父との邂逅
…各人が使用する部屋の手配もすんだ。
『硬い剣』は護衛報酬を受け取って街へ歩いていった。バートンが北門を出て黒の森の中にある本邸に報告に行ってくれるだろうから、長老方の相手は必要ない。
『開拓者』は明日から少しの間この街周辺で短期依頼をこなして、リム姫やフィン嬢達を鍛えるらしい。
シンクルメア殿もガーランド様とフォル様の書状を黒の竜の里へ届ける為に明日の朝一で出立される。迎賓館の使用は今日だけだから手配は簡単だった。
一番の問題はフォル様のみがハージヒルム城に移動すること。
アイシャを傍に付けることが出来ない以上、変なことを仕出かさないか不安だ。
…ゼリー屋の親子が一緒だから、そいつらと厨房にでも籠ってくれないだろうか?
それにダゴン侯爵家と親しいセルラニア王国の騎士爵次男を害する奴はいないと思うが、調子に乗った者が何かをやらかして、『あの方』が出てくる事態でもなったら…。
「入るぞ、レオン」
そう言って扉を開けた人物を見て、そいつに強打された顎の痛みを思い出す。ガーランド様もご一緒とは…。
「父上。お呼びくだされば行きましたのに?」
「気絶した息子を心配したんじゃ」
心にもないことを!
「それでご用件は?」
「声に多少険が混じっとる。修行が足らんな」
「本当に何の用ですか?
長老の1人と2人がかりで殴りかかってきた息子に!」
「それでも対応が悪い。街門をくぐった直後は襲撃者が最も狙いやすい瞬間じゃぞ?
現にフォル様は対応して見せた」
「…確かに長旅で気が緩んでいたのは認めます。しかし、色々と考えなくてはならないことが多くてですね」
「それよ! ガントラックまで行って帰ってくる仕事のわりにえらく眉間に皺がよっていた。何があった?」
勘付かれていたか。ガーランド様の判断を先に仰ぎたかったのだが、巻き込まれたと文句を言う親父でもないか。
「色々とありました。本当はガーランド様に先に報告をしたかったんですが…」
「良い。書状に書けないほどの内容とてファイトなら問題にはなるまい。お主ら一族を信用できなければ儂が信じれる者などいなくなる」
「ありがとうございます。まず、ガーランド様はフォルセウス様と対話なされてどう感じられました?」
「齢10の子供とは到底思えんかった。伝書鳩の情報から貴族として十分やっていけそうだと感心していたが、それどころの器ではないかもしれんと思ったぞ?」
伝書鳩には転生者の情報を書けなかったからな。ガーランド様には異常に貴族らしい少年と写っただろう。
「その予想は正解です。フォルセウス様は転生者。それもこことは異なる世界出身の方です」
「なるほどな。
異世界の転生者か。伯爵家の変革が必要な現状においては天の配剤と思えるのう」
「それもまたある意味で正しくあります」
「何?」
「どう言うことじゃ? レオン」
「私は船で戻る途中に神と会いました」
「「神じゃと?」」
さすがに想定外の言葉だったらしく、2人して眉をひそめる。逆の立場なら私もそうするだろうからな…。
「ジードと名乗る神です。クライム様とは既に知り合いでその紹介ですが」
「本当に神だと?」
「いやそれよりもじゃ、海上でと言うのが分からん」
「光と共に突如現れたのです。
転移の魔術だと言っておりました」
「なるほどな。では神と言うのは事実か…」
顎に手をやって頷いているガーランド様。ルナスフィアの重鎮ともなれば、そのような情報も持っているのか?
「どう言うことです? ガーランド様?」
「分からぬか?
初代様に神器を与えた月華神様は牢獄の中に突如現れたと言う話だ」
「建国史の一節ですね。亡霊の森を解放する為に兵を集めようとした初代様はハージヒルム城の地下に幽閉されたと言う」
「そこに現れたのは名乗れぬ月の女神。花のような美しい顔に初代様は『月華神』様と呼ばれたと…」
言われてみれば、本来急に現れるなど出来ない状況が一致するな。
「そう言うことじゃ。伯爵家の騎士が乗る船に密航など出来まい?
ならば、神と言うのは本当だと言う証明になる」
「なるほど。では重要なのはその神の用件ですな」
「実はそのジード神が訪れる少し前に強烈なプレッシャーを感じました。その元がフォル様です」
「フォルが?」
「はい。その気配を感じて飛んできたとのことで…」
「転生者で上位の竜族じゃが、まだ子供じゃろうに?」
「その理由もジード神が話してくれました。転生者となるさらに前、前世の前世ですね。
フォル様は数多の神々を敵にして、なお敗けを知らぬ超越者。竜族の創造主であったと」
「それほどの上位者か?
しかし、2度の死を経験した以上はその討伐は可能であったと言うことではないのか?」
「分かりません。どのように死を迎えられたのかは聞けず…、多大な犠牲を必要とするのかも知れません。少なくとも神々は『あの方』が甦るのを恐れていると思われます」
「『あの方』?」
「本来の名もないそうです。下手に名付けて怒りを買うのは避けたいとも…」
「「……」」
…さすがに2人とも沈黙だな。当たり前か。神すら恐れる方が自分達の身内にいるのだから。
「恐らくですが、この事でジード神がガーランド様に接触してくるでしょう。その時に改めて話を聞かれては?」
「そうじゃな。それでフォルの中にいる『あの方』と言うのは王権を望むか?」
「それはないかと。言わば『あの方』にとってはルナスフィアの王であっても些事だと。
下手に束縛をかければ不快を感じるかと…」
「頼もしい味方を得たと考えておくか?」
「そうですな。陛下にご報告しますか?」
「親書を書く。信頼できる配下の手配を頼むぞ?」
不安そうにしながらも動き始めるお2人。後は任せておけば良いだろう。所詮私は伯爵家の手足にすぎない。頭の言うことを聞いておけば良い。




