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転生領主とその周辺  作者: しから
セルラニア編
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取説付き秘宝?

「そもそも、持っただけで使い方が分かるものですか?」

「ああ、俺も驚いたが…」


 訝しげに訊いてくるアイシャへ向き直りつつ、説明の仕方を考える。セーフティって何て言ったっけ? …そうだ。


「恐らく、ある種の安全装置だと思う」

「すみません。安全装置と言うのは?」


 しまった!

 そもそも、安全装置と言う発想は、この文明レベルなら必要ない。

 銃に安全装置が付けられたのは、簡単に発砲する事が可能になったからだ。

 火縄銃のような原始的な銃は縄に火を着けないと発砲しないから、わざわざ安全装置など付けないのが当たり前だ。

 機械も同じ。

 熟練者でしか操れない物ばかりの時代に安全装置など考えるはずがない。

 地球上でも安全装置が必要になったのは産業革命以降…、未熟な初心者でもある程度動かせる蒸気を動力として利用する機械が産まれてからじゃないか。…やむを得ない。ここは!


「小さい子供に剣を持たせるのは危険だろ?

 使い方を知らないから刃筋を起てることも出来ずに怪我をするのがオチだろ?

 だが、知識さえあればそれを防げるかもしれない。

 この秘宝に関しては使い方を誤った時の被害がバカにならないから、知識を与えるんだろうな」


 勢いで押しきる。今必要なのは安全装置の説明ではなく、このペンダントの性能だから問題ないはずだ。


「それほど危険な代物ですか…」

「…危険かなぁ?

 たぶん殆んどの人間には使えない無用の長物だぞ? これ」

「無用ですか?

 強力な魔導具でしたらどのようなものでも便利なのではないですか?」

「…使用に必要な要求魔力が異常に高い。

 俺でも励起させるのは10分が限界だ」

「え?」


 アイシャが石化した。

 …気持ちは分かる。俺は現時点でも2人の兄より保有魔力は上、この王都の全魔導具を励起しても余裕がある。

 そんな俺が10分しか励起出来ないなど普通では考えられない。


「伝承にある初代魔王の魔力量を推察すると、現時点の俺とそう大差がないだろうし、扱いにくい道具だったんじゃないかな?」


 …爺様の初代ルナライトを気にかけてと言う言葉も疑わしい。


「…その、どのような効果を持つ道具なのでしょうか?」


 アイシャも言いにくそうだな。

 歴史が捻れ曲がるのは当たり前の事とはいえ、ルナライトがよろしくない立場だったとなるのは、いい気分ではないしな。


「存在力の略奪だな。

 概念攻撃を可能にする超兵器とでも言うべきか?」

「存在力と言うのは?

 聞き慣れない言葉なのですが?」


 …だよな。たぶんこれはこの世界の人間だと理解出来ない。

 便利過ぎる魔術が哲学的な思考分野の発達を阻害してきただろうし。


「俺も完璧に理解したとは言いがたいが、目の前に本があるだろ?

 俺達がそれを『紙の束』ではなく『本』だと認識するのは、それが本としての存在力を持っているからだと言う事だ」

「え? え?」

「訳が分からないだろ? こうとしか説明できないがな。

 実際にこれを使ったと仮定した方が分かりやすいかな?

 これを励起状態にして、目の前の本を斬りつけると本としての存在力を失う。

 つまり、本なのに本として機能しない矛盾の塊へ変化する訳だ。

 それは世界の綻びになるから、修正力によって消滅する事になる」

「ええと?」

「……この鎌で斬りつけるとどんな存在も消滅するで良い」

「申し訳ありません。

 ……鎌?」

「ああ。このペンダントの励起状態は俺より遥かに巨大な大鎌だな」

「…斬りつけた相手を消滅させる。……大鎌」

「どうした? 顔が青いぞ?」

「何で思い至らないのですか!

 建国の最秘宝『砕魂の魔鎌』ですよ!」


 …建国?


「【初代魔王陛下は月の女神より賜った魔法の鎌で、不死の森のノーライフキングを討伐し、そこに国を築いた】です!」

「ああ! 昔読まされた本にそんなのがあったな」

「……その本と言うのはルナライト伯爵家興史と言う題名では?」

「…たぶん?」

「たぶん? じゃありません!

 仮にも伯爵家次期当主が自らの家の歴史を軽視しないで下さい」

「けど、あまり面白いものじゃないぞ。実際」


 興史、つまり、その家がどういう風に興され、これまでどのような変移を辿ったかを書いた物だが、最初の10ページ程にルナスティア王国建国の歴史が書かれ、ついで、初代伯爵シンシアの活躍、2代目以降の施政と続く。


「つまらないとか言う問題ではありません!

 それこそ貴族がその領地や役職を全うする為の根拠なのですから!」

「分かってるよ。だから、それその物は否定していないだろ?

 と、アイシャのせいで横道に反れたな。

 つまり、これが建国の礎となった神器だと言う事だな?」

「私のせいではありませんけど、その通りです。

 いかがしましょう?」

「別にどうもしないよ?」

「しかし、行方不明の神器を発見したのですよ!」

「発見なんてされていないさ。

 何せ、俺クラスの力がないとただの首飾りなんだぞ?

 死体のない殺人は事件にならないんだぞ?」

「…はあ。まあ良いです。

 確かに厄介事になりそうですし」


 …だよな。

 けど、このアーティファクト。ノーライフキングを討伐する為の道具としては強力過ぎないか?

 概念の強制化なんて対神用武装と言われても納得できてしまう。

 ノーライフキングと言うのは貶められた神なのでは? と考えるのは少し日本人臭いかねえ?


「まあ、本当に困った時しか役に立たない武器だが、ペンダントだと思えば、良いだろ」

「私はさっさと忘れることにしますよ?

 フォル様が責任を持って管理してくださいね?」

「分かった。……結局、強くなる手段はなかったな」

「それこそ、ダイクライム様が考えて見えますよ。

 今日のところはおやすみ下さい」

「そうするよ」


 …今は寝る子は育つと信じよう。それが10歳児の限界だ。

 実際、かなり眠いしな。

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