イタズラ?
緑赤 12日
この日、伯爵家は騒然となった。
ダガル候爵家より援軍の要請を依頼する使者が訪れたのだ。
ハージヒルムを預かる次期当主はこれを快諾、戦後処理をしていた南方部隊の派遣を命じる。
そうなると当然、
「どういうつもりです!」
と殴り込んでくる。セーネ婆さんがいるわけで、
「落ち着いてください」
「これが落ち着けますか?!
知っているでしょ! ダガルは言わば、貴方の父の仇なのよ!」
「知っていますよ。ただ、戦う相手次第では援軍を出すのが当たり前じゃないですか?」
「シースコンじゃないし、帝国でも攻めてきたの?」
「…使者も交えて話しましょう」
そう言ってアゼルを促す。隣で待機していて貰ったから直ぐに連れてくる。
「失礼します。お久し振りですセーネ様」
「ギルバート?
何でダガル家の次男が?」
「そちらのフォルセウス様に完全にしてやられましてね。
私や兄はもう敵対したくないと思いました」
白旗を上げると宣言するギルバート卿。不信そうな目を向けるものの、特になにも言わないセーネ婆さんに説明をしようか。
「婆さんは俺が護送される分家連中にどういう指示を出したか知っていますよね?」
「変な注文を付けていたわね。本当なら坑山内部に着いてから着けられる感光石付きの首輪を最初から着けていくようにだったかしら?」
便利だよな。一定量の光が当たると首が絞まる逃亡防止用の首輪なんて。
利用しないと損だろう?
「…私達は牢屋番として紛れ込ませていた者から、ビアンカ達は黒塗りの馬車でベイム伯爵領のトドロ坑山へ運ばれる情報を得ました。
父は速やかにその馬車を襲撃して拐ってくる算段を命じました」
「牢屋番が?」
「だろうと思っていた。首輪は出立直後に着けさせたから、たかが牢屋番が知ることは出来ないだろうなと思ったが?」
「ええ。当家の襲撃班から最後の定時連絡を受けた直後に届いたこの手紙を見るまで、我々は首輪の情報を知りませんでした」
数日前に俺が出した手紙をギルバート卿から受け取る婆さん。
暫くして肩を竦める。
「悪辣極まるわね。
何よ? この『両家の遺恨はあれど祖父は祖父。私は私です。私が当主を拝命した暁には、既に着けられている感光石の付いた首輪を外し、ビアンカ・ヌルマを側室の末席に迎え、それを以て互いの過去を水に流しませんか?
ベイム伯爵には、ビアンカ・ヌルマを保護するように手配します。
愚か者が移動中の彼女らを害さなければ、貴公の孫姫の未来は祝福されたようなものでは……』
本気でこんなことを考えていた訳?」
眉を潜める婆さんだが、
「当然ではありませんか? 貴族が正式な書状にして送ったものですよ?
候爵殿が自分の手で愛する孫娘を殺さなければ、成り立った未来でしょう」
「そうなるように仕込まれたでしょう?」
呆れた顔をするギルバート卿だが、非常に心外だ。
「おや? こちらの誠意を蔑ろにした挙げ句、間者の情報を鵜呑みにして暴走したのではありませんか?」
情報源はスパイでこちらは歩み寄ろうとしたのにね。批難する?
……叩かれるのはお前らだぞ?
「失礼。私や兄では到底太刀打ち出来る器でないと思い知らされたのですよ? 嫌味の1つくらい聞き流してください。
…兄は自らの娘の1人を継承権に絡まない妻。妾として差し出して関係の再構築を模索すると決めましたが、自らの手でビアンカを殺すことになった父はその意見を認められず。
現当主が伯爵家へ向け挙兵し、次期当主がそれを迎え撃つ形で戦端を開きました」
「つまり、戦う相手は現ダガル候爵と言うわけね?」
「ええ。しかも伯爵家が共闘しないとダガル候爵家は滅亡する訳ですから兵糧は向こう持ち。ただ飯付きの戦場ですよ?」
「さすがに滅亡は……」
「そうですか? 今回の挙兵は全て候爵家の我が儘ですよ?
しかも西部の動乱と関係なかった南部を混乱させて、戦火を拡大。
当家との関係改善を目に見える形にしなくてはどうなるでしょう?
シースコンとの関係維持もアギレラ子爵が権勢を増し、ガントラックが日々大きくなっていく今、窓口として必要とされますか?」
伯爵家の小飼とも言える程、親しいアギレラ子爵領がアリオーンの対岸を得て船の数を増すなら、シースコンはアギレラ子爵領との交易に天秤を傾けるだろう。
竜と言う目に見える脅威があるのに機嫌をとろうとしない訳がないだろ?
ここで共闘する姿勢を見せて、次代の当主間で関係改善が進んでいる様子を見せて、イーブンに持っていくのは必要不可欠だと思うのだが?
「言葉をどれ程費やしたところで次期当主殿が過去と決別した証拠はない。
しかしここで父と我々を天秤に掛け、それでも我々の手を取るなら、内情はどうあれ誰も批難できないだろうな。
…これは若輩者の戯言ですが、ダガル候なりに幕の引きかたを知っているのかもしれませんね。
当家の者が合流した後、一当てして投降。数日で片付く戦かもしれません」
父の仇と恨む声を聞くが、貴族として外れている訳じゃないんだよな。
どうにも敵意を抱きにくい相手だ。




