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転生領主とその周辺  作者: しから
旅立ち編
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出航直後に、…密談中

 レリント号はその巨大さに見合うのんびりとした速度で陸を離れる。

 驚くほど揺れない。アフロ沖を航行していた商船は、絶えず震度3以上の地震に見舞われている様だったが、今の揺れは座って始めて分かるくらいに弱い。


「若大将! 今は大陸を離れたばかりだからそこそこ揺れるが、半日もすればそれも分からないくらいに治まるはずじゃぞ?」

「これでそこそこ?」


 フックの言葉に眉をひそめるのは、マイケルの船で一番最初にダウンしたリム。


「陸から離れるほど揺れは治まりますぞ?」

「大きいほど穏やかだろうしな」


 フックの返事に俺が続くと膝から崩れおちるリム。…ああ、リムはあれが超ハードモードだと知らなかったか。

 アイシャは頷いているところを見るに知っていたようだが?


「私は元々魔大陸出身です。大陸航行船があまり揺れないのは知っていました。

 ……これほどだったかは自信ありませんが」

「それはこの船が特別ですから。

 この船は魔大陸最大の大きさを誇る船。内陸部にある王家は船を持っていないからではありますが、レリント号は陸沿いに魔大陸を1周する計画の為に造られた海洋冒険船で、半年くらい陸に上がらなくても船上生活できるように設計されているんです」

「そんな冒険をしているのか!

 すごいじゃないか!」

「いやぁ、訓練期間中にガーランド様が伯爵になっちまって計画倒れしているんですわ」


 …そうだよな。そんな熟練の乗組員ばかりなら、アントン騎士爵に船乗りを借りる必要がないし。


「当時の技術の粋を集め、魔術による水平維持等の採算度外視の設備を備えている船自体が1つの魔道具と言っていい代物ですが、現状はただの豪華客船扱いですね」

「おい」

「しょうがないでしょう?

 継承問題で領内が荒れていたのです。未だに分家やその支持をしている貴族とは利権争いが絶えません。外部へ目を向けるのは当分先です」

「伯爵家も意外に問題を抱えているのね。セルラニアの王家と結び付きが強くなるとどうなるかしら?」

「より安定するはずですな。ダゴン侯爵家とも縁が強くなりますし申し分ありません」

「だって! 聞いた? フォル」

「? ああ、だから俺が生まれたわけだろ?」

「…駄目だ。こいつ」


 …失敬な。リムよりは真面目に貴族している自覚があるぞ。そうだ、今の間に2人に今後の予定を話しておこう。


「何が駄目だとか言いたいことはあるが、実は兄さんについて話がある」

「クライム叔父様について?」

「ああ。2人も兄さんが未だに自分の領地を持たない状況には困っているだろ?」

「! ええ。本っ当ぉに困っているわ!

 私達の面倒をみてくれるのは有難いけど」


 リムの実感のこもり具合が酷いな。兄貴何かやったのか?


「……。今アフロ王国が争っているのは、トーン大森林のエルフ達だ。 ここはアーバイン様、兄さんの父親の出身地だな」

「そこへ叔父様を守護竜として差し出すの?」

「差し出すって人聞き悪いな。将来その地を治めてもらえると色々都合良いなと思っただけだ」

「一緒でしょ?

 ? 将来? 直ぐに向かわせた方が誠実に見えない?」

「リム様。集落に住んでいるエルフは大抵プライドが高く強情ですから。集落を出たアーバイン様の子供を自分達の長に据えるのは我慢できないかと」

「今年くらいは色々と手を借りたいと言うのもあるがな。

 兵の質で言えばエルフが上。短期で見れば奴等の方が有利だから、そんな時に手を貸しても恩が売れない」

「兵の質で勝っているなら、エルフが勝つんじゃない?」

「エルフは防衛戦で、アフロの兵は侵攻戦だからな?

 アフロ軍は100回負けたってかまわない。最後の1回に勝てば取り返せるんだ」

「逆にエルフは1回負ければ巻き返しが難しいのね。数も少ないし…」

「ああ、消耗品の備蓄は徐々に危うくなる。森の奥で食料を確保して集落に持ち帰れるとしても大体1年で陥落するんじゃないかと思う」

「駄目じゃない。さすがに制圧された後じゃ叔父様でも巻き返せないでしょ?」

「消耗品はアントン騎士爵経由で供給して2年ほど、苦しい防衛戦をしてもらう予定だ」


 そこまで話すと一斉にドン引きする3人。

 非常に心外だ。


「のう若大将、いくら上位血統アルヴィスの血筋と言え、兄君もまだ子竜であろう?

 消耗したエルフと協力してどうにかできるのか?

 伯爵家にそんな人的余裕はないし、セルラニア王国が動けばサザーランド帝国が黙っていないじゃろう?」

「あちらに着いて半年くらいしたら、兄さん達には黒の竜の里へ行ってもらう。次期伯爵の親書を届ける名目で。

 伯爵家の権威を持って気楽に魔大陸を冒険できるなら、あの兄さんが見逃すはずはない」

「黒の竜の里を利用するんじゃな?」

「人聞きが悪いぞ、フック。

 こちらはこれからの友好的関係の為に状況を拡散するだけ。とは言え、上位血統アルヴィスの子息が訪れるのだから、事前に連絡を入れておくのが筋だな。

 エルフのことをついでに書いた書状をシンクルメアに届けてもらおう」

「どう考えても、利用する気満々じゃない。

 叔父様は竜族にしてはお酒が弱いって書き忘れちゃ駄目よ?」

「おっ。既成事実狙う気か?

 リムこそ酷いな。俺はそこまで悪党じゃないぞ? ああ、兄さんはインテリ美女や自分を無心で慕ってくれるやや幼めの子が好みだと書くのを忘れちゃいけないな!」


 …多分黒の竜の里と、はぐれ竜の中で兄さんを狙っている美女の方々が大いに活躍してくれるだろう。

 俺達が学園に通っている内に決着付くかな?


「クライム様のご意志はよろしいので?」

「アイシャ。俺が伯爵家継ぐまでにある程度形にしておかないと格好が付かないんだから、後から知った所で兄さんは反対しないって」

「叔父様ならラッキー、このまま領主やってようくらいでしょ?」


 …リムのやつも何か企んでいるな?

 まあ利害は一致しているのだからいいか。後はシンクルメアに根回しをしないと…。

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