2週間後。イイネ王国領都にて
「ゴブリンってなんだろうな?」
『…はい?』
俺の呟きに疑問符を返すアリス。
情報収集に行っている兄達男性陣と、買い出しに行ったアイシャ、リムを始めとする女性陣。
結果、そこそこの規模の宿屋の一室に放置される俺。
治安が悪いから普通はここに残るのが女性で男の俺は買い出し班に属するのが普通の気がするのだが、竜族であることを加味するとその流れは逆転する。
竜族の女性は、性的暴行を受けても相手が直後に衰弱死しましたとなるのが落ちだから誰も狙わない。
過去には、帝国の西にある国で里を追放された竜族の女数人が、街を襲って、複数の成人男性を強姦死させる事件もあったらしい。
性的な目的で利用できないから、奴隷にする価値もない。竜族と分からないと危ない気もするが、里の紋章を刻んだマントを纏っているシンクルメアが一緒だからな…。
逆に男の俺が一緒にいると危ない。竜族の男なら権力者からアンダーグラウンドの人間に至るまで全てにとって価値がある。
そうでなくても、ルナスティア王国西部を統括するルナライト伯爵家の次期当主だからな……。
例えば、この国の王女と結婚何てことになれば、ビルド王国とだけの航路をここまで延ばすとかになりうる。
それで発生する利益は膨大だろう。加えてその姫との間に男子が生まれれば、東方諸国統一もあり得るか?
兄も狙われる可能性は一緒だと主張したが、子竜と幼竜では戦闘能力が違うと却下された。
『当たり前じゃないの?
あっちは一流の剣士で魔術も問題なく使えるんでしょ?』
『悪かったな。まともに魔術も使えなくて!』
『……不思議だよね。専属精霊がいるのに他の精霊が寄ってくるなんて?』
『全くだ。専属の精霊が出来れば、他の精霊と相性が悪くなるはずなんだがな』
『それに剣士としても未熟と……』
『それは要求水準が高すぎるだけだろ!
バートン達と同格ってと事は、Cランク相当だぞ?
そのレベルじゃないと連れていけないって酷くないか?』
『…どうかな?
それでゴブリンが何だって言うの?』
…アリスの奴、露骨に話題を変えやがった。誰に似たのか…。って俺だよな。
『ここへ来るまでに結構な頻度で襲われただろう?』
『人間の盗賊もだけどね』
『盗賊と言うより、山賊の方だと思うが…』
帝国領を出て、最初の国。サンパでは人間は襲ってこなかった。山賊共が出始めたのはリングに入ってからだな。
中には近隣領主の私兵団を名乗り、通行料を要求するのもいた。…東西街道は関所以外での金品徴収を禁じているんだが?
あんな大々的にやって帝国を怒らせないか?
『合計で3回。山賊と合同で1回のゴブリン単体で2回だが、襲撃してきすぎだろ?
このパーティーで討伐した合計だけで50匹以上だ。
前世のゲームじゃあるまいし、無限ポップでもしてのかって感じだろうが』
『クライム達はゴブリンは繁殖力が強くて、成長も早いって言っていたけど?』
『限度があると言う話だ。例えば、多産の象徴とも言われる羊だが、年2回の出産で1から2頭の子供を出産。その子が新しく妊娠できるようになるのに1年以上掛かる』
『…けど、豚とかはもっと増えるでしょ?』
『現世での近代畜産を例に例えるな。
確かに豚は1度に10頭くらい出産するし、8ヶ月位で成熟して子供を作れるが、それはそう言う風に品種改良された結果だ。
連中は母体を傷付けないように牙を折られたりとか色々な手間を掛けてそうなるようにされているんだよ』
豚の原種に当たる猪は、年1回4頭程度の出産で、その子供が成熟するのは1年半掛かるのだし。
野性動物が、そんな無茶な速度で増えてたまるか。しかも、ゴブリンは人間の子供程度の知能をもつ生物だぞ?
『ゴブリンって生物なの?
漫画だと妖精とかの分類じゃなかった?』
『醜悪な妖精か?』
『うん。確かエルフの語源でもあるんだよね?』
『そう言われているな。北欧のアールヴとかニンフがエルフの語源。ゴブリンは悪戯な小妖精の名とアールヴの容姿が混ざった結果出来たと言う話を聞いたことがある』
『だったら増えるスピードが早くても不思議じゃないと思うよ?』
『花妖精の伝説か?
あれとは違うだろ? あの伝説だと死体とか残らないはずだ』
花妖精の伝説、ぶっちゃけるとフェアリー=花のアバターだな。
あ、アールヴも同じか? 古い言い伝えの中にはオーク樹(多分、広義での広葉樹の意味)の肌をした緑の髪の人みたいな描写もあったはず。
『けど、緑の肌に緑色の血の小鬼だったけど?』
『アリスはあの体色が妖精だからと主張するのか?』
『パパは違うの?』
『パパはやめろと前に言ったが…。
…人の皮膚が肌色なのは血の赤色が薄く透けて見えているからだと言うのはわかるな?』
『地球の科学の話?』
『ああ。さらに言えば緑は赤よりも光線の波長が短い、…波が小さいから皮膚が相手だとより透けて見えても可笑しくない気がする』
『夕焼け赤いよ?』
『それはエネルギー量の問題だった気がするが?
今度、実験してみよう』
『実験って?』
『人の血が赤いのは酸素を運ぶのに利用される金属が鉄だから、血の色は錆の色とか言うだろう?
対して、昆虫とか蜘蛛とかは銅架体のヘモグロビンだから血が緑色をしている』
『すでに嫌な予感…』
ベッド上に顕現したアリスが身を引くような動きをする。芸が細かい奴だ。
『ゴブリンの血を回収して塩酸で煮た後、鉄の棒を2本突っ込んで電圧を掛けてやれば良い。
片方の鉄の棒が銅でメッキされれば、奴らが銅架体ヘモグロビンをもつ生物。そうでなければ、妖精と言う不思議生命体』
『やっぱり!』
『やるとしたら、伯爵領に着いてからだな』
『本気だぁ……』
『当たり前だろう?
知らないことは気持ち悪いじゃないか。これはもしかするとさらに異世界があり、そこへの移動手段が在ることを示唆する可能性もあるんだぞ?』
『世界間移動?』
『俺達のような竜族でさえ、血は赤いのにゴブリンは緑色なんだぞ?
この世界は、地球同様に鉄の方が入手が楽だと言うことだろう?
だが、ゴブリンとかは鉄よりも銅の方が入手しやすい別世界からこっちへ来た可能性もあり得るだろう?』
『理論が飛躍しすぎ!!』
『一番簡単なのは、ステータス表示があることなんだがな?
異世界転生物なら結構そう言う変な物があるのに、何でこの世界にはないんだ?』
『むしろその発想がおかしいから、ステータスが分かるとか便利すぎるでしょ?』
『便利なのは良いことだぞ?』
『駄目だ。……この人。そんなに欲しいなら自分で作れば?』
『無茶を言うな。どんだけのエネルギーがいるんだ?
世界規模の情報の集積と拡散何て、出来るのは創造主くらいだろ?』
『じゃあ、そんなこと言わないでよ?』
『だがな。……まあ良い。ゴブリンは領地へ着いてからの宿題だ』
『嫌な宿題!』
『宿題はつまらない物だぞ?』
『皮肉よ!。ひ・に・く!』
そう言い残して気配が消える。……宿屋に一人とか暇すぎるんだが?
…………寝るか?




