海の危険と…
「若大将、そろそろ夕食だ。食堂に来てくれ」
何となく海を眺めていた俺はフックに付いて食堂に向かう。1時間おきに食事時間が決まっているから、あまり迷惑もかけれないしな。
船体第2層の中央、一番大きな間取りを取っているのが食堂で非常事態に一番安全なのもここらしい。レリント号が沈没してもここだけで2ヘップ級の中型船として機能すると自慢していた。
「若大将はずっと海を眺めていたが、何か興味深いものでもありましたか?」
「いや、ガムト子爵に雇われた海賊まだかな? と思って」
並々注がれたスープを受け取り、蒸かした芋やソーセージを適当に取って皿に乗せながら、フックに返す。
「多分来ませんぞ?」
「来ない?」
空いている長テーブルの奥に座る。今日は兄さんとリム、アイシャにレオンが同じ食事時間のはずだったがまだ来ていないな。
「連中はアゼ坊が、大陸航行船に乗ると思っていたはずですからな。
大慌てで準備をして、この船を襲うなど聞いていない漁師を説得。今頃やっと出航準備が出来たくらいでしょう」
「今日の夜に夜襲か?」
「若大将。ここは海の上ですぜ、連中の出航は明日の朝。いくらこの船がのんびり進むと行っても、夜通し航行する以上は追い付くのは無理でしょうね」
「夜に動かすのは危ないだろ?」
そう言った俺にニヤリと笑うフック。海賊面にドヤ顔が似合いすぎていらっとくるが。
「それこそこの船の最大の利点です。この船は船底と側面に防御魔術が施されていましてね。
夜動かしても座礁しないんです」
「魔力が勿体ないだろ?」
「勿論、既設航路を昼に航行する時は解除してありますよ?
ですが新しい航路開拓で一番怖いのは暗礁なんです」
「船が潰れたら終わりだからな」
「正直、サーペントやクラーケンなんかよりはるかに怖いですね」
「大海蛇や化け物イカ以上か…」
「船乗りが一番恐れるのはこれですがね」
そう言ったフックのスプーンはスープ皿とぶつかる。スープじゃないな。
「食料不足か?」
「ちょっと違いますね。
水不足ですよ。海の上だろ? って言いたいかもしれませんが海水はそのまま飲むと反って体が渇くんです。だから、水不足が一番怖いですね」
「興味深い話じゃないか?
その割に、この船はあまり水を積んでいないようだが?」
そう言って割り込んできたのは山盛りのソーセージを乗せた皿を持ってきたクライム兄。
「実はこの船には海水を真水にする機械が積んであるんです。
仕組みは知りませんが」
「3層一番船尾の部屋のあれかな?
他は大体使い道が分かったけどあれだけ不明でね?」
「そうです。
右端の注ぎ口に海水を入れると左端の樽に真水が溜まるんですよ」
「実に面白そうだ。他にも聞きたいことがあるから詳しい者を明日の朝から付けてくれないか?」
「…楽しそうですね」
「それはそうでしょう?
夕食の時間も忘れていたくらいだもの」
「リム?」
「探し出すのに苦労したわ。誰に聞いても『先程までその辺で見たような?』よ!」
スープとソーセージ2本だけを乗せてきたリムが椅子に深く座り込む。
「お疲れ、その辺の者に頼めば良かったんじゃないか?」
「この船の上じゃ私や叔父様はどうでもいい客なの。そこまで厚かましく出来ないわよ!」
「いえいえ、2人とも大切なお客人です。遠慮なく我々を頼ってください」
レオンとアイシャの親子が、ソーセージ山盛りの皿を持って登場。
「お主ら、ソーセージばかりでなくスープとジャダ芋も食え。遅飯連中が、芋とスープにしかありつけんじゃろ!」
兄貴とリムが首を傾げ、レオンとアイシャが目を逸らす。前者は知らず、後者は故意か。
「食料が限られている船の上では、一度の食事で調理される食材の量が決まっているくらい、予想できるだろう?」
「「…ああ」」
「うむ。さすが若大将!
言わずともそこまで理解しておったか!
さらに言えば、残すのも勿体ないから禁止だ。遅い飯時間の連中は嫌いな料理を大量に食わされることもある」
「その辺の平等は出来ているようだが?」
「うむ、儂や若大将が遅い飯時間の日もあったでしょう?
あまり質が悪いことしていると罰を受けますよ」
「分かった。次から気を付けよう」
そう言うクライム兄は問題ないだろう。問題は…。
「「……以後、気を付けます」」
3人のジト目に負けた狼親子だろう。
「そう言えば、この海にはサーペントやクラーケンが出るのか?」
「出ますね。この船なら怖くない相手ですが、大陸航行船とかでも襲われて難儀することがあるとか。北よりの航路を通ると魚鱗人と言う魔族の棲む領域があるのですが、連中がサーペントを飼っているんです。そいつらのはぐれが出る感じですかね?」
「サハギン。どこの国にも属さないんだっけ?」
「ええ。西魔洋中央部付近の水深の深いところに棲んでいます。海洋系の魔族で、独立勢力を維持しとるのは連中と魚頭人くらいですね」
「クラーケンは?」
「あいつらはどこにでも現れますよ。内陸の湖にもレイククラーケンと言うのがいるくらいです。まあ旨いからこの船でしたら積極的に狩る相手ですが」
……旨いのか? 地球の大型イカはアンモニアの濃度を体内で調整して、浮力を得ているから不味いと聞くが不思議生物だな。
「……南よりを通れば、サーペントに遭うリスクも下がるんじゃないか?」
「もうちょっと南を通ると10を越える小島がある領域があるんですが、そこの鷲獅子に襲われます。
連中の方が厄介ですね」
「シースコンの仕業かい?」
顔をしかめるフックに兄さんが問い掛ける。シースコンが何かあるのか?
「フォル様、シースコンは山が多いあまり豊かではない国ですが、3つ特徴的なものを持っています。果実と水に関わる魔道具の技術。最後が鷲獅子乗りです」
「ありがとう、アイシャ」
「逆です。シースコンのグリフォンは、その島のものを飼い慣らしたのが由来です」
「そうなのか。どうやったんだろうな?」
……ほしそうだな。俺もだけど。馬を遥かに超える輸送能力は魅力的だ。
そんなことを考えていたら、入り口が賑やかに…。
「不味いですぞ!
第2陣が参りました。邪魔になる前に各自食事を終えて退出してくだされ!」
フックの号令で皆急いで食事を掻き込み始める。
…ゆっくり話しすぎた? 飯時の雑談は厳禁だな!
程よく冷めたスープで芋を流し込みながら、明日から気を付けようと心に誓う夕食となった。




