課外授業 精霊魔術の優劣
「さて、じっと火の番をするのも苦痛だろうし、少し講義をしようか?
フォル。
明日の昼くらいに分かれ道に着くのだけど、どちらに行くかも決めなくてはならないしね」
焚き火の向こう側に座る兄さんが静かにきりだしてきた。
交代要員として寝ているアイシャと兄の友人達への配慮だろう。
「どちらに?」
「うん。
王都から往復3日以内で行き来出来る『精霊の領域』は土精霊の棲む『黄土の渓谷』と雷精霊の棲む『雷鳴の森』の2箇所がある。
今回行けるのはどちらか1つだし、『里』の連中に干渉される危険性を考慮するなら、今回が唯一のチャンスとなる」
「『竜の里』ですか…」
「うん。追放した母さんがいる王都には近付かないけど、そこを離れていると知ったら僕達を里へ勧誘しに来るだろうね」
王都に行けば、見下した相手に頭を下げる羽目になるしな。
そんでもって勧誘はルビに誘拐とか付くんだろうな。
「そのわりに、ガルド兄さんはしょっちゅう国内を飛び回ってますよね」
「兄さんの場合は、本人が強い上にホゼル血統と全面戦争になるからね。
ウチと違ってホゼル血統は、10人を超える上位竜がいる。
余程のことがなければ、手は出せない。
義姉さんがいるから、自分からやって来たなんて口が避けても言えないし…」
「それが分かっているなら、結婚しようとは思わないんですか?」
「さすがに保身目的で好きでもない相手と結婚する気はない。
今はフォルやリムの面倒を見ている方が楽しいし」
…内政めんどいと言う副音声が聞こえそうだが、突っ込むべきではないか。
それよりは本題に戻った方がまだ有意義だ。
「それでどちらの精霊の領域に行くべきか、ですね?」
「ああ、僕個人としては、契約者の少ない雷精霊と契約してくれるとありがたいけど、為政者にとって非常に価値のある地精霊だと比べようもない」
…どういう事だ?
普通は派手で強力な雷の方が人気が高そうな気もする。某タイトル詐欺的国民ゲームじゃ勇者専用だったはずだし。
「…ふむ。
雷は非常に不安定な属性なんだ。
弱い状態では相手が纏う魔力で無効化され、落雷規模になると相手を滅殺する結果になる。
中庸がないんだよ。しかも、戦いでしか役に立たない」
…ああ。この間のアイシャの反応でも分かった事だったな。哲学が発達していないなら、その孫の科学も低レベルに決まっているじゃないか。
そもそも、電球が発明された近代のヨーロッパでも、一般人はそれと空から落ちてくる雷が同質の物だと理解していなかったらしいんだから、当たり前だな。
けど、地属性が役に立つってのもな? 地味な印象があるし。
「難しい顔をしているけど、どうしたんだい? フォル」
「いえ、何となく地属性の方が役に立つと言うのが気になりまして…」
率直に訊いてみることにした。俺自身は雷を選ぶ気満々なのだ。伯爵となるなら必要な属性持ちの人間を後から雇えばすむ。
その時に地属性の方が集めやすいなら、雷をとっておくべきだから。しかし、この世界での価値を知っておくのも重要だろう。
沢山の術者がいても、それを雇えなければ意味がない。
……需要と供給の問題だな。
「例えばこの道。石畳が敷いてあるだろう?
これは地属性持ちと石属性持ちが協力すれば、王都からここまで2人で3日くらいで出来る。
けど、一般人の工夫を雇って同じ事をやらせるなら10人で1月の作業になるだろうね」
「…! そんなに違いますか!?」
「当然だろう。馬車2台が通れる幅の地面を拳1つ分も削り取るんだよ?
しかもそこに石を敷いて表面を水平になるように調節する」
…そうか。俺自身も前世の感覚が抜けていなかった。アスファルトは愚か、コンクリートさえないのだし。
そもそも掘削機械さえない世界だぞ。ここは。
「もしかして、地属性の術者って人件費も高いんですか?」
「人件費? …ああ、給金の事かい?
高いよ。何せ、地属性持ちなら生涯生活に困らないと言われるくらいだしね。
他の魔術士の4倍くらいが相場だったと思う」
驚き過ぎてうっかり人件費とか言った俺の言葉を軽く流してくれる兄さんは素敵。だけど…。
「高いですね」
「うん。ちなみに治癒とかが得意な水や鍛冶に役立つ火属性持ちが2倍くらい」
「治癒系の魔術以上の価値が!」
「あるよ。治癒系統は神聖魔術にあるだろう?
属性持ちじゃなくても、魔力と修行で身に付けられる」
…ここでも需要と供給か。ファンタジーの世界なのになんか世知辛い。
「それでどうする?
勿論、どちらかを強要したりしない。あの新しいパンを考えたフォルならどちらの精霊と契約してもきっと有意義に活用してくれるだろう?」
…この人。実は俺が異世界の記憶持ちだと知ってるんじゃないだろうな?
とは言え、難しい選択だよな。
希少価値と実績の高い属性の2択だよ。これ?
まあ、俺は悩まないけど……。
さあこの食わせ者の兄は驚いてくれるだろうか?
「そうですね。俺は…」




