テンプレは以外に起きないものらしい
目の前にそびえる山、…そう山だ。名前に偽り有りもいいところだろう。
たぶん、1000メートル級で結構な斜面も見える確かに木々も生えているがそれを森呼ばわりする気にはなれない。
…まあそれはいい。
まばらにかかっている雲に稲光が走り、雷鳴も響いているが、この際、それも気にしない。
では、何が問題か? 決まっている。
「何故、何の問題も無く目的地に着いた!
テンプレは?!
襲われている貴族とか商人は?!
お約束無視とかふざけるな! 世界!
仕事しろ! 運命!」
一先ず、思いの丈を叫んでみた! …日本語で。
こちらの世界の言葉で叫んだら、変な子みたいだし。
「どうしたんだい?! フォル! いきなりよく分からない言葉を叫びだして?」
俺の叫びを隣で聞いていた兄さんが驚いて尋ねてくる。
あ、これでも変な奴なのは変わらんかったわ。
「いえ、すみません。
あまりの奇想天外な光景に興奮して意味のない叫びをあげてしまいました」
「…ああ。精霊の領域は強い精霊力の影響で不可思議な風景の所ばかりだからね。
さて、武器の準備を整えたら、侵入開始だ」
「だな。アグル、得物に断霊布を巻くのを忘れるなよ?」
「分かってますよ。ギークさん」
兄の言葉に続いて、前衛で盾士のおっさんのギークがチャラそうな兄ちゃんの剣士、アグルに忠告する。
アグルは不満そうだが、ギークは兄さんと同い年のドワーフで熟練と言っていい冒険者だが、アグルは3年前に新しく加わったメンバーらしいからしょうがないのだろう。
ここに剣士兼魔術師の兄さんと治癒術士のラミーと斥候のジーヌが加わわった5人が兄さんのパーティー『開拓者』らしい。
ちなみに、このパーティーメンバーは兄さんの本名を知っている、つまり、俺の事も承知で同行してくれた良い人とのこと。
ただし、アグルとジーヌは魔狼族のアイシャに遠慮気味。獣人達の中では魔狼族は高位種族らしいからしょうがないと言っていた。
さらに言えば、ラミーの属する堕天使族は世界中を探しても30人くらいの超稀少種族らしい。自我を獲得した天使から派生した強力な種族とのことだ。
「フォル様? 我々も準備を進めますよ?」
「分かった。この布を剣に巻けば良いんだよな?」
余所事を考えていた俺にアイシャが準備を促す。
その声に従い、新品の布を巻き始める。精霊に干渉できる特別な呪術が施されているらしいが一見すると包帯にしか見えないな。
「はい。基本的、正常な精霊なら人を襲うことはありません。
しかし、極端に精霊に偏りがある『精霊の領域』ではかなりの頻度で狂った精霊が発生しており、それらは人を襲うらしいのです」
「それに対抗する為に断霊布を巻く。けど、これって、魔物には効果無いんだろ?」
「ああ、だからある程度実践慣れした人間は、武器に魔力を纏わせて戦う。
…普通の人間にそんな集中力と魔力は無いけどね。
話がずれたね。『精霊の領域』では、精霊以外の存在は顕れないから問題ないんだ」
「そんなものですか?」
「…ついでに『精霊の領域』について説明しようか?
『精霊の領域』は特定の属性の精霊のみが集まっている領域だ。
特徴は精霊力が偏っているからこの領域には生物は棲めない事とこの領域内の物には精霊力が染み付いている点。
後、領域の深部へ行くほど強い精霊がいる事かな」
「やっぱり、精霊にも強弱があるんですね。
…どうしました?」
俺の呟きに頭を抱えた兄さんへ問いかけた。頭を抱えるような変な事言っていないはずだが?
「…ごめん。
せめてその程度は予習させてから来るべきだった」
「そうですよ。クライムさんはいつも急にダンジョンアタック掛けるんで、こっちは合わせるの大変なんすよ?」
謝る兄さんへここぞとばかり文句を言うアグル。…そうだよな。
彼らにも生活があるわけだし……。
「しょうがないのだろう?
悠長に準備した挙げ句『竜の里』にちょっかい出されたらたまらないしな」
「そうね。切り抜けるだけならなんとかなると思うけど、そんな状態じゃアタックそのものを中止するしかなくなるわ」
あ、意外と理解があるんだ。ギークとラミーがフォローを入れている。
この人達普段何しているんだ?
「驚いた?
私とラミーは王都近くの森で狩りをしながら普通に生活しているし、ギークなんかは鍛冶工房を持っているから気晴らしの冒険で十分なのよ」
「急な呼び出しで困るのは、フリーで助っ人をやってるアグル君くらいね」
「無茶言わないでくださいよ。
俺はまだ冒険者歴短いんすよ?
皆さんみたいな蓄えありませんって」
「その辺は何か考えよう。
一先ず、今はこれから入る『精霊の領域』についてだ。
精霊は大きく分けて無我精霊と自我精霊に分かれる。無我精霊はただの精霊力の塊で、自我精霊はそれぞれが個性を持つ1つの生物のようなもの。
更に、自我精霊は保有する精霊力の大小で様々な階級に分けることが出来る」
「じゃあ、今回も結構奥まで行く事に?」
「うん。
最深部まで行く予定だ」
…今から?
もう昼過ぎだよな。ダンジョンアタックってこんな簡単に仕掛けるものか?
「大丈夫。
道沿いに行くだけだし、2時間もあれば余裕でたどり着く」
…判断に迷うな? 普通に考えたら、どう考えてもフラグなセリフ。……それも遭難系の。
だけど、どうも俺はフラグを引き寄せないアンチトラブルメーカーみたいだし。
警戒しないでもいいかな?
「じゃあ、行こうか?
基本的に一本道だし、はぐれることはないと思うけど、はぐれた時は、石畳を見つけてその道沿いに歩いて行けば出られるから、そのように」
……うわぁ、フラグを強化したぞ。この人。
大丈夫か? 本当に。
……一抹の不安を覚えながら、俺は『雷鳴の森』へ足を踏み入れた。




