12歳でも女です!
「あ、あの、姫様?」
「あによ?」
「ひぃ」
いけない。イブリスの呼び掛けに思いきり、不機嫌に返してしまった。
長年私付きの侍女をしていた彼女が怖がるなんて相当な殺気を向けていたみたいね。
怒りを向けるべき相手は私が寝ている間に夜逃げみたいに城を出ていったフォル達3人だったわ。
「ごめんなさい。何かあったの?」
…何もないはないでしょうね。あからさまに不機嫌な私に声を掛ける必要があったと言うことだから。
「はい、サティ様とジュエル様がご来訪されたのですが、どういたしましょう?」
「へぇ、2人とも間が悪いわね?
もちろん、会うわよ。
『私』を訪ねてきたお友達をそのまま帰すのは失礼だもの」
…ここで帰した挙げ句、『偶然』フォル達と合流されても腹立たしいしね。
「それではすぐにお連れするように手配します」
にっこりと笑うイブリスにこちらの意図が正しく伝わった事を理解する。
…丁度良いわ。
フォルがいないこのタイミングであの2人を牽制しましょう。
「機嫌は直りましたか? 姫様」
「あの2人の無駄骨を思うとね。
やっぱり、一緒に住んでいるアドバンテージは大きいと実感したし」
「しかし、それにも時間制限がございますよ」
「分かってる。フォルは12歳からルナスティアの王立学園に入る為に伯爵家に移るんでしょ?」
「はい。いくらフォルセウス様が優秀と言えど、人脈なしで領地経営はできませんから、他の魔貴族家と交流を持つことになります」
「同時に魔族以外からの注目も受け始める…」
「そうなれば、姫様が側室筆頭になる可能性も下がることになり…」
そこまで言った所で、急にイブリスが話し止めた。それと同時に扉をノックする音が響いた。
…現状の確認をしている間に2人が着いたみたい。扉に向けて、どうぞと声を掛ける。
「お久しぶりね。リム。丁度、近くまで来たから寄らせてもらったわ」
腰に届くほどの金髪に碧眼の穏やかそうな女性、サティーア・ベージュスが片手を挙げて声を掛けてくる。
その脇を通り抜けて何かが抱き付いてくる。
「お久しぶりです。リム姉様」
ジュエル・アジェ。同い年の伯父さんとは大違いに表面上は可愛いらしい妹分。
長い黒髪は綺麗に整っている。
「元気そうね。ジュエル。
サティ姉も久しぶりです」
「サティ様、ジュエル様、お茶の用意を致します。こちらへどうぞ」
イブリスが椅子を用意しつつ、2人を招く。さすが私付きの侍女。
「ありがとう」
「はぁい」
等間隔で向き合うように座る私達の前にシソルのお茶がおかれる。
そういえば、昨日フォルが「紫蘇なのにカモミール…」って呟いていたわね。どういう意味かしら。
「…それにしても結構急な訪問ですね?
しかも2人揃って?」
「ルシアの所からの帰りよ。
フォルの事を訊くためにジュエルを呼びつけたのだろうけど、幼いジュエルだけじゃ説明しきれないかなと思って、『偶々』一緒にいた私が同行した訳」
「…ルシアには困ったものですね」
…ルシア・バルカ。竜の両親を持つ私と同じ純血竜。だけれども、それを鼻に掛けて威張り散らす愚女。
「本当にね。
いくらアジェがバルカより血統格が低いからって訊きたいことがあるのに呼びつけるなんて…。
しかも同行した私にも噛みついて来たわ。
あの子の理屈で言えば、ベージュスの方が血統格が上なのに」
盛大に溜め息を付くサティ姉。きっとあの子の事だから、純血竜は、血統格より重要だと思い込んでるんでしょうね。
「何を言われたんですか?」
「さすが、伯爵魔族の側室を目指している方はお暇ですね。純血じゃないからプライドもありませんでしたか? ってね」
「それ、間接的に私やアルヴィス血統を馬鹿にしていますよね?」
相変わらずの暗愚っぷりね。竜は血統格と魔力量、属性質の3つでお互いを評価する。
その3つ全てが上位の私やサティ姉をたかがバルカ血統の純血竜風情が見下すなんて。
そもそも、純血どうこうを言い出したのは、中位血統格の竜達、派閥の力関係とかのせいで、中々純血竜が生まれない上位血統格への対抗心に過ぎない。
「ええ。小物だから簡単に同族婚が出来る連中が羨ましいわって返しといたわ。
当然、アルヴィスとの婚姻なんか考えていないわよね! とも」
「あらら、フォルに興味があったから呼んだのに強制的にフォルに近付けなくされたと」
「それどころか、あの子個人は、婚約者出来るかしら?
ベージュスとアルヴィスを敵にまわしてまであのような扱いにくい子を嫁に迎えるのって相当な被虐趣味じゃない?」
「…ですね。
それで帰りにウチへ寄って忠告と」
「ええ、直接フォルに伝えたいのだけど…」
…それが本音ですね。
厄介な女の情報を与えてフォルの好感度上げる気…。
変わらず愚かなルシアは、利用されて終わりと。
「フォルはクライム伯父様と城を出られています。何時帰られるかは聞いていません」
…2、3日は掛かりそうですがっと。心の中で付け足します。
「…そう。あ、アイシャちゃんは?」
「もちろん、フォル達に同行してます」
「そうよね…」
さすがに聡明なサティ姉。側室第2位が確定しているアイシャへすぐに標的を変更する気転の良さは大したものです。
「リム姉様。2、3日泊めさせてもらうのはどうでしょう?」
「歓迎よ。ゆっくりしていって」
多分、フォルとはあまり話せずに帰る事になるでしょうけど。
…馬鹿ルシアを始めとした中位血統格やアルヴィスと親交のない上位血統格よりこの2人の方が遥かに警戒人物なのよね。
伯爵家を継ぐフォルは、正室に伯爵家の令嬢を迎える必要があるから、竜族の私達が狙うのは、側室筆頭。
その次となる側室2位は、伯爵家私兵団を纏める魔狼族族長の娘アイシャ。3位は伯爵家寄子の子爵や男爵家から…。
その次となる4位も竜族から出せるけど、私やサティ姉では地位が低すぎる。
血統格と魔力が低いけど、希少な固有魔術持ちのジュエルも親が難色を示すでしょうし。
けれど、それまでに入れればマシで、5位を有力種族から迎えるとそれ以降は、非公式の愛人でないと駄目になる。
フォルみたいな優良株の愛人なら十分魅力はあるのだけど、周りは怒るでしょうね。
本当は年齢的にも近いクライム伯父様とサティ姉がくっついてくれるとありがたいのだけど、あの伯父様の奥さんになれるような心の広い人には心当たりがないわ。
しかも、伯父様の父親は一介の学者だから、領地経営も一からスタートだし。
…難しい問題なのよね。
私だと血統が近すぎる、…竜族は近親婚何て気にしないけど、ホゼル血統の影響力が大きくなり過ぎるという意味で。
サティ姉だと年齢差が大き過ぎる。100年も生きれば気にならないレベルでも、フォルが側室筆頭を迎える必要のある17歳の時点で倍以上の歳の開きは、問題視される。
ジュエルに至っては血統格が低過ぎる。いくら固有魔術を持つとは言え、人間の身分制度に例えるなら、王様と平民程も差があるのよね。
はっきり言えば、3人それぞれが1つずつ不利な弱点を抱えているけれど、それらの要素を全て加味しても、結局、フォルが奥さんにしたいと言えば、文句も出ない。
無理矢理くっ付けて子供が出来ない方が竜族としての損失は大きいから。
…だから、どうにかこの2人を出し抜きたいのよね。大事な友人ではあるけど、恋愛と友情は別物だし。
女と言うより貴族的と言うお話。




