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転生領主とその周辺  作者: しから
旅立ち編
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63/108

幕が開く

 きらびやかに飾られたパーティーホールの中で、着飾った男女がそれぞれに雑談を交わす。

 伯爵家を寄親とする西部閥の貴族が多いが、中央や南部、北部からも足を運んだ貴族がおり、その数を合わせれば4割に届く。

 距離の関係もあって、東部閥の参加はない。この世界に空間転移何て便利魔法はないからな……。

 今からでもそのチートを寄越せと何処かの神殿で祈ってみるか?

 どちらにしろ、数日の内に月華神教団の教会へ報告に行くんだし。

 そう言えば、その教会の関係者も多数参加している。

 連中は端を金の刺繍で飾られた黒いローブを頭から被っているから、目立つんだよな。

 神に仕える者として顔は見せず、私心なく振る舞うためだそうだが、暗殺者が紛れるのに最適じゃないかと疑うのは、俺が信心の欠片もないからだろう。

 …爺さんが来るまで暇だな。

 周囲の連中はこちらを遠巻きに見ても近付いては来ないし、…本当に駄目貴族ばかりだな。

 分家経由で俺がセルラニア貴族だと聞いているなら、その対応をしなければならないのだが。

 ホストは伯爵家だが、その伯爵家の者が他の貴族に付きまとわれて動けないなら、外国の貴族をもてなすのは寄子の仕事だ。他の地域の貴族がもてなせば、伯爵家の面子を潰すんだぞ?

 俺が外国の貴族と言う扱いである以上、同格の騎士爵では無礼に当たる。

 一番良いのは子爵級だな。ルナライト以外の伯爵となると逆に位階が高過ぎる。

 全員一から外交を勉強し直せ。…爺さんに味方している子爵や男爵もいるんじゃなかったか?

 再教育は後で考えるとして、一番人だかりが多いのは、側室筆頭セーネの娘の内、長女と次女の2人。三女アンネとその娘の周囲はまばら。

 既に目はないはずのアンネに媚びる以上は、情報収集能力が低いと言うことと同義だろうし、一応、顔を覚えておいて損はないな。

 他の側室の子女や孫がいる中で異常なのは、正妻の子なのに人の少ないトールだろう。俺の父ダグラスと同じ正妻の子供であるから、次期当主の最有力候補のはずなのに。

 そんなことを考えていた時だった。フッと天井のライトが消え、急に暗くなる。ガーランド伯爵の入場を知らしめる演出だな。


「皆様。今宵は次代のルナライト家を担う者の披露にお集まりいただきましたことを我が主に代わって感謝致します。

 これより主ガーランドが入場します」


 執事マーネントがスポットライトの中で恭しく挨拶をする。その次代にお前の居場所はないのだがな。


「遠路遥々ようこそ。今宵は当家の次期当主を紹介するパーティーによく参加してくれた」


 そう言ったガーランド爺さんへ会場中から拍手が送られる。さて、一旦出て服を替えないとな。


 セルラニア貴族が着る青地の軍服から肩にルナライト家の家紋『ロッディアムーン』を入れた黒い貴族服へ。こちらはサイズが合わせてあるが封魔糸を編み込んでいない物。魔力を解放できるのは良い。妙な窮屈さがあるんだよな。


「フォルセウス様、準備は宜しいでしょうか?」


 着替えが終わった俺を案内するのはダゴン家執事のセバス。隣で一緒に入場するのはセリオン爺さん。

 遠回りでエントランス階段の上に着いた俺へ怪訝な目を向けるマーネントだが、セリオンの爺さんが一緒にいるのに下手なことは言えないのだろう。

 無言で見つめてくるにとどめている。


「紹介しよう‼ ルナライト家の次期当主フォルセウス・イルン・ルナライト・アルヴィスだ!」


 宣言と共に手招きする爺さんの元へ向かう。

 喧騒が喧しいが気にする必要はない。


「待ってください! その者はセルラニア貴族だと先日紹介されたではありませんか?」

「そうです。しかもただの騎士爵だとも」

「止まれ!」


 ヴェルとナナ、俺の叔母2人が大きく声を上げて詰め寄ろうとするが、レオンを始めとする従士達が、剣を手に掛けつつ妨害する。


「そうじゃな、素性を明かすなら、この子は我が息子ダグラスとはぐれ竜ナナリー殿の子よ。

 ガルドバング王は大切な弟であり、親友の忘れ形見であるフォルセウスを公表前に害されるのを恐れ、この子の為に騎士爵家を準備したのだ」

「本当にダグラス兄の子供かなんて…」


 あ、やっちゃった。案の定、爺さんの眉がピクッと動いたし、俺が気付くレベルを見逃す爺さんじゃないわな。


「大馬鹿者が!」

「何を!」

「…叔母上はセルラニア王国が偽物の次期伯爵を立ててルナライト家を害そうとした。

 それをルナスフィア王国が見抜けなかったと?」

「そんなことは……」

「……今更何をみっともないことを言っているのです?」


 俺の指摘に顔色を変えて言い訳しようとしたナナをピシャリと止める声が響く。

 声のした方、俺の来た反対側から降りてきた女性に注目が集まる。


「ナナ。私は言いましたよ?

 伯爵家の者が感情のままに失言をするなと厳しく教えて来ました」

「…お母様」


 どうやら、側室筆頭のセーネらしいな。


「良い訳は無用。旦那様、この者を生かしておけば当家は主家に弓引く反逆者と言われても反論出来ません。ましてやセルラニア王を公然と侮辱する愚か者。

 即刻、処刑して下さいませ」


 …こえぇ婆さんだな。実の娘を処刑しろって進言したぞ?


「そんな!」

「お母様、それはあまりでは…」

「本当に何も分かっていないのですね。

 ヴェルお前は姉として庇ったつもりでしょうけど、庇った相手が既に重罪人と認識しましたか?

 この子も当家にふさわしくはないのでしょうか…」


 今度は失望していますと良く分かる声。…ヴェル叔母さんよ、相手が悪すぎるぞ?


「すみません。何でもありません」


 …だよな。致命的な失言をしていない以上そこで止まるのが正解だ。

 妹と言えど、自分の命の方が大事だよな。求心力は下がるけど。

 さて、出来損ないの貴族達よ、ここからは俺のターンだ。生き残ってみせろよ?


「祖父より紹介に預かりましたフォルセウスです。この身の保証は私を幼少よりよく知るセリオン様がしてくれますでしょうからそれ以上に語りません。

 それよりも重大な確認もありますので」


 俺の横に立つセリオン爺さんに一瞬だけ視線が集まり、すぐに俺に戻ったのを確認する。


「何があったのかしら?」


 乗って来たのは婆さんか。……ありがたい。このアウェーで一番俺から遠い人の同意が得られれば、説得力はうなぎ登りだ。


「やはりお婆様も気になりますか?」

「ええ。フォルセウス殿の勘違いもあり得るでしょう?」

「そうですね。私の常識がこの国の常識とは限らない。

 私はセルラニアから東方諸国群を通り、この国へやって来ました。

 その道中、ガントラックで見聞の為に街へ出た時の話です。

 そこにいるであろう、セルドア・ガムト公子達が私の護衛をしていたダウトの者に『簒奪者ガーランドの犬』と言ったのです」


 急激にざわつく周囲。この段階でガムトと縁を切るのが正解だぞ?


「…興味深い話ね。

 子爵家の次期当主が依りにも依って自分の家の寄親を簒奪者呼ばわりだなんて!」

「そうですよね。確か叔父上から爵位を奪ったと言っていたかと?」

「あら? 急遽アトラス陛下が王家に迎えられ、その後直ぐに旦那様が呼び戻されたのよ?

 ベイル・ヌルマが次期当主だったと言う事実はありませんのに?」


 こちらがあえて言わなかった『叔父上』の名前をあげるか。


「そうでしたか。私は祖父の襲名の状況を知りませんでしたので、王家の承認を蔑ろにするのかを説いただけですが、最初からあり得ない話だったのですね?」

「当然です。仮に旦那様が次期当主に相応しくなければ、王家に迎えられたアトラス陛下の次子を迎える話。分家とは言え、一度平民に墜ちた身を拾うものですか」


 眼下の貴族が見つめる先にいるのは青い顔の壮年の男女。寄り添うように、セルドアとリンダがいるからあの2人がガムト子爵夫妻だろう。


「これはどういうことかな? まさかと思うがガムト子爵がそのような教育を?」


 代表して口火を切ったのはセリオン爺さん。俺達ルナライト伯爵家の者が問い質すのはよろしくないので当然だが。


「そのようなことは断じて。我らはこの国を守る貴族として相応しい教育を……」

「貴族として当然よな。しかし、その妄言を嫡子が事実として話していたのは何故じゃ?」

「それは……」


 これ以上はセリオン爺さんにヘイトが集まり過ぎるな。


「まさかと思いますが嫡子の教育を怠ったのでしょうか?

 子爵ともあろう者が?」

「そんなことはない!」

「ではやはり、子爵家の意向と?」

「それは…」

「教育を怠ったことは強く否定するのに、意向であることは否定出来ないのですか?」

「…なるほど。自ずと答えが導き出せる話ですね」


 俺の後に続くセーネ婆さんの言葉。真っ青な子爵が憐れだ、止めと行こう。


「違うのです。私は…」

「口ではなんとでも言えますね?」

「証明出来るなら、どのようなことでもやってみせます」


 …バーカ。その一言は絶対に言っちゃいけない台詞だぜ?


「では証明してもらおう。レオン」

「はい。子爵様、お受け取り下さい」


 俺の言葉に首をかしげる子爵を無視して、レオンを促す。そのレオンは切れ味の良さそうな剣を子爵へ渡す。


「どういうことでしょう?」


 ガチガチと震えながら剣を受けとる子爵。分かっている癖に…。


「貴公の子は子爵家の意向を無視し、王家の信義を偽り、寄親の正統を否定する大罪人。

 ならば、自身の潔白を証明するために貴族として相応しい行いを見せよ!」

「この手で我が子を殺せと言うのか!」

「子? 貴公を騙していた者をそのように呼ぶのか?」

「……」


 真っ青な顔の親子を見つめていてもつまらんのだが?

 誰も庇う奴がでないし。そいつもまとめて棄てるつもりなんだけど、先程の婆さんのやり方が効いているな。


「……先にもう一つの問題を解決するかのう」


 爺さんが痺れを切らしたか。


「そうしましょう。こちらの方が深刻ですもの」


 婆さんも賛同したら俺に拒否権はないな。


「うむ。ガムト子爵が否定する以上はセルドア達へ問題を吹き込んだのはベイル達だろう?

 …そうじゃな。フォルよ。次期当主としてこの者達への裁定を任せよう」

「唐突ですね。分家とはあくまで伯爵家の庇護にある平民ですし、一族朗党の皆殺しが妥当でしょうか?」

「な!」

「根拠を聞こうか?」

「ヌルマは平民でセルドアは子爵家嫡子。思想誘導をしようとしたこの時点で子爵家への侮辱罪、…家長の処刑相当。

 内容が貴族足る本家転覆、平民による伯爵への行動を加味すれば、一族直系の死罪が妥当です」

「うむ」

「最後にそれに協力していた共犯として同じ家に住んでいた者達が該当するでしょう」

「お待ちなさい!

 ヌルマ家には、たった5歳の幼女もいるんですよ!

 あまりにも容赦のない物言い。お前は何様ですか!」

「「そうだ、そうだ」」


 近くに立つ女、多分他の分家の者だろうか? そいつが叫び多くの者が賛同の声を挙げる。


「黙ってないでなんとか言いなさい‼」


 威勢が良いな。もう少し我慢しよう。


「どうなのよ!」


 大体、1分くらいか? そろそろかね?


「レオン、もういいだろう」

「はい! 今叫んでいた者はヌルマ家が大罪人と知りながら庇った共犯の疑いがある者だ。逃さず捕らえよ‼」

「そんな」

「待て! 俺は…」


 その一言で一斉に動き出す従士隊。逃げようとして扉の前に立ち塞がるファイトに殴り飛ばされる者達の怒号が騒がしい。


「…何て言うか、馬鹿ばっかりだな」


 頭が痛いとはこの事か? 結構な数の貴族が混じっていないか?


「うむ。大漁じゃのう。

 相当な膿が出ると陛下も喜ぶじゃろう」

「嫌味かよ?

 これじゃあ他の地域の掃除は出来んのじゃないか?」

「最初に声を上げた女はダガルの血縁じゃし、なんぞかんぞ動くじゃろう…」


 実は爺さんも不安なんじゃねえ?


「さて、ガムト子爵よ。お主はどういう行動をとるのじゃ?」


 どさくさでどうにかなるとでも思ったんだろうか? 戻っていた顔色を再び青くするなんて。


「…ガーランドよ。一旦、閉めてはどうじゃな。10歳の少年には辛いじゃろう?」

「そうするか。ガムト子爵は来賓室へお連れしろ。セルドアどもは地下牢じゃ!」


 ガーランド爺さんの宣言をよそに、セリオン爺さんに手を引かれてエントランスホールを後にする。

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