初めてのフラグ回収 ~よりによってこれかい!~
「クライム! すまん! そっちへ行った」
「大丈夫だ。それより前に集中してくれ」
前から襲い掛かってくる精霊をいなしながら、ギークと兄さんが掛け合う。
その横で、必死に剣を振るうアグルとフォローに入ろうとするジーヌが言い合う。
「アグル! 下がって!」
「無理! ここを抜けられたらヤバいって!」
それらを横目に見ながら、隣のアイシャへ声を掛ける。
「アイシャ。大丈夫?」
「はい。フォル様は?」
「こっちもなんとかなっている。けど、『精霊の領域』ってこんなヤバい所なのか?
先程からひっきりなしに狂った精霊が襲ってくるじゃないか! …ハッ」
目の前に迫った精霊を斬り付けつつ、アイシャに問い掛ける。
「そんな訳ないでしょ!
普通、往復する間に2体に合えば、運が悪いって言われるくらいの遭遇率よ。
じゃなきゃ誰も探索できないでしょ?」
「なるほど。
じゃあ、今回が異常と……。
なんかの予兆じゃないよな?」
「可能性はあるけど、おそらく今回の原因はフォルだね。
フォルの白の魔力に惹かれてやってくるんだと思う」
「ちょっと! クライム!
あなた、もしかしてこうなると最初から知ってたの?!」
「多少、精霊が活性化するんじゃないかな?
と思ってはいたけど、これは想定外だ」
「想定外…。
雷鳴の森へ来たのはある意味で大正解ね」
「だね。黄土の渓谷に入っていたら、今頃、傷だらけだ」
どう言うことだ?
種類が違うだけで精霊が襲ってくるのは同じはずじゃないか?
「兄さん、何故、黄土の渓谷じゃなくてよかったんですか?
あちらは多くの人間が出入りしている分だけ、精霊の数が少ないんじゃありません?」
「なるほど、そういう考え方も出来るね。
けど、狂った精霊の総数には、さほど差はないと思うよ?
彼らもわざわざ人間の前に顕れようとはしないものだし。
それに仮に今の半分くらいの数でも地精霊相手だと驚異だ」
「そうね。雷精霊なら、倒した後に残る精霊力も身に纏う魔力で無効化できるけど、地の精霊力相手にはちょっときついわ」
「精霊力の量そのものは同じはずなのにですか?」
「ええ。理屈は分からないけど、雷精霊なら倒した次の瞬間には精霊力も霧散する。
それなのに地精霊を倒しても精霊力が霧散するまでには1呼吸分くらいの時間がかかるわ」
…たぶん、質量の問題だな。
安定性と言ってもいいかもしれないが、ざっと8属性をみても火と雷以外は質量、物質としての安定性がある。
きっと火も倒してすぐに霧散するだろうけど、雷よりは時間がかかるだろうな。
雷はそのままの状態では自然界で安定しないわけだし……。
「こらぁ!
何、あんたらは駄弁ってるんすか!
そんな余裕があんなら助けてくださいよぉ!」
「すまない。どちらにしろ、このままじゃ後がないからね。
一辺領域の外へ出よう」
「良いのか?
せっかくここまで来たのに?」
「陸路は諦めて空路を選択するだけだよ」
「なるほど、殿は俺がやる。クライムとアグルで切り抜けてフォルを通せ」
「すまない。
フォル走るよ!」
兄さんの言葉に頷きながら、先程まで進んできた道へ向き直る。
ここで優先するべきは俺が領域を抜けることだろう。
そうすれば、これ以上の増援がやって来ない分だけ、ギークの負担も小さくなる。
「この年で冷静な状況判断出来るんすね。普通は、自分の性だから残るとか言い出しそうなのに…」
隣まで追い付いたアグルが感心しながら駆け抜け、
「うちの弟だぞ。当然だ」
とこの状況で威張る兄さんに一抹の不安を持ちながら後を追い掛ける。
…どうやら俺には、高所恐怖症の気があるらしい。
視界に広がる山々の景観に足がすくみそうだ。
『フォル。あまり下を見ない方がいいよ?』
頭の中に聞こえる兄さんの声に頷いて、やや遠くへ視線を向ける。
頬に当たる風が速さを実感させるよ…。
さすがに生身での空中体験は前世を合わせても初めてだ。
…ちなみに俺は今、竜化した兄さんの左手に乗って空を移動している。
他のメンバーは、先程とは別の箇所から再度アタックを掛けるらしい。
子竜クラスの兄さんでは1人を運ぶのが限度だし、幼竜クラスの俺を1人で飛ばすのは避けるべきだとして、この組分けになった。
『これなら最初から兄さんを連れてくるべきだったね。
そうすれば、皆で中心部まで行けたから』
「ガルド兄さんは成竜ですもんね」
…竜は産まれてから20年程で最初の脱皮をする。その段階で3メートル級の幼竜から7メートル級の子竜へクラスチェンジし、更に30年くらいで10メートル以上の大きさをもつ成竜になる。
中にはそれから更に時間をかけて、貴族竜とかにクラスチェンジする竜もいるらしいが、まあ、今は関係ない。
特徴的なのはクラスチェンジによって一気に成長する竜族は、他の種族のように毎日筋トレしても、一切筋力が付かない点だろうか?
成竜に成れば、極僅かずつ成長すると言う噂もあるが、今の俺達には関係ない。
「いっその事俺も竜化して飛びましょうか?
そうすれば、もう1人連れてこれましたし…」
『駄目だ。フォルは目立つから、王城内以外での竜化は禁止しただろう?』
確かに俺は白竜と言う珍しい竜ではあるが、
「さすがにセルラニア国内に里の竜は簡単に現れないのでは?」
…ここまで口にして気付いた。これもフラグだと。
『確かにそうだけど、何も里の竜だけが敵じゃないよ。
家をよく思っていない血統格は多い。立て続けに3人も雄竜を産んだ事への嫉妬に、はぐれ竜としては新参なのに国を治め、ホゼルと婚姻を結んでいる事も腹立たしいと考える輩。
数の少ない内にアルヴィスを取り込んで立場を上げたい血統格もあるだろうね』
「どれも不可抗力じゃないですか?」
『覚えておくといい。
欲の亡者に理屈は通用しないとね』
…まあそれは前世でも感じたことだな。
だが、人がより良い方向に進むのに必要な動力源も欲だ。
飼い慣らすか、支配されるかの違いにすぎないんだよな。
…ん? 今、右前方で魔力が動いたような?
「兄さん! 気をつ…」
…忠告は間に合わなかった。
フワっとした感じ。強い衝撃で兄さんの掌から足を滑らせたらしい。
これ、死ぬんじゃ?
兄さんもきりもみ状態で前の方に墜ちていく。片方の竜翼に一瞬だけ焦げが見えたよう…な…。
『おお、フォルセウスよ!
死んでしまうとは情けない』
『ここでまたドラ○エネタかい!』
思わず、ツッコミをいれて気が付いた。真っ暗な空間?
この間、…体感的には半月も経っていないあの世とは違うみたいだ。
声をかけてきた奴がいるはずなのに何も見えない。
『冗談だよ。
まだ、君は死んでいない。
何せ、フォルセウスとしての生に飽きていないからね』
『まるで飽きるまでは絶対死なないとでも言っているようだが?』
『うん?
やっぱり優秀だね。今の君は気を失っているだけだよ。
それよりも問題なのはお兄さんの方だね。
いくら彼が優秀でも、成竜3体は荷が重い』
『どうすればいい?』
パチパチと言う拍手が聞こえた。
『本当に優秀だ。
この状況で即座に助言を請えるなんて。
さすが…』
『さすが何?
少なくともあんたは敵じゃない。この状態で敵が兄さんの状態を言うメリットはないだろ?』
『君を騙して体を乗っ取るつもりかもしれないよ?』
『わざわざ、俺が起きてから?』
『…これだけ頭が回るとからかうのもつまらないな。
一時的に体の主導権を貸したまえ。それでお兄さんを助けてあげる』
『分かった』
『…君、いつか騙されるよ?』
『あんたは、俺の心に入ってこれるレベルの存在だ。なら最上級の婬魔か、神、契約を絶対に守らなければならない存在だろ?
だから、2人とも死ぬ可能性と片方は必ず助かる可能性とで天秤にかけるだけでいい』
『…そうだね。もういいよ。
最後に、忠告だ。君の人生は未知楽しむことで輝きを増すだろう。
未知を怖れないでね、本当に怖れるべきは既知の退屈だから。
じゃあ、おやすみ』
…最後に意味深な事を、気になっ…て…。眠れ…な……い。だろ…。




