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第51話 街から消えた冒険者たち

「さて、どの依頼にするかな……」


恒一は掲示板を見上げた。


討伐、素材採取、護衛。いつもと変わらない依頼が並んでいる。


「コウイチ、あれはどう?」


コハクが指さしたのは、森に出没するゴブリンの討伐依頼だった。


「報酬は悪くないな。でも、討伐数が少ない。今の俺たちなら、もう少し難しい依頼でもよさそうだ」


「でしたら、こちらはいかがですか?」


セレスが別の依頼書を示した。


「街道の護衛依頼ですね。報酬も安定していますし、危険も比較的少なそうです」


「うーん。たまには遠出もいいけど……」


フィリアが依頼書をのぞき込む。


「せっかくなら、歯ごたえのある仕事がしたいわね」


「実力を試すことは大切ですが、無理をする必要はありません」


エレナは腕を組み、掲示板を眺めた。


「実績を積むなら、確実に達成できる依頼を選ぶのも一つの方法です」


「そうだな。焦ってランクを上げても仕方ない」


恒一が依頼書に手を伸ばした、そのときだった。


ギルドの入口が勢いよく開いた。


「た、大変だ!」


息を切らした若い冒険者が飛び込んでくる。


その顔は青ざめ、額には汗が浮かんでいた。


「街の中で、また人が消えた!」


ギルド内がざわついた。


「またかよ……!」


「今度は誰だ?」


「おい、詳しく話せ!」


冒険者たちが一斉に集まる。


恒一も依頼書から手を離した。


「また、ってことは……前にもあったのか?」


「知らなかったんですか?」


ミリアが受付から出てきた。


「ここ数日、冒険者の失踪が続いているんです」


「失踪?」


「はい。最初は一人でした。それが二人、三人と増えて……今朝、また一人が姿を消しました」


エレナの表情が引き締まる。


「街の中で、ですか?」


「ええ。宿を出たところまでは確認されています。でも、その後の足取りがまったく分からないんです」


「魔物に襲われた形跡は?」


恒一が尋ねる。


ミリアは首を横に振った。


「ありません。血痕も、争った跡も、持ち物も残されていません」


「そんなことあるの?」


フィリアが眉をひそめた。


「街中なら衛兵だっているでしょう。誰も見ていないなんて……」


「目撃者がいないわけではありません」


ミリアは少し声を落とした。


「ただ、証言が食い違っているんです。ある人は路地に入ったと言い、別の人は大通りを歩いていたと言っています」


「記憶違い……という可能性もありますね」


セレスが静かに言った。


「ですが、複数の人が同じように姿を消しているのなら、偶然とは考えにくいでしょう」


「うん。あたしも変だと思う」


コハクの獣耳が、ぴくりと動いた。


「魔物の匂いとか、血の匂いとか、そういうのは残ってないの?」


「今のところ、そういった報告はありません」


「匂いも残さずに人をさらう……か」


恒一は考え込んだ。


普通の誘拐なら、何かしら痕跡が残るはずだ。


それがまったくない。


まるで、最初からそこにいなかったかのように。


「ギルドでは、どう対応しているんだ?」


「衛兵と協力して調査しています。ただ、手掛かりが少なすぎて……」


ミリアは悔しそうに唇を結んだ。


「このまま失踪者が増えれば、街全体が混乱しかねません」


その言葉に、恒一は掲示板を見上げた。


さっきまで並んでいた依頼書が、急に色あせて見える。


「……放ってはおけないな」


「恒一?」


リゼリアが顔を向けた。


「この事件、少し調べてみようと思う」


「私も賛成ですわ」


リゼリアは迷いなく答えた。


「街で暮らす人々が不安に怯えているのなら、見過ごす理由はありませんもの」


「そうですね。情報を集めるだけでも、何か分かるかもしれません」


エレナも頷いた。


「私は失踪者の共通点を調べてみます。職業、ランク、最後に受けた依頼……何か規則性があるかもしれません」


「じゃあ、あたしは街の中を歩いてみる!」


コハクが元気よく手を挙げた。


「変な匂いがしたら、すぐに分かると思う!」


「一人で動くのは危険です。誰かと一緒に行動しましょう」


「はーい……」


「私は衛兵やギルド職員から、目撃情報を集めてみます」


セレスが続けた。


「証言を整理すれば、食い違いの原因が見つかるかもしれません」


「私は恒一と一緒に調べるわ」


フィリアが即座に言った。


「いや、全員で固まって動くより、分担したほうが……」


「危険があるかもしれないのよ? 目の届くところにいたほうがいいでしょ!」


「それはそうだが……」


「フィリアの言い分にも一理ありますわね」


リゼリアが微笑んだ。


「恒一、あなたは私と一緒に行動なさい」


「いや、なんでそうなるんだ?」


「一番近くであなたを守れますもの」


「守られる前提なのか……」


恒一は苦笑した。


こんなときでも、いつもの調子は変わらない。


だが、彼はまだ気づいていなかった。


自分たちが事件に関心を向けたことを、少し離れた場所から見ている人物がいたことに。


ダリオだった。


彼は冒険者たちの輪の外側で、失踪事件の話を聞いていた。


「街中で人が消える、ね……」


顎に手を当て、考え込む。


「争った跡も、血痕もない。目撃証言も食い違っている……」


ふと、彼の視線が恒一たちに向いた。


「それで、あいつは真っ先に調査を始めるつもりか」


ダリオの脳裏に、先ほどのやり取りがよみがえる。


空間を操る能力。


もし、その力を使えば、人を誰にも気づかれずに消すこともできるのではないか。


もちろん、確かな証拠など何もない。


それでも、一度浮かんだ疑念は消えなかった。


「……まさか、な」


ダリオは小さくつぶやいた。


だが、その表情は晴れなかった。


一方、ギルドの受付では、ミリアが新たな報告書を手に取っていた。


そこには、今朝失踪した冒険者の名前と、最後に目撃された場所が記されている。


そして、その報告書には、もう一つ気になる記述があった。


失踪する直前、男は見知らぬ人物と話していたという。


「この人……誰なんでしょう?」


ミリアは目撃者の証言を読み返した。


黒い外套。


整った顔立ち。


そして、どこか不自然なほど丁寧な口調。


「……衛兵隊にも、確認してもらわないと」


彼女は報告書を握りしめた。


街の平穏を脅かす失踪事件。


その背後で、何者かが確実に動き始めていた。

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