帝国辺境滞在記 武器の選び方
…この世界の人間は、力任せな戦いを好むのだろうか?
カウンターの後ろ、一番目立つ所に配置されているのは、大剣と言う名の細長い鉄板だった。
最も多くの種類と数が有り、店のスペースの半分程度を占拠しているのが斧で、その残りスペースの半分が、ハンマーだ。
この店だけならまだ救いがあるんだが…。ここが3軒目だと言うことを考慮するとなるとな。
『大きい魔物が多い世界だからしょうがないのかな?
斬っている途中で刃が止まったら、それまでだし…』
『加えて致命傷も与えにくい。人間なら、5センチ斬られたら内臓まで届くが、10倍の体躯が有ればそれも難しい。
打撃武器で頭を狙うのが効率的なんだと言うのは分かっている』
『頭がブヨブヨかもしれないから槍で突く方が良いんじゃないの?』
『脳みそは体の中では、膨大なエネルギーを使うから発熱量が半端ない。そのくせ、脳細胞は熱に弱い』
『昔の特撮みたいな、お腹の辺りに頭脳がある怪獣はいないって?』
『可能性は0じゃない。冷却器官を兼ね備えるとか、有りそうだし。恐竜みたいに複数の脳を持つとかな』
『効率的じゃないよね?』
『ああ、つまりいる可能性は極めて低い』
…生物が死ぬ要因は天敵に襲われるよりも環境の影響による不具合の方が絶対的に多い。
効率が悪ければ、その分多くのエネルギーを使う。だから、特殊な環境でない限りは生きられない。
『そうだよね。…ところでリムちゃん呼んでるよ?』
『…もっと早く言って欲しかったな』
「やっとこっち向いた!
人の話は聞きなさいよね!」
「すまない」
「…まあ良いけど。フォルはどういう槍を選ぶの?」
…良いなら、突っ掛かるなよ。とも思うが、下手にそう言うことを言うとまた面倒だしな。
「そうだな…。まず、馬上槍は論外。長過ぎるし、突く事に特化し過ぎている。
投擲槍は穂先が重過ぎるから振り回すのには不便か?
やっぱり一般的な長槍か、短槍のどちらかだな。
槍以外の長柄も捨てがたいが…」
柄の先に斧が付いた長柄斧や片刃剣の付いた刀槍、斧付槍と言う選択もある。
この3つは柄にも鉄の芯が入った重武器だが、竜族の腕力なら問題なく扱える。
そう言えば、爺さんが送ってきた大鎌があったな。普段からあれを使うわけにはいかないが、あれの練習になる武器が欲しい所だ。
…和槍なら鎌槍とか十文字槍のような引いて攻撃するタイプの槍もあるけど、西洋槍だと突くか、斬るかの2択なんだよな。
「…難しいな。リムは?」
「私は…。ひとまず、フォルが先に選びなさいよ?
…どう、ならおそ、にした、し」
「何だって、最後の方が聞こえなかったんだけど?」
「何でもないわよ。
さっさと選びなさい!」
「まあまあ、リムちゃん抑えて。
武器は自分の命を預ける物よ?
本当に使いやすいものを選ばないとダメ」
みかねたシビがリムを嗜める。ちゃん付けとはだいぶ打ち解けたものだとも思うが。
あちらは任せて、俺は『砕魂の魔鎌シャルフィーテ』、…長いな。『シャル』で良いか。あれの練習になる武器を探すか。
失敗したな。前の2軒でもそう言う目線で探すべきだった。
…有るか無いかは別にして。
『横に刃が付いているハルバードとかじゃダメなの?』
『駄目だ。鎌は引き斬るだが、ハルバードは叩き斬るだろ?
性質はむしろ正反対。まだシャムシールやシミターの方が近いくらいだが…』
『そう言うのって砂漠とかのイメージがあるよ?』
『ああ。あの手の武器は薄い防具を切り裂く性質だからな。暑くて乾燥した地域に行けば有るかも。…魔物がいるこの世界では難しいか?』
『諦めた方が良いっぽい?
熟練すれば強力だけど、刃が飛び出ている分だけ強度がないから、熟練するまで持たないんじゃ?』
『間違いなく熟練すれば強力なんだけどな』
元々、鎌は弱い力で繊維の塊といえる稲や麦を纏めて刈り取る道具だ。
それに見会う強度と切れ味の大鎌があれば、大型の魔獣すら、一撃で首を刈るのも難しくないだろう。
『多分、一般売りはないよ?
ファンタジーの金属でオーダーメイドするのが一番じゃないの?』
『そうだな。伯爵領へ着いてからにしよう。
であれば、道中の旅で求められる役割に相応しい武器を選ぶべきだ』
『対人用か、魔物用かってことだよね。
多分、対人用がいるんだよね?』
『多分な。巨大な魔物1体とかだと出番はないだろう。
沢山の小物がいる時に護衛に手が回らない事が問題だろう』
「形状は一般的な短槍で良いな。
後は材質とバランスか…」
「…だったら、この辺がお勧めだぜ?
芯に鉄を仕込んであるから折れにくいし、穂先は鉄に少量だがミスリルを混ぜてある。
腕力がないときついが、お前さんみたいな竜人族が好む系統の槍だ」
「…どっかで見た顔だな?」
「ルドルフだよ。セルラニア王都で会ったろ?」
「Cランク剣士のおっさんか!」
「…おっさん。
お前さん、仮にも貴族だろ?
口が悪いな」
「大きなお世話だ。
なんでこんな所にいるんだ?」
「移動の途中。
東方諸国の1つにアフロって国があるんだが、最近、この国が妙にキナ臭いらしい。こう言う所には飯の種が転がっているもんさ」
「良いのかい?
そんな情報を流したりして?」
「おう。
むしろギルドが推奨している。下手に巻き込まれる人間が増えるとそれだけ依頼が滞るだろ?
酷いと強制徴集に巻き込まれる可能性もあるしな。
逆に俺みたいな半分傭兵みたいな人間は稼ぎ時と言う訳だ」
「なるほど」
「で、治安の悪い東へ行く前に鈍器を買ってこうと思ってな。
やはり、こう言う武器の質はこの辺りの街が一番だ」
「あんた、剣士だろう?
鈍器を使うのか?」
「そりゃあ、一番使い馴れているのは剣だぜ。
だが、治安が悪い所に向かえば向かうほど、大型の魔物や大規模な盗賊団に遭う可能性が増える。
刃が欠ける剣はそう言う所では使いたくない」
…なるほど。劣化する剣の修繕にも金がかかる訳だから、維持費の面から見ても鈍器がウケるのか。
そう言えば、日本刀は戦国時代でもほとんど使われない鑑賞用の武器だったと聞いたな。
だから、鎧や槍等と違って銘の有る古刀が現存しているとも。
「まあ、俺の事情はそんな所だ。
お前さんは?
槍を探しているって事は東へ行くんだろ?
しかもそこそこの人数で」
「社会勉強のためにガントラックまで行くらしい」
「危険な東方諸国の最東端までかよ!
貴族の道楽じゃすまねえぞ?」
「そんなに危ないのか…」
「ガントラックのあるビルド王国は、俺が行くアフロ王国の東隣なんだよ
つまり、危険なアフロ王国を通り抜ける必要がある。
検問に引っ掛かったらろくなことにならないと思うぜ」
…これは兄さん達へしっかりと相談する必要があるな。
ギルドへ顔を出しているはずだから、あちらも情報を得てくると思うけど。
検問も厄介だが、粗暴な連中が彷徨いているのも困る。
盗賊とかならともかく、子竜2体と幼竜2体の凶悪な戦力を敵にまわす馬鹿はいないと思うけど油断はできないしな。
「フォル?
そろそろ次の店に行くって……?
知り合い?」
「ああ。セルラニアの冒険者ギルドで会った冒険者」
「Cランクのルドルフだ。よろしくな」
「へえ。私はリム・ダムフォード。その子の姉。よろしく?」
…不本意だが、あちらの方が年上だからな。
少なくとも伯爵家の兵達と合流するまでは、俺達3人は兄弟で通す事になった。年齢順に、一子ダイク、二子リム、三子フォルで通すらしい。
「おうっと、用事は良いのか?」
「そうね。シビが待っているし、行きましょう?」
『…変な人』
『アリスもそう思うか?
この街、このタイミングで絡んできたのがどうにも引っ掛かるよな。
こんな都合よく旅先で知り合いに出会うか? 普通?』
『警戒は必要じゃないかなって?』
「ほら! 自分で歩きなさいよ。フォル!」
能天気な姪に引っ張られながら、この旅の先行きが不安になる、今日この頃だった。




