戦場で大活躍する未来が見えない
緑赤 15日
イタズラが上手く行って、ダガル家を内乱状態に落とした訳で、西部南方は片が付いた。資金困窮するキルケ子爵閥は5隻しかない軍船でレリント号に挑む? らしいから消化試合感満載だろう。
しかもレリント号は、湖戦の雄ジリコン家の者が指揮を執り、アントン家の海戦に馴れた兵とそいつらに目下鍛えられ中の当家の従士…。
そもそも海上の城塞と言ってもおかしくないレリント号に3ヘップの旗艦ですら、衝突したら沈んでしまう。
…レリント号は横幅3ヘップだから横撃しても通じないわけだ。
どうみても勝ち目はない。
ペリル家は辛うじて戦線を維持しているらしいか。
ケンタウルスは機動力と遠距離攻撃力が高い高機動砲門みたいな連中だし、無駄な被害を避けて、金属製の大盾を構える重装兵団をゆっくり北上して圧迫しながら、戦線を引き上げているせいらしいが?
…ケンタウルスのスペックは、強襲向けなのに正面から戦ってどうすると言うのが俺の言いたいことだ。
魔術適正が低いから、身体強化した矢を放つ訳だが、威力は精々下級魔術並み。
正面から戦ったら防がれるに決まっているだろ!
集団を組んでるせいで機動力も落ちるし、普通は5人くらいで草むらに潜み、奇襲即離脱を繰り返すべきだろうが!
そもそも、狩猟をメインにしているから備蓄が少ないのに、行軍行動するのは論外だ。
クリングオルフのサトウ家が圧力を掛けてくれるらしいし、補給線の維持をしっかりしていれば、ほかっといても自滅するだろうな。
そうそう、クリングオルフのサトウ家だ。風呂に浸かる風習のある地域で佐藤? だぞ。
日本文化来たんじゃないかって、こちらの方が興味深い。争乱が片付いたら改めて礼をしに訪問する必要があるだろうし、その時は絶対に同行しよう。
後は現状の敵対勢力で手当てをしていないのはガムトのみ。
放置でも良いが、半ば独立勢力のようになられると厄介だ。盆地地形を盾に籠城して、領民を扇動されたり、クリングオルフに付いたりする可能性がある。
いや、あの辺はクーリングオフ王国なのか?
地図を見ても何処にクーリングオフがあるのかよく分からないんだよな。
遊牧民の国の可能性もあるか?
それなら山に囲まれた平地部が3つほどあるみたいだし、そのどれかの可能性も。
どちらにしろガムトへの対応だ。
「こちらの準備は万端なのだが…」
「何の話です?」
側に控えているアイシャが俺の呟きを拾う。扉の前に立つアゼルは無言。
「ガムトだ。そろそろ暴れるんじゃないかと期待しているんだがな」
脇に置かれた3つの遠話晶石を見る。2つはセッセ、アムンの両騎士爵が、1つはシンクルメアを経由して、今は黒の竜の里のリリス嬢が持っているはずだ。
どちらかの騎士爵からガムト決起の一報が入り次第、リリス嬢へ連絡。
その連絡を受けた竜族は現在逗留している街、ダウト名誉騎士爵領サークルからハージヒルムへ入城する。隣街からの移動は1時間くらいだろうか?。
その日の内に同胞に手を貸すと言う名目でガムト領へ出立。多分半日くらいで着く。…両騎士爵の軍より早く強襲出来るはず。
ガムトの決起したその日の内に竜族の参戦と言う図式が出来上がっている。
そこは問題ないか。
…しかし、転生物の漫画や小説だと主人公は若くして軍隊を率いて華々しく活躍するのに、何故俺は書類の山と格闘しているんだろう。
他に出来ることもなくて、執務用の机に積まれている爺さんの決裁待ちの書類を仕分けしている。
貴重な羊皮紙に書かれているこれらの陳情は、重要度が高いと言うことで、緊急性の高いものは戦地へ運ばなければならないのだが、文官の半分が解雇され、残りが各戦地へ出ている今、その対応が出来るのが俺くらいしかいない。
セーネの婆さんは男爵家の残党狩りに出ている。
…取り繕うべきじゃないか。そう言う名目で書類仕事から逃げ出していると言うのが正しい。
論功報奨があるわけでもないのに、軍監がつく仕事に当主婦人が付く理由がない。
下位の文官は残っているのだし、軍監の手は足りているんだ。
「ガムト子爵は決起するでしょうか?
…既に戦況は落ち着きつつありますよ?」
「するしかないだろう?
爵位保留と言うのは、非常事態の対応と言う扱いだぞ?
他の地域の争いが決着したら、王家に爵位を取り上げられるわけだし、その前に軍を出して、アムン騎士爵領を抜いて爺さんの軍の横合いを突き、爺さんを倒すのが唯一の道だ」
「ご当主様をですか?」
「ああ。次期当主を指名しただけで、家督を譲った訳じゃないからな。
今こちら側に付いている貴族だって反意を抱くかもしれない。そうなれば、その混乱を起こした事実を盾にクリングオルフへ降ることも出来る」
「クリングオルフが認めるかしら?」
「認められる必要はないんだよ。
クリングオルフの為に西部を混乱させましたとでも言って、元からクリングオルフの間者だったように振る舞えば、クリングオルフの国民はガムト子爵へ同情するかもしれない」
…多分、反主流の貴族が扇動するだろうしな。戦争が起きれば、反主流は勢力を増すことが出来るからうれしいだろうし。
…噂をした甲斐があったのか、アムン騎士爵と遠話出来る左端の晶石が輝いた。
『フォルセウス様。ガムト卿の先触れの使者がガーランド伯の援軍に向かうので協力せよと』
『であれば、こちらから戦力を派遣する。自地防衛に専念せよ』
『…使者殿が寄親を手助けせずに騎士を名乗れるのかとも言っておりますが?』
『爵位保留中の貴族は専守防衛以外の軍事行動を禁じられている。
それを黙認すれば、貴公も犯罪者となるぞ?』
『…確かに、し、使者殿?!』
『実の祖父も守らぬ腰抜けが、伯爵家の次期当主だと言うのはおかしいだろうが!』
使者として来たのはセルドアか? ガムトめ、嘗めるのも大概にしろよ‼
寄親を助ける功績を理由にして、見逃してもらおうとでも企んだか?
使者役として息子を向かわせることで本気具合を見せ、尽力を理由に助命でも望む気か?
『アムン騎士爵ジーニスよ! 伯爵家次期当主として要請する。
そこにいる使者は、国法を個人の感情で歪めようとする大罪人だ。即刻捕らえて牢に入れろ‼』
『よろしいのでしょうか?
正式なガムト卿の使者殿ですよ?』
『現在のガムトに行軍行動の為の使者等を出す権利はない。そこにいるのは使者を騙る不届き者だ!
弁明を訊く為に捕らえるにすぎん』
『はっ!』
威勢の良い返事と共にドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。
セルドアの悲鳴も混じっているので殴られながら、抵抗しているのかもしれない。
「フォル様、ガムト子爵と言うのは一体?」
「首を傾げるな。あまりにも馬鹿すぎて理解出来ない気持ちは分かるがな」
「…あの家は本当に僻地で、他の貴族が訪れること自体が少ないのです。貴族としての常識を身に付ける機会がなかったのでしょう」
「一応、士官学校を出ているんだろう?」
「そのはずなのですが?
竜族への連絡はよろしいので?」
アゼルにも理解出来ないか。まあ、どうせなくなる家だ気にする必要もない。
「そうだな。一先ず、アムン騎士爵の方が片付いた…」
『お待たせいたしました。
セルドア・ガムトとその同行者は全て捕らえて牢に連れていくように指示しました』
『助かった。今件が片付いたら改めて礼をしよう。
アムン騎士爵は同盟者の参戦後に1日を空けてから軍をガムト領に向けてくれ』
『はい』
さて、リリス嬢へ連絡を入れるとするか。
俺は右端の晶石へ手を伸ばした。




