伯爵家所属騎士?
港町ガントラック。
東にある大陸との交易で栄える国際都市。俺が属するルナスフィアをはじめとする3つの魔族国の物品が行き来する。
東大陸の魔族の国よりも購入出来る魔道具の種類はむしろ豊富。
始めに聞いた時は何故と思ったが、理由は単純だった。
魔大陸西側沿岸にある3つの国。北側からクーリングオフ。ルナスフィア。シスコン。……魔族の国は地球と交易でもあるのかと言いたい名前だが。
とにかく、この3国の間には山脈がある。と言うよりルナスフィア西部領域が高山地帯の盆地だと言う方が正しいかもしれない。ルナスフィア中央部とも山脈に分断されているし。
『チベットみたいなとこに隕石でも墜ちたのかな?』
『俺はインドみたいな大陸プレート移動を推すな。
西部領域でレアメタルが取れるとは聞かんぞ?』
『製鉄も未熟なこの時代にレアメタルを理解している人間はいないでしょ?
山脈に海洋生物の化石でも出るの?』
『そういう話も聞かんな。……多分、この世界の人間は変わった模様の石で終わりそうな?』
『色々な事が未熟な世界は不便よね』
『いや、異世界で地形学を考察している俺達が変なだけだろ?
昔読んだラノベでこんなこと気にしている連中いなかった』
『石油や石炭が手にはいるかもしれないよ?』
『魔術と言うエネルギー資源がある分だけそう言うものの価値が低いのだろう。
それより、もうすぐ港か?』
『みたい。メインのマストを畳み始めているし』
『他の連中を起こしに行くか?』
『着いてからでいいと思うよ?
丸一日停泊するんでしょ?』
『こんな小型船じゃ、停泊していてもそこそこ揺れるぞ?
…と言うか、3日程度の船移動で船酔いダウンとか駄目すぎるだろ?
リムはともかく、兄貴達は冒険者。バートン達にいたっては大陸間の移動もする諜報員兼任の冒険者だぞ?
大陸交易船は1週間以上の船旅だ』
『大型船舶ならさほど揺れないんじゃないの?』
『違う。初日は全員元気だっただろ?
2日目の朝にリムとシビ。夕方にアグルで昨日の朝残りの女性陣。今朝で俺以外全滅だ。
船中泊で寝不足が原因の船酔いだよ。
移動中に寝ると言うのは慣れない人間には辛いんだ』
前世ほど交通機関が発達していないのが原因だな。
そんな不慣れな連中が、いきなり陸地沿いに移動する小型商船とか無謀すぎる。
『ガントラックにはルナライト家の騎士が住む屋敷があり、そこでレオン卿。アイシャの父親が率いる伯爵家所属騎士団と合流だ。それまでに回復はするだろう。
その間にガントラックを彷徨きたいなと思っていたが、保護者不在で無理か?』
『伯爵家所属騎士団?
なんかおかしくない? 騎士は貴族階級なんだから貴族の手下が貴族になっちゃう』
『手下言うな。
その辺はルナスフィア王国の統治機構が独特なせいだ。
まず、あの国の貴族は上から侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の6つがあるが、騎士爵は王国以外にも伯爵以上の領地貴族が任命する権利を持つらしい』
『貴族が貴族を任命していいの?』
『当然、王国へ許可を取る必要があるらしい。農村や小さい町の代官に統治権限を与えて楽をしたい伯爵や辺境伯の意向と、領地内の力をバラバラにして貴族の力を削ぎたい王国の思惑の一致だ』
『侯爵は?』
『言わなかったか?
侯爵は法衣貴族しかいないぞ?』
『何で?
一番偉い貴族でしょ?』
『会社とか軍隊じゃないんだから、上の爵位ほど偉いとかはない。
爵位はそれに合わせた役割分担だ。侯爵は王国直轄地の主要都市を治める代官や国政を担う大臣職を代々継承している連中。
辺境伯は他国の侵略に備える前線指揮官で、伯爵は国内の平穏を守る治安維持部隊の司令官。
子爵や男爵が与えられた領地を維持し発展させる者達らしい。…原則は』
『例外もあるの?』
『例外と言うよりは職分の問題だ。
国政を担うのが大臣とは言え、それだけでは政治は回らないから手足となる人間がいる。
それが法衣の伯爵から男爵だな』
『そう言うのは前世では良くないと言って批判対象だったけど…』
『それは生活に余裕とゆとりがあるから言えるんだよ。
戸籍を管理している人間が、生活苦で急に辞めたら新しく教育を施すことから始める必要があるんだぞ?
その間の行政の停滞をどうする?
日本のように半月とかで同じようなレベルの仕事が出来る人間が来るとは限らんぞ?
下手すると10年単位で滞る。それでもいいか?』
『ああ、貴族と言う形で役職を継承していけば、子供の頃からそれ専門の教育をすることが出来るわけね?』
『しかも年金と言う形で生活を保護出来るし、家を維持するのに役職維持が必須だから急な退職を防げる。
後は、対外的な見え方だろうな』
『見え方?』
『国の役人とは言え、平民に領主が頭を下げるのは領主が侮られる原因になる。
そうなれば領民が領主に従わなくなるかもしれんぞ?』
『最悪、反乱とかで戦国時代に突入とか?』
『あり得る。…そう言えば俺達は何の話をしていた?』
…貴族のあり方じゃなかったはず。
『騎士爵の話じゃなかった?
伯爵とかが任命できるとかの』
『そうだった。
伯爵や辺境伯は先程も言ったように自領の発展の他にも周辺の子爵や男爵の監視。近隣国の様子見をする必要がある。
その負担を減らす為に騎士爵と言う特殊な貴族位の任命権を与えられている。
領民にしても、統治者が毎回コロコロ変わっては困るだろう?
風林火山の山だな』
『動かざる事ってやつ? あれって本陣防御の話でしょ?』
『違う。
そもそも孫子は、軍師とかじゃなくて王佐の人間だ。
それを後の人間が変な風に勘違いしてな。あのおっさんが書いたのは、君主論であって、軍法書じゃない。
特に山の部分は、別の書で長じれば愚政もまた賢なり。と論じて重視している』
『どう言うこと?』
『下手くそな政治でも長く続けばそれなりの成果を出す。
しょっちゅう方針を変えるよりも遥かにましだと言うことだな』
『すごい言い分…』
『あのおっさんは頭は良いけど、性格がかなり悪いぞ?
有名な兵は拙速を尊ぶも遅功して勝ることなしとか、今風に訳すと、長期戦は物資を激しく消耗して国を傾けるから、それくらいならさっさと負けて帰ってこい。そっから建て直した方がまだましだとな』
『性格悪ぅ』
『合理的だがな』
「若様。もうすぐ入港するから船室へお戻りください!」
「分かった」
この船のオーナーであり、同時に伯爵家の御用商人でもあるマイケルに返事を返し、船室へ足を向ける。
3日ぶりの陸地を楽しみに。
風林火山の残りです。
風 風向きがすぐに変わるように昨日までの同盟国であろうと落ち目と見たらすぐに攻めろ。
林 街のように賑やかすぎても、広野のように静かすぎても人は警戒する。戦争の準備は林のような自然な静かさで進めろ。
火 火が燃え広がり、燃やすものがなくなるまで消えないように、攻め落とした街の支配者は、女子供でも容赦なく皆殺しにしろ。
下手に残すと、将来の火種になるぞ。
良い言い方をすれば、究極の合理主義者とも言えなくないでしょうか?
王道より覇道を行くおっさんです。あの人は。
マイケルさんは御用商人と言う名のスパイ業。バートンの従兄でもあります。




