俺達の港街観光はこれからだ!
街へ繰り出した直後に、俺にとって非常に嫌な事実が発覚した訳だが、それはあくまで俺の事情。
それで機嫌を悪くするのは、人見知りを我慢して街を案内してくれようとしているキリエが可哀想だ。
ん? スルトが本当の案内役で、キリエは付いてきただけ?
何かスルトはそう言う適当な扱いで良いと思うんだよな。水戸黄門のうっかり八兵衛と言うか、ギャルゲーの悪友ポジと言うか、まあネタキャラ的な奴だな。
「フォル様。
このお店がオススメなの!
ゼリーって言う甘くて不思議な食べ物があるんですよ!」
…異世界舐めていたわ。パンが発酵不十分の世界でまともな甘味があったとは。
しかもゼリー?
ゼラチンを溶かして固めるだけの知識があるのか。
いや、確か紀元前後のローマでも動物の肉を骨ごと煮込んで冷まして出来た日本懐石の煮こごりと同じ料理があったんだったか?
果実を大量に煮詰めて作るペクチン由来のジャムもあり得る。
農耕時代になって発達したパンより起源は古い可能性もあるな。
まあ、ここは無難に…。
「聞いたこともない食べ物だな!
面白い」
多少オーバーに驚き、興味を示す。…小さい子はこう言う優越感好きだよね。
満足そうに引っ張って店へ誘導する。うむ、実に微笑ましい。と思ったら、カントがキリエの前で立ち往生する。
「ちょっと待って下さい。
席が空いているか、私が確認してきますので…」
「大丈夫だと思うけど?
この店の店主は気心も知れているじゃないか?」
「スルト様はお気楽すぎるのではありません?
ここはカントさんが正しいです」
「大丈夫だって、さあ入りましょう。フォル殿」
本当に悪友ポジションが似合う奴だな。幼馴染みのバックも止めにはいっているが、聞きもしない。
ここで何かあれば、護衛役の責任だぞ?
…まあ、チンピラ程度なら蹴散らせるから、付いていくけど。
「だから、こう言う料理なのです!
何も問題ありません!」
「ふざけるな!
こんな溶けない氷を食べたら喉に詰まってしまうだろうが、こちらをガムト子爵家の方々と知って暗殺を考えたのだろう?!」
…前言撤回。チンピラより厄介な連中がいた。ガムト子爵とはどこの貴族だ?
「ルナライト伯爵家の寄子の1つです。北の山脈よりにそこそこの領地を持つ貴族ですが、ガーランド様の伯爵家継承時期に、妹が嫁いでいる分家を推して、以来、疎遠な貴族家の1つですね」
アゼルが耳打ちしてくれる。よりによってルナライトの寄子かよ。
しかも、子爵家となると結構な格上。どうするべきか?
とは言え、せっかくの上手いものを食べる機会を不意にはできない。
「店主!
オススメのゼリーをくれ!」
注目を集めよう。こんなチンピラ貴族など相手にするだけ無駄だ。我を通す。
「お客様、申し訳ありません。こちらのお客様への対応でとてもそんな余裕は…」
「客?
どこにそんなものがいる? 自分が知らない物を怖くて食べれない臆病者など、客でもなんでもないだろう?」
「貴様!」
思い切り煽って叩き出すのが一番だろう。足運びを見る限りで、一番強いはずの護衛が、俺と同格程度。
一緒にいる女性と少年はほぼ素人だ。魔術士かも? とも思ったが、狭い店内この距離で戦えるはずもない。
「全くフォル殿。そのような言い方はやめてください。このような者でも、ルナスフィア王国の貴族に連なるのですよ?
私も恥ずかしい限りではありますが…」
「な!?」
アゼルも意外と辛辣だねえ。
とは言え、どう見てもダウト家の関係者にしか見えない人狼の騎士が、他国の貴族を思わせる形で同意するのだから、普通は絡んでこないだろう。
…元々絡んできたのは、護衛の男だけだが。
「人狼族風情が何様のつもりです!」
え、マジで!
この女大丈夫か?
今頃反応している事実もそうだが、ダウト家の関係者にしか見えない奴が軍服着て、アントン騎士爵の勢力圏にいるんだぞ?
どう考えても、伯爵家の意向で動いているって分かるだろう?
しかも。
「そうだ!
人狼らしく森で狩りでもしているが良い。このセルドア・ガムト様を侮辱するのか!」
少年も便乗して叫ぶ。最も、護衛の男は真っ青な顔をしているから、こいつはまだマシなようだが。
「わ、若様! お嬢様!」
「何だ、ルーグ」
「彼は、ダウト家に連なる者です。今すぐ、謝罪を!」
「ダウト?
叔父上から、伯爵家の家督を奪ったガーランドの手下じゃないか。
何でそんな奴に謝罪を!」
…ああ、完璧に出来損ないのどら息子だ。こいつ。これはルナスフィア王宮に伝わると国家反逆罪で改易されるんじゃないか?
爺さん、ガーランド伯爵の伯爵家相続は、国が認めているんだぞ?
国家の信義を見下している状態じゃないか。
「そうよ。簒奪者に尻尾を降る犬風情に」
女の方もか。護衛は既に目が死んでる。
アゼルも無言。
そもそも、本家の次男がいるのに分家筋が優先される訳がない。
そうやって教育されたのかねえ。
「若様方、ひとまず、ここは嫌でも頭を下げてですね」
護衛も必死だな。早くゼリーを食ってみたいし、バカ2人に状況を教えてやるか。
「アゼル殿、我がセルラニアでは王家が正統性を承認した貴族家当主を勝手に簒奪者呼ばわりすれば、最低でも国家騒乱罪で結構な罪に問われるのだが、ルナスフィアでは大丈夫なのかい?」
「状況にもよりますが、この場合ですと、本家次男で能力的に問題があったわけでもないガーランド様に分家筋の当主が言いがかりを付けている状態ですので、我が国なら、その当主がガーランド様以上の能力であると証明できれば、国家騒乱罪で済みます」
「数年の謹慎くらい?」
「そうですね」
「証明できなければ?」
「国家反逆罪で良くて改易。悪ければ一族全員極刑もあり得るかと」
「まあ妥当なレベルか。ちなみに証明できそうかなぁ?」
「無理ではないかと?
それに相応しい能力があれば、ガーランド様を呼び戻すわけがないですから」
バカ2人は、俺がセルラニアなら国家騒乱罪と聞いた辺りで冷や汗をかき初めて、国家反逆罪と言う言葉が出れば、真っ青になっていた。
「うむ、出来損ないに手を焼く護衛が可哀想だな。打開する手段を2つ提示してあげよう。
1つは、この2人から子爵家の貴族籍を剥奪した上で謝罪する。もう1つはこの情報がルナスフィア国へ伝わる前に口を封じること」
「行くぞ。ルーグ! 姉さんも」
「ええ」
青い顔で飛び出していくバカ2人と御守りを見送って、奥へ避難している店主へゼリーの用意を頼む。
あれの飛び火を恐れて客も寄り付かなかったのだろう。貸しきり状態だし、ここで情報整理しながらゼリーを待つか?
ああ、レオンにだけは報告しないと。
「バック殿。レオン卿を呼んでもらえるか?
これはアントン騎士爵家にも関わることだ」
「はい!」
良い返事で走り出すスルトの御守りを見送って、席に付く。不安そうなキリエは膝の上に乗せてあげよう。
次回でレオンが訪れるとキリエを膝に乗せて仲良くゼリーを食べているフォルがいるわけで、そんな恥ずかしい事をさせている以上、フォルセウスは、キリエを側室に迎える気だと誤解する訳です。
状況が驚くほど、味方するキーちゃんが恐ろしい。
そして、アントン家姉妹の中でまた価値が下がるスルト、がんばれ?




