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転生領主とその周辺  作者: しから
旅立ち編
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レオンの受難はこれからだ!

「大変です!

 フォルセウス様とガムト子爵家の子息子女が、街中でいさかいを!」


 若様達と合流した翌日、私は10年ぶりとなる実の娘との会話を楽しんでいた。

 実の娘とは言え、船酔いでベッドにいる状態。女性の寝室を訪ねるのも問題だが。

 今回は、警護の為にフォルセウス様の好みや言動を聞き出すと言う名目で強行した。

 楽しそうに話すアイシャの表情から、無理を押して側仕えに出したかいがあったのだと安心した。

 …これで妻に面目が立つ。

 その急報が届いたのは、そんなタイミングだった。



ーーーーーーーー



「ご無事でしたか!」


 バックに連れられ、私服姿で駆け込んできたレオンの第一声がそれだった。

 いや、襲撃があるとすれば、早くて出立前日くらいだろう?

 後がないのだと自覚できれば、ギリギリまで入念に準備するだろうし。

 その事を伝えると…。


「若様。あのガムトの者が、そこまで頭を回す筈がありません!

 軽率な…」


 そこまで言って膝の上にいるキリエを見て、言葉を止める。

 …どうやら、小さい子の前で怒るのは可哀想だと思ったようだ。

 うむ、情けは人の為ならず、とは良く言ったものだ。

 膝の上にキリエが居なければ、かなり怒鳴られていただろう。


「少し情報の整理と意志の統一をしよう。

 レオンも座ってくれ」


 ここからは、ルナライト伯爵家次期当主と従士長の会話だと暗に示すと。


「少々お待ちください。

 アゼル。従士隊の指揮を任せる。ここには誰も通すな」


 と言ってから着席する。さすがに大物貴族の側近なだけはある。これで6人掛けのテーブルに俺と膝上のキリエ、スルトとレオンの4人が向かい合う。


「さて今後の対応だが、恐らくあの2人と護衛役は、ルナスフィア王国へ着く前に襲撃を仕掛けてくると思う。海上か、この街内で」


 そうせざるを得ないと自覚させたとも言うが。

 

「恐らく街中でしょう。当家のような専用船舶を持つわけでもありません」

「どうでしょう?

 彼らは我々が同行しているのを知っています。いくら家格が上と言え、他家の管轄かで騒動を起こすのは難しい」


 レオンが海上での襲撃の難しさを口にし、スルトは逆に街中での襲撃要素を否定する。


「兄様。

 あの人達は、どうしてこの街にやって来ていたのです?

 当家を訪問したわけではありませんよね」


 スルトへ訊ねるキリエは良い着眼点だ。それによってアイツらの責任者が分かる。


「ガムト子爵家が、訪問日程を事前に伝えてくる訳がないよ。

 連中は格下の家に家へ不意に訪問して右往左往するところを見るのが好きな奴等ばかりだ。

 大方、明日にでも訪ねてきて、阿呆な要求をするんじゃないか?」

「いやいや、おかしいだろ?

 爵位に差があっても同じ貴族だぞ?

 セルラニアじゃあ、侯爵が騎士爵家に行く時でも事前に知らせを出すぞ?」

「フォル様。彼らは自分達を古くから国を支えた家柄。功臣だから新興の家が気を使うのは当然と考えます」

「アホだろ!

 本当に功臣なら何故子爵止まりなんだ。先祖の功績の上で胡座をかいてきた証拠じゃないか!」

「それが分からないから、駄目貴族なんですよ?

 レオン卿。

 恐らく、先程の嫡男セルドアがこの街を訪れている連中のトップと思われます」

「よりによって、西部一の出来損ないじゃないか。若様、相手を選んで喧嘩を売って下さいませんか?」


 頭を抱えながら呻くレオンだが。


「無理を言うな。

 子爵を名乗っている奴が、あんなアホな対応をすると思うか?

 ああやって煽られたら、どんな駄目貴族でも普通は我慢して食べるか、キレたふりして出ていくくらいだろう」

「正直な所は。余りに愚鈍な対応ですがね。

 分家とは、所詮本家に何かあった時の控え、本家の庇護化にあるので貴族として扱われているだけなのですよ?」

「ああ、そう言う扱いなのか?

 アホ貴族が自分の寄子にいるのは嫌だなと思ったが、そちらも整理する必要があるんじゃないか?

 ……出立を早めよう」


 プラン変更だ。ガムトだけでなく、足を引っ張りそうな貴族を一掃したい。


「はい?」

「長い船旅の前の休息を考えて、この街の滞在を10日に設定したんだろう?

 ガムトの連中を暴発させて、ここで潰すべきかとも思ったが、他に怪しいのがもいる訳だし、本家の披露で暴露。庇う奴もまとめてポイッと」

「……最悪、西部全体を巻き込んだ大規模な内乱になりますよ?」


 見通しが甘いな?

 西部だけで済ませるわけないだろうに、不穏分子は一度にまとめて叩くのが名君の資質だぞ?

 ……織田信長とかが本当にフィクションで言われる程過激な性格であれば、天下布武にあれほど時間が掛からなかった。

 あの人、頭はすごい良いのに身内に甘すぎるんだ。反乱しても大抵1・2回は許すし。

 元農民のくせに、虐殺大好きな秀吉が勝手に大量虐殺しても、「殿の為に反乱分子を退治しました」と言うと褒めるし。

 そんな事したら、それもあんたの指示扱いになるだろう! と突っ込みたい。


「甘いぞ。ダゴン元侯爵の伝で北部、王家を介して中央部を動かす。ついでに兄貴を生け贄に出してあちらの竜の里とも連携したい。幸い、その里出身の竜が同行しているんだ。利用しよう」

「そんな事になれば、ルナスフィア王国そのものを破滅させるかもしれませんよ!」

「現在のルナライト伯爵家の衰退は王国全体の責任だろうが!

 それで滅ぶならそうなるまで放置した先祖を恨め!」


 俺の一喝に頭を押さえるレオンだが、周囲で護衛をしているその配下はむしろ頷いている。……スルト。お前は頷いちゃ駄目だろ?

 フォルセウス次期伯爵鮮烈デビューならぬ、鮮血デビューだな。だが、やるだけの価値はある!


「……問題点が幾つかあります。

 まず、不調な他の方々をどうするのですか?」

「慣れない環境による寝不足から来る船酔いだ。後2日もあれば復活する。無理なら荷物のように積んどけ」


 シンクルメアがこっちに来るときには船酔いしたとは聞いていない。大陸間の移動に利用される大型船なら大丈夫だろう。


「当家の海兵隊の質はお世辞にも高いとは言えません。

 急な出航は難しいかと」

「そちらは当家からベテランを貸し出します。その代わり伯爵家から、当家の護衛に兵を出していただきたく。

 また、兵力の不足分を補うために妹達を伯爵家へ同行させて貰えませんか?」

「それは俺も賛成だ。護る対象が4人減ればかなり余裕がうまれるし、どうせ、お披露目で来ることになるんだろう?」


 ついでにアントン家の兵士から船を動かすノウハウが学べるならこっちの利益になる。

 さすがに当主殿と奥方達に次期当主のジェネは無理だろうが。リスクを減らせるのは、アントン家としても嬉しい筈だ。


「…アントン騎士爵と相談し、荷の積み込みを急いで、2日後には出航可能かと思います。

 積み込みは部下に任せれば済みますが、アントン騎士爵との相談はフォル様にも同席していただきます。

 その分、フォル様が観光する時間は削られますからね!」


 負け惜しみ染みてはいるが、レオン自身も利益が勝ると判断したのだろう。

 そう言えば。


「あ、この店の店主と家族を一緒に連れていくからよろしく」

「わ~か~様~」


 ガコンッと机に突っ伏したレオンが恨みがましい声をあげる。急な軍事行動に民間人を連れていくからな。


「彼らが逆恨みを買うかもしれないだろう?」

「違いますよね。絶対にそんな親切心からの行動じゃありませんよね?」


 …失礼な俺のような善良な10歳の少年を疑うのか?


『私でも無理だと思う』

『アリスまでも?!

 ……自分でも無理があるとは思うけどな』


「このゼリーを見てみろ。

 甘味と言えば固い物しかないこの世の中で、柔らかい物デザートを考える発想力は買いだろ?」

「これは食べ物なので?」


 自分の前に出されていた無色透明なゼリーをスプーンでつつくレオンに目線で食べるよう促す。


「不思議な触感ですね?」


 ………。

 口に入れたものをゆっくり味会うレオンの反応を暫し待つ。正直、前世の感覚で言えば粗悪すぎる理科の実験品レベルだ。

 動物の骨や皮を煮詰め、布で濾して酒で臭みを和らげて、砂糖を少し入れただけの代物。しかし、ゼロからこれを開発できたなら、相当にすごい。


「なるほど。これならば伯爵家の小飼とする価値は十分ですか。

 キンクとシリーの2人を付けます」


 おお、思った以上の好感触。護衛まで付けるのか?


「甘味と言うのはそれだけで女性を虜にします。夫婦と言うのは、嫁に頭が上がらないものなのですよ……」


 有り難い話だが、実感がすごいな。

 所謂、恐妻家と言う奴かね?

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