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転生領主とその周辺  作者: しから
内政チートの始まり
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102/108

工事現場の視察 更に寄り道

16日目


「若様方、足元にご注意ください」


 農業の試作準備も整い、巡回従士と合流してレルテへの帰路につく予定は急遽変更となり、村からやや南下した位置にある森に踏み入っていた。

 腐葉土を採集する予定のこの森で数体のオークナイトを発見したので、従士隊と一緒にその狩猟に参加することにしたわけだ。

 念の為に言っておこう。

 討伐でも撃退でもなく狩猟と言う話だ。

 何処かの狩ゲーでもあるまいし、何の冗談だと思ったが、魔大陸ではDランク相当の魔物であるオークナイトもただの食用肉でしかないらしい。

 従士5人に加え、村人10人が参加しているが、その村人も月に1度くらいの割合で森に入って、オークを狩っていると言う。

 西大陸ではただのオークが5体も現れたら、それだけで騎士団派遣を考える話だと聞いていたんだが……。


「基本的にオークは集団で行動します。

 腕力も我々と変わらないくらいありますが、鈍重ですので攻撃そのものはよほどのことがなければ当たりませんし、魔術の類いも使わないので魔物の中では楽な部類なんすが」

「鈍重?」


 護衛役の若い従士の言葉に疑問を返す。オークの棍棒を避けれれば冒険者として一人前と言う話だったような。


「すいません。身体強化の魔術を使っていない時の魔人族くらいの早さはありますから、獣人以外にはやや危険かもしれないっす」

「つまり人族並みの早さで腕力は獣人並みと言うことか?」

「そっす。ただ頑丈さはあっちが圧倒的に上です。

 斬ったと油断すると横から棍棒で一撃なんてよく聞くっすね。

 首を切り落とすように心掛けて下さいっす」


 なるほど、それなら人族には危険だな。


「いたぞ!」


 右の方から声が響く。アイシャと一緒に行動している魔術師だな。

 この辺りでは珍しい梟系の翼人種の女で、見た目は某RPGのアウルベアみたいな感じ?

 オークよりケモ度が上で並んで出てきたら、むしろそちらの方が敵に見えそうだが…。

 魔物と人の境は、多種族と共生できるかどうかになるらしい。

 分かりやすく言うと子供が出来た時に全てのパターンで親と同種族になるならソイツは魔物と言うわけだ。

 その定義で言うと竜族も半分魔物みたいと感じる時はある。母親が竜族なら子供は100%竜族だし、父親が竜族でも時々混じり子と言う竜族が産まれることもあるからな。

 まあ、訳の分からない生き物はおいて、魔物についてだが、こいつら多分この世界の生物じゃないだろう?


 オークとかは雄しか存在せず、他の生物の雌を拐って繁殖する訳だが、恐らく本質は無性生殖。

 性別は雄ではなく、無性。

 男性器ではなく、相手の生物へ胚を入れるための移送器官と言う落ちだろう。

 そうでなければ、遺伝子の交雑が起きなさすぎる。


『自分のクローンを他の生物に育てさせているってこと?』

『多分な。

 そうでもないとどんな生物が相手でもオークを産ませるっと言うのは不可能だ。

 それを考えると魔物と言うのは明らかにこの世界の理を無視しすぎている』


 あちらの知識があるアリスなら納得できるだろうが、他の者は無理だろうな。


『それじゃあオークナイトとかの上位種は?』

『無性生殖でも遺伝子の変異はある。

 効率はかなり悪いがな。

 これが有性生殖メインならオークナイトが主流種となり、劣等なオークは駆逐されているんじゃないか?』

『あり得そう。…パパ、棍棒迫ってる』

『おい‼』


 アリスののんきな忠告に前を見れば、確かにオークの棍棒が迫って……。

 ……遅いな。


「さすがにこの速度はないだろ?

 遅すぎる」


 腰に指したショートソードを薙いでオークを上下に両断する。

 ……弱いな。一先ず、剣で相手を牽制するつもりだったんだが?


「スゲッす!

 さすが竜族っす‼

 オイラ達黒狼にも見えない、神速の剣っす」

「…地が出ているぞ?」

「!

 すみませんっす。それなりに気を付けているつもりなんすが、つい」

「まあ、俺は気にしないがな。言葉使いを直して強くなる訳じゃない。

 それよりも、先の剣撃はお前達の目から見ても速かった?」

「ですよ?

 ただかなり力任せっすよね?

 剣の方は無事っすか?」


 言われてみた鉄の剣は中央近辺に一本の筋が走っている。…骨に当たった感じもないのにこれはひどい。竜族のスペックってマジでヤバイな。


「…ダメっすね。

 元々、若様は随伴しているだけっすし、後ろに下がっててください。

 後はオイラがやるっす!」

「頼んだ」


 そう言って近くのオークへ向かう若い黒狼を見れば、入れ替わりにリムが近付いて来るのが分かる。


「バカ」

「言うと思ったよ!」

「多分、リンラちゃんのフィードバックだし、しょうがないよ?」


 口の悪い姪に返す言葉を現出したアリスがフォローしてくれるが、


「「フィードバック?」」

「うん。今のリンラちゃんはパパの契約精霊みたいになっているんだけど、本物の精霊と違って力の外縁が分かっていないと思う。

 パパから貰った力の余剰分をそのまま拡大術式にして返しているんじゃないかな? ……………んだけど」

「お互いにエネルギー制御が出来ていないせいで身体強化魔術が常時掛かりっぱなしっと?」


 …言われてみれば、今回の視察は強行軍のわりに俺の疲れは少ない。

 所々で抜けだしている婚約者達と比べれば遥かに疲労しているはずなのにそれがないんだよな。

 納得の行くカラクリだ。それよりもアリスが最後にボソッと呟いた一言が怪しい。

 契約精霊のアリスの言葉を俺が聞き取れない訳がないし、こいつはこいつで何かやらかしているんじゃないか?

 ……ま、いっか。

 アリスが俺に不利になることをするとは思えないし。


「そう言えば、リンラと言えば契約の時に『ガイア』と言う名を与えたんだが、この世界にも大地を示す言葉の1つに『ガイア』があるのだろうか?」

「え?」

「若干わざとらしいが、追求は止めておくか。

 アリス、あまり遊びすぎないように」

「そこは追求しなさいよ‼」


 怒り出すリムだが、何を怒る必要があるのだろうか。


「俺の魔力を供給源にしているアリスが俺に不利なことをするはずないし、精霊の1柱が世界を混乱させるほどの力をむやみに振るうとも思えんぞ?

 ……放置した方が面白そうだし」

「それが本音ね!」

「うむ。俺も少し位ははちゃけたい。

 オークについては少し思うところがあるんだが、セルラニアとかでは牧畜行われていたよな?」

「それは人族と魔族の能力差ね。

 簡単に魔物がいる森で狩猟が出来る魔族と違って、脆弱な人族が食肉を安定確保しようとすれば、牧畜に頼るしかないの」

「…それは分かる。

 むしろ、魔族の方でも牧畜文化を根付かせたいのが本音だ」


 いくら簡単に手に入ると言っても、自然を相手取るのだから安定供給が必ず出来るとは限らない。

 獲物が少ない時もあるだろうし、森で怪我でもされたら穀物生産力が落ちて困ってしまう。

 オークが本当に無性生殖の生物なら…。

 食肉生産プラントを作っても良いかもしれん。

 胚を回収して、ゼリーを作る技術を利用した培地培養を行い、電気で分化を抑制するように誘導する。

 そこから必要量を切り取って、目的の部位へ分化させて精肉。

 そうすれば、1k㎡の敷地で1日に数トンの食肉を生産できるだろう。

 味の良い個体を選別していけば、品質も向上するだろうし、悪い個体はすりつぶして培地へ戻せば、リサイクルも出来る。


『…ウワッ、完全に生命への冒涜だ』

『何を言う、牧畜と何も変わらん。

 脳を作らせないから自我もないし、相手は冒涜されていることも分からないのだぞ?

 それに無計画にポンポン子供を作って、中絶を繰り返す日本の頭が空っぽの女よりよほど良心的だ。

 問題はあるが…』

『問題?』

『うむ、スライムのような不定形じゃなくて、オークには筋肉があり、骨があり、内蔵がある。

 細胞にアポトーシスが組み込まれている可能性は高い』

『アポトーシス?』

『細胞のプログラム死。

 細胞が無計画に増殖したら、生物の形を保てなくなるだろ?

 それを防ぐ機構が多細胞生物には組み込まれている。

 それが作用すれば、ある程度の期間で細胞塊は縮小して行くことになる。

 その度に新しいオークを捕獲するのは効率が悪い。

 精巣じゃなくて、胚嚢か?

 それの機能が高くて、切り落として数日でも中の胚が死滅しないなら多少はましだが…。

 アポトーシスを防ぐ為に癌化させるのも…。

 地球と同じ遺伝子機構かも分からないしな?』


 傷の治り方を見る感じでは大丈夫そうだが。

 …生物と言うのは効率重視で出来ている。世界が違っても似通った機能になるのは必然だろう。遺伝子の仕組みも同じだと思うが…。


『癌化って出来るものなの?』

『地球と同じ構造なら簡単だぞ?

 酸素を遺伝子にぶつけると遺伝子の配列がずれる。4つの遺伝子の1つにチミンって塩基があるのだが、これは酸素との親和性が高くてな。

 酸素にくっついて機能しなくなったり、1つの酸素を介して幾つものチミンがくっついて、チミンダイマー(2つのチミンの結合体)やチミントリマー(3つのチミンの結合体)になる。

 そうなると命令タンパク質を作る時に間違った配列で組んだりして、おかしな命令を出すタンパク質の出来上がり。

 おかしな命令を受け取った細胞はそのおかしな指示にしたがって行動する。

 それが癌だな』

『ちょっと待った。酸素って生きていく上では重要な物よね?』

『ああ、一般的な生物は酸素を利用して生きていく為のエネルギーを作っているからな。

 その時に余って体に残った酸素が、活性酸素(アクティオキシジェン)。発癌性があると世間を賑わすやつだ。

 それを防ぐポリフェノールは酸素にくっつきやすい還元物質。これを植物が生成した理由には、自分の酸化を防ぐと言う説の他に恐竜に食べられるのを防ぐと言う説もあるぞ?

 ポリフェノールを大量に摂取した恐竜は下痢になったと言われている』


 おや、話が大きくズレた。


『癌化をさせるのは意外と簡単だ。

 食塩から生成した塩酸に焦げになった肉とか魚を入れる。

 タンパク質の焦げたものは、窒素酸化物(ソックス)を多く含むから、塩酸と反応すると硝酸と塩素になる。

 その硝酸は強酸であると同時に発癌性物質でもあるからな。

 更に言えば、その硝酸に海藻を燃やした灰を反応させると硝酸カリウム。黒色火薬の原料が作れたりするな。精製しないとかなり粗悪だが、戦国時代くらいの火薬よりはよほど品質が上だぞ?』

『またズレたよ』

『すまんすまん。

 これは出来ればレベルの案だな。

 癌化をした時点で味が悪くなったり、最悪毒性を帯びる可能性も0じゃないからな。

 品質維持は難しいだろう』


 奥の方で歓声が上がっている。どうやら無事に狩猟が終わったらしい。

 鼻と耳が良いオークが残っているのに大声を挙げるはずもないからな。

 …後は、後始末をして帰るだけか。



 ……やることが一杯で気が重いが。

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