2人が帰ったその後で
「明後日には、王都を立つ事になるから、準備をよろしく」
2人を見送ったタイミングで部屋に呼ばれた俺達が聞いたのは無茶ぶりもいいところのクライム兄さんの言葉だった。
「早すぎるわよ! 昨日聞いたばかりで旅支度なんて整うはずがないでしょ!」
「急ぐ旅じゃないから数日分の着替えと護身用の武器くらいだよ?
食糧は馬車に積んでいくし、その手配はメイドにやらせている」
「向こうにも準備があるでしょ?
俺を迎え入れる準備が出来ていないのに俺がやって来たら、面目丸潰れじゃないですか?」
「遠話水晶で打ち合わせ済みだ。
ガントラックで、伯爵家の私兵団と合流して入領の日は微調整する」
「ガントラック? ビルグ王国の港町ですか?
何故、あの町まで? 別にシンサルからでも大陸間連絡船は、出ていましたよね?」
…ガントラックのあるビルグ王国は、セルラニアを南に出て帝国の男爵領を越えた先。対して、シンサルはセルラニアの国内だ。
どちらが近いかは明らかだ。
「建前は、フォルの勉強。他国を訪れる事で統治者としての良い経験を積めるだろうと」
「建前?」
「本当の目的は『竜の里』からの干渉を避ける為さ。
昨日の夕食の時に言っただろ?
伯爵家へ移るのは、来月末だと…」
「…普通に考えるなら、セルラニア王都を立つのは来月早々。ルートは、シンサルからルナスティア王国のジバン騎士爵を経由して、そのまま伯爵領へ入る形ですか?」
「うん。特に怖いのは海上だね。
そこで竜族に襲われたら、抵抗しようがない」
「だから遠回りをするのね?
けど、それならわざわざあの2人に言うことじゃないんじゃない?」
「あの2人はともかく、一族の中には『里』へ情報を漏らしている者もいるだろうからね」
「逆に安全になると」
「そう言うこと。後はこの国から私達が出たと言う情報を与えることでセルラニアへの負担を減らす」
「…逆に伯爵家への負担になりませんか?」
「大丈夫。あの家は、ルナスティアの中でも特殊な位置にいるから『里』でも簡単に手は出せない」
…なんか不安になるんですけど?
俺はその伯爵家を継ぐんだぞ?
「まあ、『竜の里』は問題ないにしても、それがそのまま道中の安全に繋がらないのはあるんだけどね」
…明日は代用醤油を完成させようかな。
兄さんの言葉を聞きながら、俺は現実逃避気味にそう考えるのだった。




