絵描き、竜の姫と邂逅を目指す / 竜の里の主従
ファイトが治める街への写生旅行は、拍子抜けするほどすんなりと準備出来た。
幼馴染みの魔狼族2人を護衛に付ければ、何も言わないと言う態度の執事マーネント。
いつもの気まぐれだと思って、親父へ相談もせずに伯爵子息が旅行に出ることを許可する辺り自分の権限を勘違いしているな。
この時期にこの街への移動は絶対に許さないだろうに。
……いや、親父達なら暗殺者を誘き寄せる餌くらいの感じで嬉々と許可するかも。
「……ロイド様。こちらです」
「冒険者が利用する宿屋じゃないな」
案内されたのはジンクでも一番の高級宿。ここ以上となれば、領主館しかないだろう建物だ。
「『開拓者』のメンバー以外にも、セルラニアの姫君を初め、女性の見習いメンバーが多いせいでしょう」
「へぇ。逆に助かるかな。僕みたいなのがあからさまなボロ宿に泊まろうとすれば警戒されるだろうし」
「そうですね。この宿を見張っている連中がそれとなく注意しに来るでしょう」
「それがこの宿に要人が泊まっていると言っているようなものだけどね」
「珍しいことじゃありませんから」
「ロイド様。部屋がとれました」
「ありがとう」
「我々が荷物を運んでおきます」
「頼むよ」
幼馴染みに荷物を預けて、食堂の隅でキャンパスを広げる。
娯楽で絵を描いている貴族がいれば、活発なお姫様が話し掛けてくれるだろう。こちらから接触した訳でなく警戒もされにくいはず。
ラケシスが上手くやってくれれば、良かったんだけど、ルシアがあんなにも速く動いたのは予想外だ。あの子に苦手意識があるから入っていけなかったんだろうな。
「…何を描いていらっしゃるんですか?」
よし。
……幼い少女の声に喜ぶとか端から見るとよろしくないが、遠慮がちで上品な声に内心歓声を上げつつ、そちらへ目を向ける。
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帰郷から丸1日経ったくらいの時間にやっとリリス様からの呼び出しが掛かった。手紙の中身は相当な難物だったのかしら?
「お待たせしました。リリス様」
「待っていたわよ。メア!」
洞窟へ足を踏み入れた私を待っていたのは、リリス様とティン様、ジュリア様の3人。
この里を治める3つの派閥の次期トップ達。
「驚いていないわね。…私達がいることもあなたの予想通りかしら?」
「それはそうでしょ? アルヴィスからの手紙よ?」
勝ち気なティン様の言葉に穏やかに返すジュリア様。確かに予想通りですね。しかしそれはアルヴィス血統の手紙と言うよりも…。
「内容が内容だから2人にも相談したの。手紙にあった現在のルナライト伯爵家の状況は、ルナスフィア王国内の実情に詳しいグリムゾン血統のティンの考えと一致していると確認できた。
ティンと私だけで状況を進めるのは問題があるから、ジュリアにも声を掛けた。
3人の意見は一致している。この提案は乗るべきだとね。問題は誰を出すか?
…メアはどう思う?」
ここまではフォル殿の思惑通りでしょうね。さあ、ここから私の将来の旦那様を得られるかどうかの正念場です。
「私は、ジュリア様の血統から1名を出すべきかと思います」
「理由を聞いても?」
「これがルナライト伯となるフォルセウス様なら、ティン様の血統でしょうし、ガルドバング様に嫁ぐならどの血統からでも問題ないと思いますが、ダイクライム様は後ろ楯を持たない状態になるかと思います。
ならば、黒の竜の里で最大の勢力を持つジュリア様の派閥が一番ではないかと」
「そうね。…私達が嫁げば、メアの席がないでしょうし」
「それは!」
「いいの。元々メアの手柄なんだから、そのメアが割りを喰うのは看過できないわ」
優しく微笑むリリス様に無言で会釈をする。万感の意を込めて。
「…私は勿論異論ないけど」
「私も構わない。フォルセウス殿と懇意を結べれば、その利益をもっとも享受するのはウチの派閥だ」
ジュリア様もティン様もどちらも了承してくれる。…手紙に書かれていないはずのリム姫からの情報を伝えるのも今が良さげよね?
「あの、1つよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」
「実は此度の旅にガルドバング様の息女リムティエル様が同行されていまして、黒の竜の里の者をガルドバング様に紹介しても良いっと…」
「「「本当!」」」
「ええ、本当です」
…私、タイミングを間違えたでしょうか?
3人とも目をギラギラさせ始めました。
「同じ西大陸ですし、私の血統から出して互いに協力させるのが良いんじゃないかしら?」
「待て、ダイクライム殿に派閥から出す者がいない私の血統にこそ優先順位があるべきだろう?」
「何を言っているの。私の派閥に属するシンクルメアが持ってきた良縁でしょ?
ウチに譲りなさいよ」
これ、先にリリス様に相談しておくべきだったかも……。
尚、深夜まで続いた3者の主張は決着が着かず、各派閥から3人ずつ紹介してみようと言うことになったとだけ付け加えておきます。




