ルシアの困惑
風邪で更新遅れるかと出来るだけ頑張りますが…。
スレ違うメイド達はピシッと背を延ばしつつも小さい歩幅を維持している。
どう見てもウチのメイドとは質が違う。さりげなく、周囲に目をやって警戒を怠らないのも…。
自分達の制圧下にあってなお、気を抜かない姿勢は素晴らしい。
これが他の貴族の普通なら、それを見慣れているお婆様達が嘆くのも当然よね。
「ルシアお嬢様をお連れしました」
「入れ」
私をここまで案内したメイドのメアリーが扉を開けて、私を招き入れる。
中に待っていたのは予想通りの2人と予想外の力の持ち主。
ゆったりとした服を着ている茶色い髪の男性。平凡な顔立ちでとても貴族に見えないが、本来なら私達の主君となっていたかもしれない、セリオン・アルト・ダゴン様と執事のセバス・バート。
そして圧倒的な魔力を放つ少年。
「お久し振りです。セリオン様」
「よう来たのう。堅苦しいのは無しにして、そこへ座りなさい」
セリオン様に促され、2人が座るソファーの対面へ腰掛ける。
正面に座る少年は、間違いなくフォル君なのに気を抜くと平伏して仕舞いそうな強烈なプレッシャーを受ける。
…予想通りにガルドバング陛下の隠し子と言うことかしら。上位血統の竜族らしい。凄い力。
「ほれ、フォル。結界石も長くもたんぞ?」
「ええ、自己紹介を。
ダグラス・ルナライトが1子、フォルセウス・ルナライト・アルヴィスです。
改めてよろしく。従姉殿」
正直な話をするなら驚いて声が出なかった。…ダグラス伯父様の息子?
「驚いたじゃろう。ルシアよ」
「……はい。今まで全く知らなかっただけに驚いています」
「無理もないのう。伯爵家で知っていたのはガーランドとファイト、レオンの親子だけ。
他のダウトでさえ、今回迎えにいくのに参加した連中しか聞いていないじゃろう」
「しかし、セリオン様は知っていました」
「さすがに伯爵家の長子が行方を眩ませるのを放置は出来んよ。何処かの家が偽物の次期伯爵を立てて、悪さをするかもしれんじゃろう?
他に知っているのは、陛下と宰相閣下、月華神の大巫女くらいかのう?」
多分、そう言う不届き者が出たら、喜んで処罰するんでしょうね。伯父様のご遺体をこちらに埋葬しなかったのも、その為の布石じゃないかしら?
そしてこのタイミングで私にだけ打ち明ける意味。
「……私で良いのでしょうか?」
「おや? 随分積極的にアプローチしておったじゃが?」
「私は、彼がセルラニア王の隠し子でこの家の次期当主の後ろ楯となる方とばかり…」
「確かにそれであれば他の貴族達も黙るしかないのう。
じゃが逆であればセルラニアの援助は期待できない。後ろ楯のない次期当主と婚約者であれば、貴族どころか、分家ですら反発するかもしれん」
「はい」
「それこそ、こちらの思惑だけど?」
首飾りを身に付けたフォル君が何気ない風で、とんでもないことを言う。
「思惑?」
「貴族としての在り方を忘れた貴族に、自分の力が何処から何処までかを見極められない愚か者達。
心当たりがあるんじゃないか?」
見透かすような半眼に背筋が寒くなる。今まで見過ごしていた私達の罪を責めるような錯覚さえ覚える。
「脅すでない。ルシアに罪はないんじゃぞ?」
「いいえ、力のないことを理由に見ぬ振りをしてきたのは立派な罪」
「爺さん、俺は別にルシアを責める気はないぞ?」
「じゃったらそんな目で見るな。…とは言え、ルシアは立派じゃな。自分の罪を自覚出来るのじゃから」
「別にルシアが悪い訳じゃない。自分に責任のないのに、他人の行動にまで責任を負うのはただの自己犠牲だぞ?
監督不行き届きはガーランド爺さんと伯爵家の家令長達が負うものだ」
「…相変わらず怖いことを言うのう」
「とは言え、爺さんに現役を退いて貰っては困るのは俺だからな。正直に言うなら、その為にルシアを婚約者として選びたい」
…多分、世界中探してもこんなロマンチックと正反対のプロポーズをされたのは私だけじゃないかしら。
この子、私が一番人望がないから結婚しましょうって言ったわよ!
「フォルよ? もう少し取り繕おうと思わないのか?」
「……。俺は男の竜族でルナライト伯を継ぐ立ち位置に立つから、将来沢山の妻が出来る。その一番上に立つのが人付き合いの上手いルシアの方が望ましいと言うべきだったか?」
さっきよりマシかしら?
「駄目じゃろ…。10歳の子供が何でそう言うことをはっきり言うのかのう?」
「なんとなく、好きとか曖昧な表現より遥かにマシだと思うぞ?
政略結婚は当たり前なんだから、相手に何を求めているか明示した方が誠実だと思うし、こちらが何を提供出来るかを表示するのも重要な気がするんだが?」
「愛はないのか! 10歳児!」
「結婚してから育てるもんだろ!
色ボケするな! 隠居爺!」
「お二方、少し落ち着きましょう?」
こちらを無視して持論をぶつける元侯爵と次期伯爵を宥めるセバス執事。
…この寸劇、配役が逆じゃないかしら?
「さて、耄碌気味な爺さんは無視して、ルシアの意見を聞きたい」
「私は……」
「待て待て、耄碌かどうかは後で話し合うにして、支払う代償を理解しておるのか、確認してからにするべきじゃろうが!」
私を止めるセリオン様。それは理解していると思う。…私の目から見ても両親は貴族の地位を笠に威張り散らすだけでお婆様達を避けている。
メイド達はダゴン家とは比べられない位に怠慢だ。
「私はルナライト伯爵家の娘として正しい判断を降しましょう」
…私の将来の旦那様は変な子になりそうね。




