工事現場の視察 寄り道
15日目
予定していた各所の視察を終えた帰り道、レルテへと至る街道をそれて、訪れたのはジルと言う名の小さな村だ。
騎士や従士のような統治者はなく、村長が顔役をしている村で特に特産もなく、獣人族10世帯強の家族が暮らす村。人口は100人を僅かに下回ると聞いた。
この学園都市への街道が活発になれば活性化もするかもしれないが、現状では疎らに木の生える林が間にあるせいで馬車の乗り入れが面倒で、今一パッとしない農村。
しかし、レルテ近郊にあるため農法が時代遅れと言うこともないだろうと、農業の現場視察に訪れた。
同行者はリムとアイシャだけ…。困ったことに穀高の重要性をしっかり理解しているのはリムだけで、他の者はピンとこないのか居心地悪そうだから、先に帰路につかせた。
エルフ解放作戦の必要性を報告させる必要のあるアゼルも帰す必要があったし、村民合計で96人しかいない村に10人以上の滞在者は邪魔だろうと護衛も同行させ、身の回りの世話と護衛をアイシャに一任した。
俺達は明日まで滞在し、朝一に訪れる予定の巡回警備隊に同行してハージヒルムへ帰る。
「……以上でございます」
「主に代わり礼を言います」
村の中央にある畑で、土の具合を見ながら聞いていた村長の説明、それのお礼をアイシャが代表して言う。
この為にアイシャが残っているとも言えるので文句も言えないが、…本当に面倒だ!
村長と言う管理者と言えど、伯爵家の治める土地の村民。身分差の問題でこのような公の場で俺が直接礼を言うのは認められない。
支配者と被支配者の関係が対等ではないと常にアピールする必要があるからだ。
とは言え、相手も折角説明しているのに「そうか」の一言では気分が良くないだろう?
そう言う時に従者がいれば、従者と対等なら、主とは対等ではないと言う建前と人としての礼節を両立出来る訳だな。
従士相手なら気にする必要もないんだが…。
話が脇に逸れた。
今重要なのは身分制度の確認ではなく、農業の向上だ。
話を聞く限り、種を蒔いて草を引き、収穫して畑を燃やすかなり古い方式の農法。
鳥を利用した防虫管理もしていないところを見るに地球における紀元前のレベルだ。
それもヨーロッパではキリスト教が成立する前に七面鳥を冬至に食べる風習があった。
これは日本の水田のアイガモ農法と同じように利用した七面鳥を冬越しさせる余裕の無い生産力から、潰していたのが起源だから、こと農業を軸に見るとその技術は紀元前数百年レベル。
それを身体能力でカバーして中世ヨーロッパレベルの生産にしているのだから、とんでもない話だが…。
それじゃあこの村から始めよう。
「まず、土だがかなり痩せている気がするな?」
「痩せている。でございますか?」
狐耳を揺らしながら聞いている村長がオウム返しに呟く?
…ああ、土が痩せると言う概念がないのか。
「土がサラサラで水を撒いても上手く固まらないだろう?
これは土に栄養がない証拠だ。これを痩せていると言う」
「栄養と言うのは?」
「……作物のご飯と考えていい。そうだな?
森の中の土とは全然違うだろう?」
………先が思いやられる。
2時間後
長々と問答をして、決まったことは木酢液を使った農薬と森から持ち出した腐葉土及び川に棲む貝類を燃やして槌で潰した物を撒いての肥料付加。
それらを畑の西側半分で試し、東側で従来通りの農業を行う。
納税を免除し、西側の試験場での収穫物は全て伯爵家へ納め、試験作付の報酬として村へ金板2枚を支払うので、最終的にはこの村の取り分はややプラスになる予定だ。
実施期間は3年でノウハウを身に付けた数名を補助講師として学園都市で雇う方向で調整もした。




