年配者の話し合い
「思った以上に良い出来の子でしたね」
「セーネもそう思うか?」
私の呟きを聞き留めた旦那様、ガーランドへ頷き返す。
軍義にも使う広い会議室は護衛として立っている者を除けば、私とガーランド、リリアナ姉さんしか居ません。
「遅くなった」
「セリオン様、フォルちゃんは大丈夫?」
今、1人増えましたが。その入室者ダゴン元侯爵に、ウチの新しい孫を気遣う声を掛ける姉さん。
「大丈夫じゃろう。迎賓館は我が家の者が囲っておる」
「……。
……わざとかしら?」
「じょ、冗談じゃ!
ルシア嬢が付いとるんじゃし問題はなかろう」
慌てて言い募るセリオン様にホッと一息吐いてしまう。
…そうよね。私達が心配になるくらい過酷なお披露目会だもの。
旦那様は後でお説教ね!
「さて、揃ったことじゃし始めようかのう?」
「それじゃあお茶を淹れますね」
ガーランドの音頭にあわせてポットからお茶を注ぐ姉さん。普段なら、それぞれに付く侍従にやらせるのだけど、今回はその者達も追い出しているものね。
私も無言で姉さんの淹れたお茶を2人の前に出す。
「フォルの奴は大した者じゃな。儂らでも眉を潜めることを平然とやりおった」
「ビアンカ・ヌルマのことじゃな?
必要とは言え、あれほど冷静にのう」
「ダグラスは本当に優秀でしたし、その血でしょうか?」
「かもしれんが、それを開花させる労力を惜しまなんだガルドバング陛下に感謝じゃ」
一頻り出来の良い孫を感心していた私達は誰となく背を伸ばす。
「それで今日捕らえた者達の処遇じゃな?」
「ええ。ガムトは息子達を斬れるなら、准男爵への降爵が妥当と言うのが王国の意向じゃ。
ヌルマを始めとする分家の扱いは当然、伯爵家の権利じゃから口出しはなし」
「問題は最後にフォルちゃんが釣り上げた連中ね。騎士爵や分家はウチで処分を下せるけど、男爵以上はそうはいかない」
「降爵させるほどの罪にはならないじゃろうな。
しっかり説教して解放するしかない」
「そうするとダガルが唆して大紛争待ったなしか?」
…娘を処刑されるんだから、その手の意趣返しはしてくるでしょうね。
立ち回りの上手さは相変わらずかしら?
「フォルが当主になれば、利権を縮小されるのは目に見えているからな」
「しかも竜族やセルラニアが味方をするからその時に反抗していては間に合わん」
「家中が混乱しているここで動くが一番良いわけだな。ガーランドが当主の内に圧力をかけて優位な立場を確保したら、後はひたすらフォルに媚を売るのではないか?」
「そんなのに流される子じゃないけど」
「駄目よ。あの子はイタズラに争いを起こす子でもないでしょ?」
「そもそも正統な理由なく紛争を起こせば、王家の干渉を受けるぞ?」
…それもありますね。あら?
「…今回彼らはどういう理由を付けて紛争を起こすかしら?」
「多分、他国の王家に育てられた寄親の次期当主に魔貴族として信義を問うとか言う建前ね。
それで終わったら、フォルちゃんを認めると共に国の為に泥を被った現当主達が引退すると言う筋書かしら?」
「そうなれば王家も口出し出来んじゃろうな」
「自分達の利権確保が目的じゃない!」
ダンッとテーブルを叩く私へ目以外で微笑む姉さん。こういう時ゾクッとするのよね。
「愚かよね。自分達は負けないなんて何処にも根拠のない話なのに」
…ああ、彼らが紛争で勝利をすればと言う話ね。
「実際のところはどうなの?」
「…まず、主だった勢力は3つ。西のキルケ子爵家の派閥達、アリオーン近辺の男爵達、北のペリル子爵」
「へえ。東以外の3方向を抑えられている訳ね!」
「しかもダガルが暗躍すれば、アリオーン対岸のアギレラ子爵はシースコンへの牽制で動けんじゃろう?」
「キルケ子爵閥が動く以上は、レリント号をアギレラ子爵の援軍に出すのも難しい。
ペリル子爵が一番与し易いが、連中は半人半馬族。平原での強さはかなりのものじゃ」
それは厄介ね。私もケンタウロス苦手なのよね。遠くから弓を仕掛けこちらの大戦斧が届く前に逃げられる。馬と違って小回りも効くし、強弓から放たれる矢は革盾では防ぎきれない。金属盾を持って動くから、こちらはさらに遅くなる。
「クリングオルフは動かせないかしら?」
元々ペリル子爵家は、クリングオルフへの備えでもあるわけだし。
「翼女人や金吸血鬼は土地が欲しくて戦を仕掛ける訳じゃない。男が欲しくて仕掛けるだけじゃぞ?
今は海上交易で北大陸の戦奴がいくらでも手に入る。
連中の苦手な平原までわざわざ出てくる必要はない」
「…フォルちゃんの婚約者ってどんな感じかしら?」
姉さん。まさかと思いますけど…。
「今重要かのう? …正妻はルシア、側室はアイシャが確定じゃろう? ガーランド」
「うむ。後はレオンからの報告じゃが、リム姫様、キリエ・アントン、リム姫様の友人の竜族が1人かのう…」
「…側室の4位、5位が空いているわね。
サート家の三女を入れてもいいんじゃないかしら?」
「クリングオルフそのものではなく、ペリル子爵家に隣接する一族を動かす訳じゃな?」
「それなら乗ってこない?
別に戦えとは言わないの。国境付近で演習でもしてもらえば、後方が気になって集中はできないでしょ?」
「ペリル領の街はあまり防壁が強固でもないからな。
シースコンは黒の竜の里が牽制に協力してくれるはずじゃ」
「…手が早いわね。けど、そう簡単に竜の里が動くかしら?」
プライドが高い竜族を動かすのって結構難しいのよ。策略に組み込むのは危険でしょうに…。
「フォルが別件で誘いを掛けておる」
「…うむ。トーン大森林じゃな?」
「さすがはダゴン家。もう知っておったか」
「エルフがどうしたの?」
「フォルの兄ダイクライムがそのエルフの血筋でもあるんじゃよ」
「それなら問題ないわね」
「キルケは儂らが引き受ける。ホゼルも手を貸したくてしょうがないんじゃないかのう?」
リム姫への援助になるものね。海上で水竜とセイレーンを同時に敵に回すとか不幸以外の何者でもないわね。
この現状なら籠城戦をしていれば勝手に周囲が自滅するんじゃないかしら?
…時間を掛けて嘗められても困るからやらないけど。
「後は儂らの分担じゃな」
「私はアリオーンへ出るわよ」
あそこは人形遣いの泥人形が主体になるでしょうから、私向きだもの。
「そうね。私は海水浴にでも行きましょうか」
姉さんはレリント号の指揮をとるのね。湖上貿易で財を成したジリコン侯爵の出身だし、水上戦は得意分野でしょうね。
「2人とも自分の得意な方面へ行くのか。面倒なペリル軍を受け持って愛する旦那の負担を減らしてくれる気は?」
「ないわ」
「同じく」
ガーランドがため息混じりにこぼすけど、ケンタウロスの相手なんて嫌に決まっているじゃない。
「仕方がないのう。ではハージヒルムの守りはフォルに任せるしかないのう」
初陣を飾るにはケンタウロスは荷が重すぎるでしょうし、ガーランドが出るしかないわね。
それに…ね。
見た限り皆考えることは一緒ね。ハージヒルムに実績のない次期当主がいる状態。専横を考えるやつを誘き出すのには丁度言いんじゃないかしら?




