これだから竜族は…
…竜族は同族を知る。
この言葉を聞いたのは何時だったろうか?
俺は今日、この言葉を本当の意味で理解した。
灰色の髪に同じ色合いの瞳。顔立ちも整っているが、あまり印象に残らないような。…ぶっちゃけ地味な少女だ。
街中では探すのも苦労しそうな少女だが、間違いなく竜族と直感的に理解した。
「停まっていただき感謝します。偶然にも、顔を会わせた同族に挨拶をさせてくださいませ。
我が名は、シンクルメア・ハージス。黒の竜の里の者です」
相手もこちらが竜族だと分かったと…。しかも里住みの竜。厄介な事にならなければいいんだが?
「そうですか。私は、ダイクライム・アルヴィス。はぐれ竜ナタリー・アルヴィスの次子です。こちらは弟と姪ですね」
「叔父様!」
平然とこちらがはぐれ竜であることを話すクライムにリムが非難の声をあげる。
当然だな。俺でもそう思ったのだから。しかし、
「…失礼。
この子達は他大陸にある竜の里を知らないので」
「いえ、この大陸では馴染みのある態度ですよ。
むしろ、あなたほどの若さで黒の里に詳しい見識がある方が驚きです」
クライム、シンクルメア共に苦笑すると言う変な対応をとる。
どう言うことだ?
里の危険性を俺達へ一番説いてきたのが目の前の次兄なのだが?
…考えられるとすれば、黒の竜の里と言う言葉。普段俺達が竜の里と言う場合は、この大陸の北部にあるものを指すが、黒の竜の里と言うのがそれに該当しない場合。
「フォル。リム。
彼女が言う黒の竜の里とは、ギアナ大陸の中央山脈にある竜の里の1つです。
この大陸の里とは別です」
「けど、里で集団生活をしている竜でしょ?」
…言葉にはしていないが、大丈夫なのかと言うニュアンスが伝わってくる。
正直俺も同じ感想だ。
「…はあ。
すこし長くなりますが、竜の里の生い立ちから、話をしましょうか?」
「私も参加させてください。
このまま誤解を受けたままと言うのも困りますので…」
「それなら、どこかで休憩でもしませんか?
もうすぐ昼時ですし」
「そうだね。
シンクルメア。あなたも一緒にどうだい?」
「…お言葉に甘えさせてもらいます」
意図を察した護衛の皆が、馬車を街道脇に寄せて休憩の準備を始める。
馬を預かったバートンに礼を言う所を見る限り確かに伝え聞く里の竜達とは違うようだ。
「まず、お伽噺の話になるけど、昔は竜族は今よりずっと多くの個体がいた。
一説には、5万を越える数だったとも聞くね」
「ちなみに、私が属する黒の竜の里の総数は100体くらい。
ギアナ大陸の竜の里では最大の規模よ?」
「里間の交流とかはあまりないし、はぐれ竜の集団も多いから正確には分からないけど、現在の竜の総個体数は、2000くらいだろうと言われている」
「…つまり、竜族は全盛期の10分の1まで数を減らしたってこと?」
「ああ。
強力な力を持つ竜が5万もいれば、何が起こると思う?」
「…他の種族の男の取り合い?」
…リムの言いたい事も分かるが、そもそも5万体まで増えるまでは、今ほど男女比率は偏っていなかったんじゃないか?
と俺は思うんだが?
単純に竜族が数を増やすには雄竜1体辺りで9体の子供を作る必要が出てくる。
それでも、1世代後の個体増加率は1、1倍。2倍に増えるまで最高数を取ったとしても、5世代くらい掛かるだろう。
魚類や両生類のような多産多死ならば、雄に対し雌の比率が多くても爆発的な増殖が可能だが…。
「…おかしい?
普通に考えるなら、成体になるまでに時間がかかる種族ほど、雌雄の比率は等分化されるはず。
ましてや、寿命に比べ発情期の短い竜がこんな極端な比率で増えるはずがないんじゃ?」
「さすがフォル。
こちらから説明する前に異常性に気付いたね。
この時代まで竜族の男女比率は概ね1対1だったらしい」
「それじゃあ、5万の竜族が起こした出来事と言うのは?」
「戦争だよ」
「世界中の全種族を自分達の労働力にする為のね」
「なんでそんなことを?」
まあ、こちらの世界で王族として生まれ育ったリムには分からないだろうな。
自分が楽をしたい。けれど、同族間で支配披支配の関係は作りたくない。
ぶっちゃけ、地球では民族間で古代ギリシャから19世紀末期まで繰り返されてきた歴史だ。
いや、現代でも分かりにくく形を変えただけで本質的には行われていた事か。
「正確な理由は分からない。けれど、実際に起こった事だね。
その戦争は、末期まで竜族優位に推移したらしい。全ての大陸のほぼ全土。魔族と海洋種族の1部を除く全てを支配下に置いたと伝えられている」
「けれど、そこで何らかの大逆転が起きたっと?」
「神と呼ばれる存在達が介入してきたのよ」
「彼らの中でも戦神と呼ばれる者達は1柱で当時の竜族数体をまとめて討伐したとか。
或いは契約を司る神々が造った武具や呪具は竜の力を弱め、人間ですら竜族討伐を可能にしたとか」
「今も信仰されている連中ですか?」
「そうだね。
彼らの介入で両者の勢力は拮抗して表立った戦いが行われなくなった」
「そうなると多種多様な種族のいる相手側に対し竜の方が不利になるわけ。
しかも元々の発端が竜族にあるわけでしょ?」
「そうなると竜の立場はドンドン悪くなりますよね?」
「そうだね。それを恐れた竜族は直ぐに他の種族へ停戦を申し入れた」
「その申し入れは受け入れられて、竜族は再び他の種族と歩みを共にすることになったらしいの。
この当時で竜族の総数は3万2千。停戦に関する資料が残っているから正確な数よ?」
「ただ、この時期を境に産まれてくる竜の性別に不均等が表れ出した。
神達の呪いを疑う声も多かったけど、立場上そう言う事が言える状態ではなかった」
「それが現代にまで続いていると?」
「そうだよ。
そして、世代を重ねるに連れ、竜族は個体数を減らしていった。神達の造った武具の残りを持って竜を討伐する連中もいたし、それでなくても、自由気ままに生き、気が向いたら子作りをする事が出来る程の雄竜の数が確保できなくなってね」
「そんな遠い未来とは言え、滅亡が確定したと考えた竜達がその歩みを遅らせる為に、集合体を作った。それが里の始まりよ」
…人間が国を造っていく過程に似ているな。結局、力の大小はあれど生物の根幹は変わらないのか?
「けれど、竜族が他の種族との間に子供を作れる事が分かると里の在り方もその里毎に様式を変えていく。
黒の竜の里のように当時の在り方をそのままに残してこれた里は少なく、ドルドにある竜の里のように選民思想化が進む物が殆どだね」
……本当に、人間の国家と変わらんな。
「まあ、そんな訳で黒の竜の里は安全な里だ。
魔大陸に着いたら、折を見て挨拶に行く予定だった位だしね」
「でしたら!
私も同行させてもらえませんか?
里への案内も出来ますし!」
……兄さんの言葉に思いっきり食い付いて来たな。
出会いのチャンスを大事にするのは全ての里共通か?
竜族の状況的にしょうがないとは言え、これだから竜族は。と思わず、考えた俺は悪くないと思いたい。




