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転生領主とその周辺  作者: しから
旅立ち編
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終航祭と言う名のバーベキュー

 木製の机の上に鉄製のトレイを敷き、その上に火の魔石を並べてから上に鉄板を置く。それだけで船上バーベキューが出来るのだから、ファンタジー世界はご都合主義だと文句を言われるのだろう。


「ようこそ、若様!

 我がレリント号の終航祭名物、海上パーティーへ」

「お前が何で言う?」

「へ?」


 …本当に分かっていないのか?


「何でアントン家の子息であるお前が、ホスト側回っているんだと言っているんだ!」


 これがフックや最悪レオンでも分かるが、一番ホスト側に回っては駄目なスルトが先陣をきって俺達を迎えに来る。


「駄兄、遺言は?」

「…ああ、手を出すのは待ってくれるか?

 一応、ウチの船員だから」

「どう言うことだ?

 そう言えば、乗船してから全然見ていなかった気がするな」

「はい。こいつをご覧ください」


 後ろから現れたフックがポケットから出した紙には、アントン騎士爵のサインがある。


「何だ? 

 スルト、お前何やった?」


 広げた手紙にはスルトをレリント号の下働きに使ってほしいと書いてあった。


「勘当されたんじゃないですよ!

 大型船の運航を実地で覚えるチャンスだと自分から親父に頼んだんです」

「フック?」

「本当です。さすがオケイアスと言うべきか、潮の流れを読む才能はベテラン以上です。

 それでジェッタへ着いてからは、正式にレリント号の船員見習いにすることになりましてね」

「まだジェネが結婚してないんだろ?

 家を空けていいのか?」

「許嫁はいますから、…そいつを既に家に入れているはずです。

 フォル様のお披露目で自分が従士側、あいつが婚約者連れで登場すれば効果的でしょ?」


 …寄親のお披露目で同伴させるのだから、何処かの家が扇動することも出来ないか。

 そんなことをすれば、伯爵家の面目を潰すことになる。


「難しい顔はなしですよ!

 若様、良い具合に鉄板の上の魚も焼けています。

 盛り上がりましょう」


 まあ、これはアントン家が考えることだからな。

 口を出すことも出来ない話をどうこう考えてもアホらしい。

 甲板には2メートル平方くらいの鉄板が大量に設置されている。


「鉄板ごとに味付けが違います。

 自分の好みのテーブルを探してください」

「なるほど、それであそこだけ一杯なのだな?」


 船首の方にあるテーブルには、黒髪の男女がかたまっている。


「…黒狼共です。

 あそこら辺は肉がメインだと思ってください」

「…アイシャ。今日はお前もゲストだから」

「失礼します!」


 アイシャの視線に屈した俺は早々と単独行動の許可を出した。耳がピンっと立って凄い嬉しそうに黒山の人だかりへ向かうアイシャ。


「本当に肉が好きよね。あれって殆ど保存用の肉でしょ?

 せっかく新鮮な魚介があるのに」

「ソーセージとベーコンがメインですね。多少は普通の肉もありますけど、1人1切れ渡るかどうかです」

「まあ狼だからしょうがないだろうな」


 …犬って魚も食べるよな?

 むしろ、猫の方が肉食性は強い。環境の差だな。樹上生活をしていた猫は体格が華奢だから、濡れて体温が下がるのを嫌うのに対して、体がしっかりしている犬は濡れることを怖れない。

 当然、犬の方が魚を獲得できる頻度は上だった。

 猫が魚好きと言うイメージは国民的長寿アニメのオープニングのせいだ。子供の頃からあの歌を聞いているせいで魚が好きと思い込んでいるだけ。

 …違うか。日本に帰化した猫は蛋白源として魚を食べるようになっただけか?


『猫って昔からいたんじゃないの?』

『猫は元々暖かい地域に住む動物だ。日本には平安前後に持ち込まれた外来種。

 鵺の伝説も御所で飼われていた猫を化け物と思って殺してしまったものだろうな』

『鵺ってキメラだよね?

 確か、猿の顔で虎の体の』

『加えて、蛇の尻尾と人の赤子のような不気味な鳴き声だな。

 虎柄の縞猫を大袈裟に言えばそう見えるだろう?』

『なるほど。けど化け猫の怪談とか多いじゃない?』

『外来動物だから、昔の人は気味悪がったのが真相だろうな。

 ネズミを捕る動物は日本では信仰されやすいのに猫は聞かんだろ?』

『キツネのことね』

『ああ。だから日本人はキツネが大好きだぞ?』

『へえ。正直どうでもいい豆知識ね。

 黒狼っと言うか、魔狼族って森に住んでいる種族でしょ?

 肉が一番親しんでる食べ物じゃないの?』

『ああ! 狼なのに性状は猫に近いのか!

 そういえば、優秀な暗殺者を多く出している種族だな』

『そんなこと言ったら怒られるよ?』

『言わんよ。さて、適当な鉄板へ向かうか』


 適当にと言ったが、目的地が既に決まっている。見覚えのある黒い瓶置かれたテーブルがあるのだ。ボウルも置かれているいるし、ここ以外はあり得ないだろう。


「…何しているんです?」


 辿り着いた鉄板台ではリムが困っていた。


「聞こえてないわよ?」


 リムが肩を竦めて、困惑しているシンクルメアを他所に船員を呼ぶ。


「いつものか?」

「多分」


 部屋に放り込んでもらうように頼まれた船員に代わって、フックがやって来る。


「…クライム様はどうなされたのでしょうか?」

「私も何がなんだか? リキュールの果実水割を飲まれたら急に…」


 フックの不審な視線に戸惑いの表情になるシンクルメアが茫然と答える。


「「やっぱり」」

「どう言うことです?」

「兄貴は酒に弱いんだよ。果実酒用のリキュールなら、数滴垂らしたものでも酔うだろう」

「そのくせお酒大好きなのよ」

「確かにお酒に弱いと聞きましたが…」


 だよな。竜族基準、…蒸留酒を樽ごと飲み干す連中と比べれば弱いと思ったのだろう。

 そんな兄貴と行き違ったらしく血相を変えたアグルと呆れ顔のジーヌとラミーがやって来た。ジーヌの妹フィンとメルも一緒だ。


「何事っすか?!」

「相変わらず酒に弱いのですね」

「へ?」

「冒険者仲間だけにジーヌ達は知っていたんだな。酒を飲んでぶっ倒れただけだ。さいわい、半分に薄めたリキュールだから、二日酔いにはならないだろう」


 呆れた顔のアグルとは違い、ラミーがジーヌを連れて離れる。まあ冒険者仲間の内緒話だろうな。


「あ、私は妹達の案内をしてきます」

「自分も肉が良いっす。じゃ!」


 スルト&アグルがさっさと離れていく。何となく嫌な予感がしたのだろう。

 あの2人から聞こえてくる単語の中に、ニンチやアイショウと言う微妙に不安な単語が混ざっていたからじゃないだろうな!


「失礼しました。2人ともコートを脱ぎなさい」

「「え?」」


 …何故コート? 別にフードで顔を隠している訳じゃないのに?

 しかも2人とも嫌そうな顔をしているが?

 って! この気配は。

 リムとシンクルメアも顔を見合わせる。やはり俺の勘違いじゃないのか。


「改めて、私の娘達を紹介します。

 フィン・アルヴィスとメル・アルヴィス。混じり子です」

「どう言うことだ? 混じり子と言うのは?」

「それよりもアルヴィスってことよ?!」

「落ち着きなさいな、竜族の男性が他種族と交わるとどうなるか知っているでしょ?」


 かなり弱いが間違いない竜の気配に驚く俺とリムを宥めたのがシンクルメアだった。


「相手種族が生まれるんだろう?

 普通より魔力が強いらしいが…」

「それが普通の答えなんだけどね。たまに相手種族の特徴を持つ竜族が生まれるのよ。それが混じり子。竜としての格は極端に低いけど、2つの特徴があるわ」

「2つ?」

「まず、女性でも男性を殺すことなく妊娠出来る。それで生まれてくる子供は普通の竜族と違い、一般的な高魔寄魔族くらいの性別比で男の子が出来る…」

「高魔寄魔族? 魔人族とかだな。…1対3くらいか?」

「ええ。だから私達は祝福の子と呼ぶこともあるわけ」

「…竜族の男を増やす最も効率の良い手段なわけか」

「あまり良い話じゃないけどね。竜族以外にとってはリスクなく竜族の子供を手に入れられるチャンス、竜族にとっては同族の男を確保できるチャンスなのよ?」

「…その混じり子の子供が他種族と交わるとどうなるの?

 結局、低位の雌竜が増えるだけじゃ?」

「混じり子の孫ね?

 大抵、混じり子の相手親種族になるんじゃなかったかしら?

 混じり子が生まれるくらい竜族に関わりが深い種族なら間違いなくその子を囲っちゃうでしょうから、そのせいかもしれないけど…」


 …シンクルメアの説明に4人して暗い顔をするジーヌ達。大変だよな。アルヴィスを名乗る以上は俺達も関係あるんだろうけど。


「どう考えても黒の竜の里に助力を願うべき案件だな。そう思ったから、打ち明けたんだろう?」

「ええ。シンクルメアさんは里の竜族にしてはかなり穏和でしょ?」

「…で、アルヴィスっと言うことは?」

「リムちゃんの従姉妹になるわけよ。始めての遠征で未開放遺跡を探索して大成功しちゃってね」


 …遠征で大成功と言うと、15年前の北へ行った奴だな。彼女達は14歳と聞いているし計算も合う。


「叔父様…」

「いや、あれだって私が求めちゃったわけだし、この子達のことも秘密にしていたのよ?

 里で生んでウチの家族に面倒を見てもらっていたんだけど、族長に目を付けられてね」

「竜族とはバレなくても魔力の高さは分かるよな…。

 混じり子と言うのは、ラミーさんが?」

「ええ。文献でね」


 さすが天使に連なる人物。…年の功だな。


「他の家族は落ち着くまでギーグの工房で面倒を見てもらっているから良いんだけど」

「この2人を守り通すのは難しいな。拐われたらそれまでだ」

「その家族が人質にされたりは?」

「それはないだろう。

 その族長達は魔力の強い娘程度の認識だろ?

 ギーグの所はドワーフの工房だぞ? そんな大事にしたらセルラニア王国を敵に回すことになる」


 …それよりも血統の管理は竜族として絶対しなくてはならない問題だ。それを怠ってました。酔った勢いで子供を作って知りませんでしたなんて。


「ガルド兄さんが知ったら、どうすると思う?」

「多分、顔が変形するくらい殴るんじゃないかしら?

 いくらパパでもこれは…」


 おお、リムも動揺しているな。普段お父様と読んでいる兄貴をパパ呼びだ。とは言え、今打ち明けられるのは不味い。


「リム、この面子は巻き込むべきだぞ?

 隠し子扱いが必要だ」

「そうね。私達の部屋に戻って説明するわ。叔父様の監視は?」

「フック。信頼できる船員を派遣してほしい。

 俺はアントン家の令嬢の相手だな」

「ええ。お願い」


 全くあの兄は、酒は飲んでも呑まれるなと言う標語を知らんのか。

 ゆっくり船上パーティーどころじゃなくなったぞ。

ここで「27話 出立前夜宿屋にて」でさらっと流していた伏線の回収をします。

今回は、今まで出来るだけ書かないようにしていた二人の少女が、実は非常に価値のある人物でしたと言う暴露回ですね。


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