4番一射了解!」

「「復唱、4番一射了解!」」


 俺の声も復唱される。波の音で声が消されやすい海上では、非常時は誰の声であれ聞こえた者を聞こえた全員が復唱して叫ぶ。

 海戦こそ経験がないが、船乗りとしての練度は非常に高い集団。さすがルナスフィアの西の王家。

 っと、感心してないでよく狙ってっと。

 ……ここだ!

 さっと手を上げると同時に放たれる槍のような大矢。すげぇな。

 ……ん?


「ってはえぇよ!」


 思わず叫ぶ。バリスタってのは標準を合わせて射出命令を出してそれが伝わるのに1呼吸。射出棒を倒すのに1呼吸掛かるもんだってのに、俺の指示とほぼ同時に射出しやがった。

 案の定…。

 4番船の船首に当たってすぐに沈み始める。

 沈む? …大失敗じゃねえか!


「命中確認! 4番船浸水を認める!」

「「復唱、命中確認! 4番船浸水を認める!」」


 再び見張りの声が響き、喝采が上がる。…良いのか?


「すごいじゃないですか!」


 ベイが大喜びをする。水を指すようだが…。


「良いのかよ! 沈没したら敵の資材を奪えないだろう?

 マストに当てて動けないようにするのが海戦の基本じゃないか?」

「? 何処の達人の話です?」


 首を傾げる様子はどうにも本気で言っているらしい。……さすが西の王家。あんな小船の資源は要らないか。


「敵3番船に白旗確認! 続いて残り3隻の白旗を確認しました!」

「「復唱、……」」


 見張りの声に呆然とする。

 1隻沈んだくらいで白旗?

 根性がないにも程があるだろう。降伏を装った接舷船じゃあ……。無理だな。

 どうやっても勝ち目はない。


「敵将の捕縛に移るわよ! 復唱は終了!」

「「最終復唱、……」」


 1本矢を射っただけで勝ちを拾ったとか良いのか?

 そう思っていたら、こちらへやって来るのは!


「ご苦労様。良い腕前ね?

 アントン家の射手?」


 まさか伯爵夫人自らのお声掛かりとは。慌てて片膝を付いて跪礼を取る。


「いいえ、先日雇い入れた見習いです」

「本当に? でかしたじゃない! 

 フック。この子はそれなりの待遇を与えなさい。教官をやらせるのも良いわ」


 フック海兵長の言葉に無邪気に喜ぶ夫人。先程まで、野郎共! と叫んできた女性には見えない。

 そのままウキウキとした様子で船室へ向かう夫人を見送る。


「…良かったな。ノッカ射兵班長」

「良いのか? …良いのですか?」

「改まる必要はないぜ?

 伯爵家は元々陸軍が強い家だろ? まともな海兵はこれから育てる訳だ。昔から優秀な連中の囲い込みは日常茶飯事だしな!」


 まあルナライト伯爵家の乗っ取りとか考える奴がいないだろうな。後が怖すぎる。

 また良い酒に馴れないと駄目だよな。…それだけが憂鬱だぜ。


「ニヤニヤするなよ。班長!」


 顔に出ていたのか? ベイに背中を叩かれた。…お前だってにやけているぞ。

 …うしっ!

 捕縛を手伝って点数稼ぐぞ‼

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