ガムト子爵家の斜陽
「いい眺めだ!」
「本当にね。あの者達もこの光景に絶望するはずよ!
歴史あるガムト子爵家を敵に回してしまったと!」
上機嫌の若様とお嬢様の様子はあまりに酷い。
タカリ仕事に行く海賊をわざわざ見学に来る等、貴族として少しでも弁えていれば、絶対に行わない行為だろう。
そもそも港を出ようとしている船はたった7籍。
とてもタカリ仕事をしに行く数とは思えない。それでも世間知らずの2人の目には頼もしく写るのだろう。
「隊長、よろしいので?」
その2人に追従して喜ぶ他の部下を横目にしていた私へ小さく耳打ちをしてくるのはバント。
新米だが、元冒険者なだけに他の従士達と違い現状の厄介さを理解している。
引っ張って倉庫のある区画へ移動する。
「しょうがないだろう?
今日の夕方の大陸航行船で本国に帰還したとして、向こうから数日遅れて到着だ。
我々より伯爵様のご使者が書状を持ってくるのが先だろう」
「先に誠意を見せれば、彼の伯爵家と言えど強くは言えないのでは?」
「その手を既に封じられている。若様達は私をやや遠ざけて、食事も一緒には取らなくなっているだろう?」
「……無能な癖にそう言うところには気が回るんですね。さすが、臆病者の末裔」
「子爵領では言わないでくれよ?
捕らえなくてはいけなくなる」
「その対応のせいで余計に真実味がましてますよ?」
「やむを得まい。子爵領令で初代を臆病者の呼ばわりしたら、侮辱罪に問うと定められているのだから」
…真実味を増すも何もセリス様が茂みのウサギに驚いて、行軍を遅らせたから壊滅を免れたのは本当らしいしな。
『臆病者も希に役立つから侮れん。今回の功績は子爵になれるだけの物だろうから子爵の地位を、土地は余り物を適当にやる。
3代アムトロ陛下はそう言って笑った』
とルナスフィア国緒貴族史。つまり王国の正史に書かれている。
…王国のとってのガムト家の扱いはその程度だ。
「どうするんです?
あの船達がレリント号の足止めを出来るとは思えませんよ?」
「恐らく追い付くことも出来ないだろうな。ガムト家に戻ったら、セッセ騎士爵家に私の妻と娘を里帰りさせたい。バントはそれの護衛を頼めるか?」
「それはルーグ様が一緒に里帰りをされては?」
「駄目だ。代々ガムト子爵家の従士を勤めてきた私ではセッセ卿も警戒するだろうし、娘を不忠者の娘にするのは避けたい。
その点、お前は従士に取り立てられて半年。いくらでも言い訳が出来るだろう?」
「早急に子爵様へ事情を説明すれば、取り返しもきくのでは?」
「間に合わんよ。子爵様がセルドア様をすぐに排除出来るとは思えないし、かといって諸侯軍を編成するのは間に合わない」
海戦ならともかく、陸戦で伯爵家に勝てるわけもないしな。
「それでは無駄死にではありませんか?」
「若様の世話係を任されながら、それに失敗したのだ。ならば最後までお供するのが筋。無駄死にではない」
…目をグッと閉じるバントには悪いが、こう言う生き様を晒せるだけ私は従士としては幸せだと思う。
「最後の船旅を楽しむとするさ。あちらの港に着いたら、お前はその足で子爵領へ向かえ。いいな?」
「すみません。ルーグ様」
ガムト子爵家の征伐に早い段階で準備が出来る情報を送るのだから、セッセ卿も無下には扱わないだろう。




