↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生領主とその周辺  作者: しから
内政チートの始まり
PR
100/108

工事現場の視察 中編

7日目 スルー搬入港


 幅50メートルに達する緩やかな坂道から見下ろす先には大勢の人が忙しく動き回っている光景が広がっている。

 このスルー近海の海は遠浅の砂場が湾内を満たしていて大型船が来れるのは浜から100メートル沖まで、その地形のせいでここは余り発展してこなかった。


「一番の理由はキルケの怠慢ですがな!」

「そうか?」

「伯爵家に頭を下げて、資本を借り受ければ今のように大規模交易港になる可能性はあったんですぜ?」

「ここより北には港を造れる地形がありませんからね」

「そう言うことか。

 ここが整備されれば西部域北側の物流が大規模に活性化されるんだし、伯爵家が貸し出す資本もそこまで大きくはならなかったはず…」


 説明役の2人、護衛のアゼルとレリント号の船長フックは俺の回答に満足したらしい。


「恐らく子爵家の最大の懸念は港の利用料が減ることだったのではないかと」

「アホらしい。

 俺なら使ってくれた船に金を払っても良いくらいだ」

「さすがにそれは…」

「物流が活発になれば他の税収で充分回収できる。

 今回の学園都市建設も今年の税収は3割増しの試算だろう?

 これは俺も嬉しい誤算だと思っているが…」


 今年末までの税収は、試算では金板15万枚強。だったのに対し、現時点で16万枚弱。このままの推移で行けば、今年の税収は18万枚を超えそうだと言うのだから驚きだ。

 本当、思った以上に人が集まったんだよな。

 南部は未だ紛争中だし、そちらに参戦予定を立てていた傭兵が西部の好景気に立ち止まって、日雇いを始めたのが原因だな。

 情報の伝達速度が遅くて着いたら既に終息していたら、無駄足。

 それよりは伯爵家の大規模開発で働いた方が得だと考えたんだろう。


「人が集まったせいで、予算の取り合いになっとるらしいですが?」

「…まあ、しょうがないだろう」


 折角人が集まっているのだから、自分の管轄を優先的に進めようと皆が動く。

 幾らルナライト家でも予算は有限だからな。


「そうですよ。

 それにフック船長が言う台詞でもないのでは?」

「どう言うことだ? アゼル」

「レリント号を使った物資の移送と港沖の掘削は本年の冬から来年初春に行う予定の工事だと聞いているのです」

「…おい」

「いやいや、奥様のご指示ですぞ?

 ここを整備して全体的な計画を前倒しにせよ! っと」

「リリアナ婆さんか?」


 海洋関連ならジリコン家の伝が使えるだろうし、それはそれで…。

 ………いや、駄目だろ!


「フック。

 漁の方は大丈夫なのか?」

「え?」

「…おい」

「すいません。奥様からは狩りが盛んになるから休止しても大丈夫だろうと言われているんですが?」

「やらかした!」


 余りに厄介な状況に頭を抱える。

 …レリント号を動かして、北部やクリングオルフまで食料を買い付けに行かせるか?

 レリント号が来ているなら、スルトもいるだろうから西大陸からも買い付けをやらせよう。

 黒狼の奴等が商会を持っているな。そこも協力させるか。


「若様?」

「狩りが幾ら盛んになったところでそれ以上の人口が集中しているんだぞ?

 漁業が停まれば、それだけ食料の供給量が下がるだろうが!

 伯爵家に備蓄された麦だってそれほどある訳じゃない」

「無いのなら買えば良いのでは?」

「何処にもないものを何処から買う気だ!

 アゼルはこっち方面は苦手か?

 フック。レリント号を使って各地から食料を買い集めろ!

 先んじて動かないと商人に買い占められるぞ?」

「若大将、切羽詰まりすぎてはおらんか?」

「バカを言うな。これから更に人口の密集が起こる可能性があるんだぞ!

 それに南部の復興や各家の配置替えで食料の値段は上がる。

 元々秋口で買い付け巡行させる予定だったんだ。

 だから、レリント号の開発合流は冬からだったんだ。春夏は魚の漁獲量が増える時期だしな!」

「…ふむ。じゃったら操船技術も上がっているし、3割ほどを通常の漁師に戻すと言うのはどうじゃろ?」

「可能ならやってくれ。最初は北部、そこから対岸のセルラニア、港沿いに西大陸を南下して帰還するように。

 後、スルトとダウト家の者を数名アントン騎士爵家に使わせてあっちへの根回しも」

「根回し?」

「大森林のエルフ集落への援助が滞りそうな予感がする。

 兄貴が戻り次第に動くように準備させる」

「お待ちください!

 さすがにそちらに手を貸す余裕はないのでは?」

「逆だ。日雇いの真似事をしている傭兵を本業に戻す。

 収入と開発速度は落ちるが予定値へ戻るだけだ」


 …日本での感覚が残っていたと言うのが正直な話だろう。

 飽食とも言えるほどに食料に余裕のある国なら、過剰な人口の密集も利益が上がる好機だろうが、中世レベルの国勢の現在で過剰な人口の集中は食料不足を招く要因でしかない。

 食料はデリケートな問題だ。

 来週に届きます。っと言われて来週まで我慢できる問題でもないし、早々と準備を始めるべきだ。

 同時に密集している人口を調節して、リスクを減らすのも重要。

 その時、効率が良いのが戦争だろう。

 自国内で起こすのは論外だが、近隣国で起これば人口や流通の調整が容易になる。

 …クライム兄には悪いが、これまで楽をして来たツケの支払日が来たとでも思ってもらおう。


「…ガーランド様に早馬を出します」

「頼む」


 特別に反論するでもなく、今必要な作業を坦々と準備するアゼル。

 …こう言うところが苦労人の由来じゃないかな?


「儂はレリント号の出港準備をさせる。

 ジェッタへ戻って再編してからじゃから、3日後くらいかのう?」

「分かった」


 坂を下りていくフックを見送りながら、農政改革の時期を早める必要性を感じ、オセロ普及を遅らせるように計画する。



10日目 学園本校舎


「こちらが一足先に完成しました教室です。ご覧のように机と椅子を20席分と教師用の教壇と炭焼き場で製造された黒板を設置しております」


 本校舎建設を任されている総監督の男に案内されたのは、木造の2階建て建築の一室。

 視察に合わせて事前に完成させたモデルルームとなる教室だ。

 イメージは戦前の木造校舎そのもので、並べられた机と椅子も武骨な代物だが、今必要なのは教室として機能することのみ。

 当初の予定では野外での青空教室と実地学習がメインで余り使われることがないはずの教室だし、それよりも本年冬の平民生徒受け入れに間に合わせることを優先している。

 筆記具もなく、初期は机に設置された砂板を使わせての教育だ。


「ここで勉強するのね?」

「貴族生徒は滅多に使わない予定だがな。平民生徒の最初の2年くらいに四則演算と文字の勉強に使われるだけの部屋だ」

「何かもったいないような?」

「やむを得ずだろう。

 現状で必要なのは専門分野への理解度の向上だ。

 領内の生産性を上げないと学園都市の維持が出来ない可能性が出てきた」

「予算は問題ないって言ってなかった?

 お爺様は他へ投資する余裕がないって嘆いていたけど…」

「金の問題じゃない。

 食料の消費量の問題だ。この間のスルー搬入港の視察の後に持ってきていた年間の生産消費収支の量は平均値で4倍程度。

 西部の耕作面積を元にその数値で概算すると学園都市への受け入れ可能人口は9千人くらい。

 各地から買い受けても3万人が限度と言う計算なんだ」

「…どうするの?」


 リムの不安そうな顔は現状を正しく理解していることの証明だろう。

 ルシア以下4人は頻りに首をかしげているし…。


「…一先ず、現状行われている農法の確認が優先だ。

 多分、何とかなる気がする」


 普通に考えるなら、生産者1人の収穫で4人分の年間の消費量分の収入と言うのはおかしい。

 前世では専門外だが、人力のみの耕運で管理できる畑は2アールくらいで、1アールでの収穫量で4人分くらいの収穫高だろう?

 この国の住民の身体能力なら、1人辺りの生産力が3アール分くらいの管理能力と仮定してみれば、この国の生産能力は、前世の1/3くらいと推測できる。

 この量は中世初期の生産量以下だろうから、多分雨水を水源とする天水農法で、肥料等も使わない物の可能性が高い。

 5日後帰路の途中で実物を見て判断する必要はあるが、上水道を完備したこの学園都市での収量は2倍くらい。

 肥料を用いた農法を確立出来れば、更に倍プッシュも夢ではないはずだ。


「良さげね。

 ノウハウが確立したら、ジェイル公爵に送ってよ?」

「…まあ良いだろう」


 セルラニアの影響力強化は、ルナライト伯爵家とダゴン侯爵家の利益になるからな。

 …何だかんだ言って、内政のパートナーになるのはリムだろうな。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。