ガムト家の夜明けは近い……気がする。 / 黒の竜の里
先触れに出した者がセルドアと合流できたと言う報告を持ってきた。
実に都合が良いことじゃ。伯爵家次期当主の指名に跡取りがいないでは後々、他の貴族につつかれかねん。
あの冒険者上がりめもここに来て急な次期当主指名となれば老い先短いのだろう。
後は指名される者にうまく取り入れるかが鍵だな。私の妻はヌルマ家の出身だし、そのヌルマはガーランドの長女ヴェルと婚姻関係にあるから、ヴェルが選ばれれば言うことない。
3姉妹は全て仲が良いから、他の2人でも今よりは不遇の目を見ることもあるまい。
いっそ、アムンとセッセの2つの騎士爵家を併合して大貴族の仲間入りも……。
「御館様、悪い笑顔ですよ?」
「そうだった。ガーランド様の体調が思わしくないとは心配じゃな」
「ええ、次期当主指名とあっても、実際は数年はガーランド伯の監視下にあるようなものです。下手な行動を取れば、次代の権益で割りを喰う可能性もあります」
「分かっておる。……そう言えば、セルドアの奴はしっかりアントン家と繋ぎを付けれたのか?
クリングオルフとガントラックの航路が滞れば、それだけ当家への利益が増すわけだが?」
「恐らくは大丈夫でしょう。たかが騎士爵家の娘を歴史あるガムト子爵家の次期当主正妻にしてやるのですぞ?
反発する訳がないでしょう?」
「そうじゃな。しかし、あやつは誰に似たのか、必要以上に尊大な態度を取る。次期当主正妻にするのはこちらの意向に従って貰うための代償じゃと弁えとるか?」
きっと母親に似たのだろう。あれも威圧的な南部貴族らしい性格じゃ。
「とにかく合流を急ぎましょう」
さっと合図を送り、隊を動かす我が腹心。名門にはそれにふさわしい有能な従士長が生まれるものだ。この事だけは感謝じゃな。
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ルナスフィア王国の王都から南東の方角、ルナスフィア王国とバルトニューム王国の国境沿いの山岳地帯に黒の竜の里はある。
私でも全力で飛べば4日で到着できるのだから、ルナライト伯爵家とは近所と言えるかもしれない。
里に着いた私は、速やかにリリス様の住む洞窟を目指した。本当は家族に挨拶して、一眠りしてからにしたかったけど、もしも2つの書状を姉や妹に見られたら大変だし。
「失礼します。リリス様?」
「あれ? メア? 随分速い帰郷ね?」
いぶかしんでいたリリス様は急に目を輝かせて。
「もしかして恋人でも出来た!?」
と訊いてくる。上位血統格クエント血統のお嬢様と言えど、まだ18歳の幼竜ですものね。恋に恋するお年頃よね。
……これが子竜になって10年もすると血眼で竜族の恋人を探して、成竜になる頃には、多種族の男で妥協する。
旅に出る前は私もこの妥協組だったのよね。里にも7人で男がいるのだけど、クエント派閥の男は三千歳超えのお爺ちゃんが1人のみ結婚している女性は竜族が6人。死別した異種族嫁が20人だと言う。
そこまでくると体力的に20年位に一度子作りをするので精一杯。19年前に産まれたのが目の前のリリス様で、向こう6回、実に120年も先まで予約で一杯らしい。
その後なら結婚して子作り出来ると言われても待てるわけがない。
「もしかしたら出来ることになるかもしれません。まず、この書状を読んでいただけますか?」
そう言って差し出した書類はフォルセウス・アルヴィス様とその祖父ガーランドの2通。
「アルヴィス? 炎の源流と呼ばれている名門じゃない?
けど、フォルセウス何て名前は聞いたことがないような……。
あ!」
「思い出されましたか?」
「黒のナタリーの3兄弟ね!
凄いところと繋ぎを取ったわね。セルラニアまで足を延ばしたの?」
「ちょうど、そのフォルセウス様が、父方の祖父ガーランドを訪ねる旅の途中でして」
「こっちの手紙ね?
…ルナライト? うわぁ……」
ガーランドの名字を見たせいでしょう、同情心に満ちた声が響きます。
「この子大変ね。ただでさえアルヴィス血統の男の子なのに加えてギアナ大陸有数の名家の子供なんて」
「ひとまず、書状を読んでいただけますか?
その間に服を着替えてきます」
「中身は知ってるの?
あまり詳しくは…。
フォルセウス様は悪いようにはしないと言われましたが?」
「ふぅん。一読しておくからメアはゆっくりしてきなさいな」
書状に目をやるリリス様へ「失礼します」と声を掛けて退室する。
後はリリス様の考え次第ね。




