祖父との邂逅
少し小高い丘の上に建つそこそこ大きい屋敷の一室に通された俺。
元々、ダウト家には伯爵家当主と次期当主用の個室が用意されており、それがこの部屋らしい。
続きになっている部屋はアイシャ用に用意されているとも。
他の面子は別館の客室を割り当てられるとのことで、レオン達が割り振りをしている。
「失礼します。ガーランド様と主人をお連れしました」
コンコンと軽いノックに続いて、初老の男性の声。この屋敷の執事だな。
「入ってくれ」
「失礼します。それではガーランド様、ファイト様。私はお茶を用意しますので」
そう言って出ていく執事を完全に見送る大男と狼系獣人。
「良く来たのう。
…お主が小さい時に1度だけ会ったことがあるが覚えていなかろう?
ここは初めましてと言うことで良いかな? フォルセウスよ」
「ええ。初めましてガーランド様」
「なぁにを2人して他人行儀に挨拶しとる」
「そう言うな。ファイトよ。まともに会話するのは初めての孫に良い格好したいじゃろ?」
「そう言う台詞はまともに面会したら言うべきじゃ!
孫の馬車を襲う不良爺の台詞じゃないわい!」
それには同意する。お前が言うなとも思うけど…。
「儂はファイト・ダウト。この爺の腐れ縁じゃ。
ここまで護衛してきたレオンの父でもある。よろしく頼むぞ?」
「この街を治めるファイト・アルン・ダウト卿ですね。
フォルセウス・アルヴィスです。よろしくお願いします」
「フォルよぉ。そんな他人行儀に名乗らんでくれよぉ。
オル・ルナライトを忘れんでくれぇ」
「イム・ルナライトでもいい気もするけど?」
「…その辺で許してやってくれんかの?」
崩れ落ちて両手を付いた爺さんを憐れんだファイト卿が助け船を出してきた。…反省したならいいか。
「分かりました。
それで何故、この街にいるんですか?」
「うむ。伝書鳩が届いたので一足先に合流したかったのじゃ。
セルラニア王国の騎士爵をハージヒルム城で手厚く歓迎出来まい。勘の良い奴に気付かれても困る」
「使えるなら残せば良いのでは?」
「フォルが継いだ途端に暴れても困るじゃろう?
孫娘達の何人かも繋がっとるのがおるようじゃし。そこらは見極めが必要じゃ」
「分家と言えば聞こえが良いが本質的には伯爵家の庇護下にある平民でしょう?
それだけ足を引っ張られて、何故潰さないんです?」
「少なくとも表面的には真面目に手伝っておる様に見えるからな。…まさかあんな馬鹿な教育を施している家があるとは」
「寄子貴族達も少し整理してくださいよ?」
「無論じゃ。そうでなければあの世でダグラスに叱られる!」
「冷静そうな見た目で熱い人だったんですよね?」
「ナタリー殿はそう言っていたか。儂より遥かに優秀な為政者になれたじゃろうな。左手の指が欠けなければ!」
「本当に、本っ当に残念です!
許されるならダガル侯爵をこの手で」
憤る祖父にファイトも同調する。フォルセウスの父に当たるダグラスは非常に優秀であったが、貴族学校の時期に小指を失う怪我を負っている。武器を握れない貴族では誰も当主と認めないだろう。
なのに怪我の原因となったダガル侯爵の側室に分家から嫁いだ女がいるらしい。
「あのダガルは難しいじゃろうな。じゃが、トリドス家は潰せる!
ヤツの家はガムトとも親しいはずじゃ。公の場でガムトを断罪すれば庇うはず」
「それではこちらの提案通りに?」
「うむ。次期当主のお披露目でな。
兄上も既に動き始めておる」
「噂に違わぬ有能ぶりですね」
「長い年月の内に各所に膿が溜まったのじゃよ。ここらで一掃する必要がある」
大伯父アトラス陛下もだが、伝書鳩の情報でそれだけの予定を組み上げているこの爺さんも結構な喰わせ者じゃないか?
「1つよろしいでしょうか?
何時くらいに起こします?
黒の竜の里にこれから連絡したら、合わせて動けるのは早くて2月後ですよ?」
「時間は敵だ。帰って早々に次期当主指名をすると招待状を出して、5日後にはお披露目をしたい」
「こちらが慌てている振りを装うんですね?
竜の里には途中から加わってもらった方がありがたいですし。
…お爺様には持病でもありましたか?」
冗談を言えば、
「そうじゃな。不治の病が悪化して、ついに次期当主を指名することにしたんじゃよ?」
同じく冗談で返す爺さん。ファイト殿も人の悪い笑顔を浮かべている。
「不治の病、ぎっくり腰ですな?
そう言えば昨日までより腰が伸びていませんか?」
「…おい」
「孫を歓迎して何が悪い!」
「それで倒れたらどうする気だよ?」
「まあまあ、お2人ともお互い無事でしたので…」
「そうじゃ。それに先程の妙な攻撃で腰の痛みがなくなったんじゃぞ?
お主何をした?」
ぎっくり腰が悪化して寝たきりになったら俺が困ると言うのに。
…先程の攻撃。
「俺が雷霊と契約をしているのは知っているんだよな?
雷撃は強力な電圧で相手を倒す物だが、低い電圧でたくさん電流を流す攻撃も出来るんだ。
それをやると全身の筋肉を弛緩させて麻痺状態にできる」
「ぎっくり腰の癖が付いた筋肉を弛緩させたんじゃな?
…初めて見る調味料と良い。この時にお前を遣わせてくれた月華神様に感謝せねばな」
「…ですな。フォルセウス様も長旅でお疲れでしょうし、そろそろ退室しますか?」
「じゃな。ゆっくり休めよ?
ハージヒルム城では忙しくなるぞ?」
「え? 俺は迎賓館で寝てるだけで良いでしょ? それこそ、勘の良い奴に気付かれるんじゃ…」
「親しいセルラニア王国の貴族が訪れているんじゃ。ある程度の歓迎会はするし、ダゴンの爺が近く逗留するからな。その相手くらいはせい」
…その歓迎会で俺の目線からも見極めろと言いたいのだろうな。ダゴンの爺さんは純粋に遊びに来るだけか?




