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転生領主とその周辺  作者: しから
旅立ち編
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38/108

レリント号乗船

 3本のメインマストで推力を産み、2本の補助マストで小回りをする軍船。全長は7ヘップ。これは船を測る為の専用単位らしく、地球どころかこちらでも初めて聞いた単位だが、小型の漁船が半ヘップで俺の大股12歩分位。だから1ヘップは10メートル位だろう。

 そうなると約70メートルの大型帆船と言うことか?

現代日本で言えば、フェリーが約200メートルだから大きいとは思わないか?

 ……対象が悪いな。アメリカ大陸を発見した時、コロンブスが乗っていた大型帆船サンタ・マリアが約20メートルと言われているから、3倍半以上になるし。

 ガントラックまで乗ってきた商船が1ヘップ半。

 一般の大陸航行船が、3ヘップと言う方がこれの異常な大きさを理解しやすいかもしれない。


『回りくどいよ?

 船の甲板で運動会が出来る大きさでいいじゃない』

『運動会は無理だろ?

 縦70メートルの幅30メートルだぞ?

 ……出来るな』

『でしょ。

 それより早く乗らないの?

 後、1時間くらいで出発でしょ?』

『今乗るとリムに睨まれるんだよ。

 せめて、ケンタ家族と一緒に乗るべきだ』

『誰よ、ケンタって?』

『ゼリー屋。一応、大きめの容器に作って持ってくるように言ってある』

『リムとアイシャへの貢ぎ物ね!』

『機嫌を取ると言う目的を考えれば間違っていないな。

 他の女性陣の分もあるけどな』


 男ども? 知らんな。

 兄を除けば俺の護衛だし、兄貴は目をキラキラさせて船内を探検している。

 ……アグル? 一番下っ派だし。


「フォル? 何しているのよ?

 さっさと乗りなさい!」


 船上からリムが大声をあげる。…昨日まで静かだったのに。

 隣に立つアイシャもすっかり顔色が良い。一番旅慣れていない2人があれなら他の面子は大丈夫だろう。


「ここで雇ったデザート屋を待っている」

「「デザート屋!?」」

「ああ。言っていなかったか? ゼリーと言う柔らかくて甘いデザートを作る職人を雇ったんだよ」


 2人とも凄い目を輝かせているな。今朝までの不機嫌は治まったか?


『そっちは自業自得でしょ!

 やっと起きてくることが出来るようになった人にトラブル起こして、すぐに出立することになった。

 今日出航だ!

 何て言えば誰でも怒るよ!』 

『他の面子は昨日までに復活していたからな。

 まさか、誰も伝えていなかった何て…』


「遅くなりました!

 申し訳有りません!」


 俺の前に来るなり、いきなり土下座する中年夫婦。…連れてきた小さい女の子がキョロキョロしている。


「いや、こちらこそ急な出航となった。それに合わせてくれたこと感謝する。

 楽にしてくれ」

「畏れ多いです。あのルナライト伯爵家の御曹司様とは露知らず」

「そう言えば、貴族であることしか言っていなかったか。

 伯爵家次期当主の肩書きは気にするな。あくまでお前達は俺が個人的に雇うスタッフだ」

「はあ……」


 イマイチ不安そうだが、今は土下座を止めたのだからと納得しておこう。


「ひとまず、荷物を持って中に入れ。お前達用の船室を用意させている」


 俺に続いて恐る恐る付いてくるケンタ夫婦。楽しそうな娘を見習ってほしいものだ。


「そう言えば、護衛についていた2人は?」

「はい、先程港の入り口で別れました。別の任務に着かれるとのことでした!」


 本当にガチガチだな。そのうち慣れるか?


「お兄ちゃん!

 あれなぁに?」


 そう言ってケンタの娘が指差すのはキャスター付きの台に巨大な弓をくっつけたような物。……俗に大型弩砲(バリスタ)と呼ばれる兵器だろう。

 幼女にそのまま説明しても良いのか?


「あれはバリスタと言う大きな弓だよ。イリアちゃん」

「スルト様!」


 アントン家の者はあのゼリー屋に足繁く通っていたのだし、顔見知りでも不思議ではないか。


「彼らの案内は任せてください。船長に挨拶されては?」

「あの、フォル様。こちらを!

 今朝用意したゼリーです!」


 大きな容器を渡して、スルトに付いていくケンタ親子を見送りつつ、こちらへ向かってきているアイシャを待つ。


「フォル様、こちらが先程仰った変わったデザートでしょうか?」

「ああ。冷やすとより美味しいのだが…」

「無理を言わないでください。氷属性は、水と風の両方に適性がある者しか契約できない属性ですよ?

 魔術師1000人に1人の希少な才能の持ち主にそんな依頼をしたら怒られます」


 ああ…。牛乳が飲まれないわけだ。人間種族だと5人に1人位が魔術師だから、5000人に1人の才能の持ち主を雇用する訳だろ?

 冷たい牛乳1杯で下手すると家が買えそうな気がする。


「俺は船長のフックに用事があるお前達で食べてくれ」

「分かりました。お預かりします」


 アイシャの眼圧に負けてゼリーを差し出した。…と言うのは冗談で、出航までに船長と打ち合わせがあったのも事実、船長室へ向かう。



「おお、若大将。丁度良いとこに来られた。レオンと一緒に打ち合わせをしていたのだが、若大将の意見も聞かせてくれ!」


 もみあげと髭がくっついた海賊面の大男が扉を開けた俺に声をかけてきた。

 海賊みたいな見た目ではあるが、歴としたこのレリント号の船長だ。

 普段から船の上で生活している本物の海の男。…ただし、本職は漁師。

 配下の30人も半分は小さな漁船で伯爵領の食卓に貢献している。残りは船大工。一見、奇妙な話だが理由がわかると納得できる。船と言うのは値が張るものだ。しかも海に浮かべて使うから消耗も大きい。

 ましてや、動力を帆に頼る以上は数人で動かす必要があり、1籍座礁すれば、数十人の生活を危ぶむ。

 それが行き着く先は、海賊などの海上独立勢力の誕生。多少壊れた船でも、潮の流れを知っていれば、商船とかは襲えるわけだな。

 それを避けるために伯爵家は船とその維持コストを提供し、従士に組み込むことで対策を講じている。

 フックはレリント号を動かす時は、普段の従士隊海洋隊長と言う肩書きの漁協リーダーに加え、レリント号船長になる。

 漁協と言うのは駄目か。…漁師ギルドと言う形で伯爵家に属さない漁師もいるわけだし。


「私旗下の従士隊を動かし、ガムト子爵家の者が泊まる宿を張らせましたが、向こうの従士と思われる者が忙しく出入りしていたそうです。しかし、アントン騎士爵始め4家に面談を求めた様子はないとか」

「ガントラック内で暴れる気はなかったと言うことか?」


 自分の治める土地じゃないんだ。下手に動けば身の破滅では済まなくなる。

 最低でも、口添えしてくれる貴族がいなくては…。


「恐らくですがな?

 儂の部下が酒場で割りの良い海賊仕事に誘われておる」

「海賊仕事?」

「海賊と言っても貴族が後ろに付いた示威行為ですな。

 大物商人への圧力や敵対する貴族への嫌がらせなどの為に行われるものです。普通の酒場で真っ当な漁師に声を掛けるなら、裏の海賊仕事じゃないでしょう」

「裏もあるのか…」

「そちらは闇ギルド経由やそう言うのを斡旋する酒場等で依頼を受けるらしいですよ。

 …でフック、どういう内容の依頼だった?」

「タカリ仕事の寄せ役で1人辺り銀の2板3板。船出賃(ふなだしちん)が別持ち金1貨らしい」

「……乗り役の間違いじゃないのか?」


 2人で暗号みたいなやり取りするなや。と言いたい。


「若様。タカリ仕事と言うのは船の航路を塞いで停め、乗り込んだ者が金品を脅し取る仕事です。

 寄せ役は航路を塞ぐ役割。相場で1人辺り銀貨5枚くらいの取り分なのですが、今回はその10倍、銀板5枚を出すと言っています」

「乗り役は護衛との戦闘で死ぬ可能性もあるからそれぐらいの相場なのですがな。

 船出賃は自前の船を出す場合に支払われる手当てで、こちらは修理代込みで銀板5枚くらいが普通なのですぞ」


 人件費の安いこの世界で道を塞ぐだけで5万円、シーシェパードが欧米の畜産業者から貰う報酬とどちらが割りが良いのだろう?


「大盤振る舞いだな」

「ですな。特に船出賃ですぞ。

 この手の仕事は壊れる寸前の船を使ってやる場合が殆んどですがな。 依頼人はよほど数を集めたいらしい、どうみても持ち出し仕事です」

「貴族の依頼なら珍しくないだろう?」

「馬鹿を言うでないわレオン。限度を超えておる。軽く金貨数十枚じゃぞ。下手すると家が傾く」


 海賊仕事に数百万円出すとか。


「そうでもないだろう?

 死人に金を出す必要はないんだし、この船を襲うとなれば相当な犠牲を想定しているんじゃないか?

 乗り役の漁師に紛れた決死隊がこちらを襲うと言う予定だろう?」

「無謀な話じゃがな……」

「そいつらが襲ってきたらどうする?」

「勿論、迎撃しますぞ?

 海賊仕事と言うように犯罪であることに間違いはありません。貴族が後ろに付いていますから表立って非難しにくいだけです。

 若大将も宜しいか?」

「まあ、こちらには貴族の子女が一緒なのだ。沈めて放置で良いだろう」

「……さらっと怖いことを言うのう。普通は海の戦闘で発生した要救助者は出きるだけ回収するもんじゃぞ?」

「その中に暗殺者がいない保証もないだろう?

 そう言って小型挺の1つでも落としておけば良い」

「…多少は助ける気があるんじゃな」

「海の上で確実に皆殺しに出来る保証がないからな。

 下手に生き残って伯爵家を恨まれても困る」

「本当に怖いのう。頼もしいと見るべきか?」

「フックは気楽だな。私はセルラニアの王宮が魔窟に思えてきたよ」


 ……不本意なひそひそ話は無視して、出航準備を見て回ろう。

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