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第2話 吸血姫様、初日から距離が近すぎます

「……それで、これからどうするんだ?」


 森の中。

 俺――黒瀬恒一は、隣を歩く銀髪の少女に尋ねた。

 少女の名前はリゼリア。

 赤い瞳に、透き通るような白い肌。背中まで伸びた銀色の髪は、木々の間から差し込む日差しを受けてきらきらと輝いている。

 そして何より、彼女は吸血姫なのだそうだ。

 異世界に来て早々、ずいぶんとファンタジーな相手と知り合ってしまった。


「街へ行くわ」

「街?」

「ええ。あなた、身分証もお金も持っていないでしょう?」

「……よく分かったな」

「見れば分かるわよ。服装も見慣れないし、周囲をきょろきょろ見回しているもの」

「それは初めて来た場所だからだよ」

「ふふっ。素直なのね」


 リゼリアは楽しそうに笑った。

 その笑顔を見て、俺は思わず目を奪われた。

 美人だ。

 いや、美人という言葉だけでは足りない。どこか現実離れした美しさがある。

 そんな彼女が、こちらの視線に気づいて首を傾げた。


「……何?」

「いや、綺麗だなと思って」

「――っ!」


 リゼリアの足が止まった。

 銀色の髪の隙間から見える耳が、ほんのり赤くなる。


「な、何を突然……!」

「思ったことを言っただけだが」

「そ、そういうことは、もう少し心の準備をしてから言いなさい!」

「褒めるのに準備が必要なのか?」

「わ、私には必要なの!」


 そう言って、リゼリアはぷいっと顔を背けた。

 吸血姫というから、もっと威厳のある人物を想像していたのだが、どうやら意外と分かりやすい性格らしい。


「ふふっ」

「なによ、その笑いは!」

「いや。可愛いところもあるんだなと思って」

「か、かわっ……!」


 リゼリアは今度こそ、こちらを睨みつけた。

 ただし、その頬は真っ赤だった。


「恒一!」

「はい」

「あなた、私をからかっているでしょう!」

「半分くらいは」

「半分もあるの!?」


 森にリゼリアの声が響いた。

 そのあと彼女はしばらく口を利いてくれなかった。

 ……ただし、俺の袖はずっと握ったままだった。


     ◇


 街へ向かう道は、思っていたよりも歩きやすかった。

 森を抜けると、なだらかな草原が広がっている。その先には石造りの城壁と、尖塔のある建物が見えた。

 街道では、荷馬車を引く商人や、武器を背負った冒険者らしき人々が行き交っている。


「ここはルナリア王国。私たちが向かっているのは、西部にある街、エルセリアよ」

「ルナリア王国か。覚えておこう」

「この国には冒険者ギルドがあるわ。あなたがこの世界で暮らすなら、登録しておいて損はないと思う」

「冒険者か……」


 剣を持って魔物と戦う。

 前の世界では、ゲームや小説の中だけの話だった。

 だが、今の俺には説明のつかない力がある。

 森でゴブリンを殴ったとき、拳が当たった直後にもう一度、衝撃が発生した。

 あれが何なのか、まだ分からない。

 ただ、発動した直後に頭の奥が痛み、集中力が途切れかけたことは覚えている。

 何度も使えるような力ではないのかもしれない。


「まずは、自分に何ができるのか確かめないとな」

「そうね。でも、無茶は駄目よ」


 リゼリアは、さっきまでの照れた様子を引っ込めて、真剣な顔になった。


「この世界には、あなたが思っている以上に危険な魔物がいるわ。能力があるからといって、何でもできると思わないこと」

「分かった。気をつけるよ」

「本当に?」

「本当だ」

「……なら、いいわ」


 彼女はほっとしたように息を吐いた。

 出会ってから、まだそれほど時間は経っていない。

 それなのに、彼女は俺のことを心配してくれている。

 なぜだろう。

 単に親切な性格なのか。それとも、俺が魔物に襲われていた彼女を助けたからなのか。

 理由は分からないが、悪い気はしなかった。


「ありがとう、リゼリア」

「え?」

「心配してくれて」


 リゼリアは目を丸くしたあと、ゆっくりと微笑んだ。


「……当然でしょう?」


 そして、握っていた俺の袖を、今度はしっかりと掴み直す。


「あなたを放っておいたら、何をするか分からないもの」

「そんなに信用がないのか、俺は」

「自分の力も分かっていないのに、魔物に向かっていく人を信用しろというほうが無理よ」

「……返す言葉もない」

「ふふっ」


 彼女の笑顔につられ、俺も笑った。

 この世界で初めて出会った人が、リゼリアでよかった。

 そんなことを、少しだけ思った。


     ◇


 街の門をくぐると、活気のある声が飛び交っていた。

 石畳の大通りには商店が並び、焼きたてのパンの香りが漂っている。武器屋の前では冒険者たちが装備を見比べ、露店では色とりどりの果物や見慣れない薬草が売られていた。


「すごいな……本当に異世界なんだ」


 思わず口にすると、リゼリアがくすりと笑った。


「まだ入り口よ。街の外にはダンジョンもあるし、もっと珍しい場所だってたくさんあるわ」

「それは楽しみだな」

「ふふっ。あなたと一緒なら、私も退屈しなくて済みそうね」


 そう言った彼女は、なぜか俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

 柔らかな感触が腕に伝わる。


「……リゼリア?」

「何?」

「近くないか?」

「そうかしら?」


 彼女は、わざとらしく首を傾げた。


「人が多いから、はぐれないようにしているだけよ」

「なるほど。合理的だな」

「でしょう?」

「でも、手をつなぐだけでもいいんじゃないか?」

「……っ」


 リゼリアは俺の腕を見た。

 それから、ゆっくりと顔を上げる。


「……嫌なの?」


 声が、ほんの少しだけ小さくなった。

 からかっているのかと思ったが、その赤い瞳には不安のようなものが浮かんでいた。

 俺はすぐに首を横に振った。


「嫌じゃないよ。リゼリアがいいなら、このままでいい」

「……そう」


 彼女はほっとしたように笑った。


「なら、決まりね」


 腕を絡める力が、少しだけ強くなる。

 ……どうやら俺は、異世界に来て早々、距離感の調整に苦労することになりそうだ。


     ◇


 冒険者ギルドは、街の中心にある大きな建物だった。

 扉を開けると、酒場のような賑やかさが飛び込んでくる。

 壁には依頼書が貼られ、受付には冒険者たちが列を作っていた。奥のテーブルでは、鎧を着た男たちが魔物の討伐について話し合っている。


「まずは登録ね」


 リゼリアに促され、俺は受付へ向かった。


「いらっしゃいませ。冒険者登録でしょうか?」


 受付の女性が、にこやかに尋ねてくる。


「はい。お願いします」

「では、こちらの水晶に手を触れてください。基本情報を確認します」


 差し出された透明な水晶に、俺は手を置いた。

 淡い光が広がる。

 次の瞬間、水晶の表面に文字が浮かび上がった。

 名前:黒瀬恒一

 職業:時空士

 ランク:★1

 スキル:《二重衝撃》《空間固定》


「……え?」


 受付嬢の笑顔が固まった。

 周囲のざわめきが、少しずつ静かになっていく。


「時空士……?」

「聞いたことのない職業だな」

「★1なら、別に珍しくないだろ?」


 周囲から、ひそひそと声が聞こえてきた。

 俺は表示を見つめた。

 時空士。

 それが俺の職業らしい。

 《二重衝撃》は、さっきゴブリンを吹き飛ばした力だろう。

 そして、《空間固定》という能力は、まだ使った覚えがない。


「すみません。この表示は、どういう意味なんでしょうか?」


 受付嬢は困惑したように水晶を見つめた。


「職業とスキルの表示自体は確認できています。ただ、時空士という職業については、私も詳しいことを存じ上げません。ギルドマスターに確認してまいりますので、少々お待ちください」

「分かりました」


 受付嬢が奥へ消える。

 その途端、周囲の冒険者たちが再び話し始めた。


「時空士なんて聞いたことがないぞ」

「空間系のスキル持ちってことか?」

「★1なら、まだ大したことはないんじゃないか?」


 嫌な注目の集まり方だ。

 俺はリゼリアに視線を向けた。

 彼女は先ほどまでの柔らかな表情を消し、水晶に表示された文字をじっと見つめていた。


「リゼリア?」

「……恒一。今は、余計なことを話さないで」


 小さな声だった。

 だが、その声にははっきりとした警戒があった。


「何かまずいのか?」

「まだ分からないわ。ただ、あなたの職業は少なくとも私が知っている一般的な職業とは違う。能力のことを、むやみに他人へ話さないほうがいいと思う」

「分かった」


 受付嬢が戻ってきた。


「お待たせいたしました。ギルドマスターがお会いになるそうです。こちらへどうぞ」


     ◇


 受付の奥から現れたのは、五十代ほどの男だった。

 短く刈られた髪に、歴戦の冒険者を思わせる傷跡。鍛えられた身体からは、只者ではない雰囲気が漂っている。


「君が黒瀬恒一君か」

「はい」

「私はこのギルドのマスター、ガルドだ。少し奥で話を聞かせてもらいたい」

「分かりました」


 俺が立ち上がると、リゼリアも当然のように立ち上がった。


「私も行くわ」


 ガルドは彼女を見て、わずかに目を細めた。


「……君もか」

「ええ。彼を一人にするつもりはないわ」

「分かった。二人とも来なさい」


 案内された小部屋には、机と椅子、それに壁には魔法陣らしき紋様が刻まれていた。

 ガルドは扉を閉めると、俺たちを交互に見た。


「まず確認したい。君は自分の職業について、何か知っているか?」

「いいえ。自分が時空士だということも、今初めて知りました」

「では、スキルはどうだ?」

「《二重衝撃》は、森で魔物に襲われたときに発動しました。拳を当てた直後、もう一度衝撃が発生したんです。ただ、使ったあとに頭が痛くなって、集中しにくくなりました」

「なるほど……」


 ガルドは腕を組んだ。


「スキルの使用には、精神への負担が伴うことがある。特に制御が難しい能力を、理解しないまま使えば負担も大きくなる。今は無理に試さないほうがいいだろう」

「分かりました」

「それと、★1だからといって侮るつもりはないが、能力が珍しいからといって強いとも限らん。まずは自分の力を知ることだ」


 その言葉は、もっともだった。

 力があるらしいことは分かった。

 しかし、どこまで使えるのかも、どんな弱点があるのかも分からない。

 そんな状態で戦い続けるのは危険だ。


「君が力を悪用するつもりがないのなら、ギルドとしても必要以上に詮索するつもりはない。ただし、危険な能力である可能性は忘れないでくれ」

「分かりました」

「よし。正式な登録は済ませておこう。ただし、当面は簡単な採集や街の手伝いなど、安全性の高い依頼から始めてもらう」


 それなら十分だ。

 まずはこの世界のことを学び、生活の基盤を作る。

 それから、自分の能力を少しずつ確かめていけばいい。


「ありがとうございます」


 俺が頭を下げると、ガルドは小さく頷いた。


「それと、リゼリア君」

「何かしら?」

「彼とは、どういう関係なのだ?」

「森で出会ったばかりよ。彼が魔物に襲われていた私を助けてくれたの」


 リゼリアは一瞬だけ俺を見てから、続けた。


「だから、今度は私が街まで案内している。それだけよ」

「なるほど。ならば、彼のことを頼む」

「言われなくても、そのつもりよ」


 リゼリアは自信ありげに微笑んだ。

 どうやら彼女は、俺が思っている以上に面倒見がいいらしい。


     ◇


 ギルドを出た俺たちは、近くの食堂へ向かった。

 ここまでの緊張が解けたせいか、急に腹が減ってきたのだ。

 木製のテーブルに座り、注文した料理が運ばれてくる。

 焼いた肉に、香草のスープ、丸いパン。それから、リゼリアが目を輝かせていた果物のタルト。


「いただきます」


 俺が手を合わせると、リゼリアが不思議そうに見てきた。


「その挨拶、あなたの故郷の習慣?」

「ああ。食べ物と、それを作ってくれた人への感謝みたいなものかな」

「素敵ね」


 彼女はそう言って、同じように手を合わせた。


「いただきます」


 その声が妙に可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまった。


「何よ?」

「いや。似合っているなと思って」

「……あなた、今日だけで何回私を褒めるつもり?」

「数えてないな」

「もう……」


 文句を言いながらも、リゼリアは嬉しそうだった。

 食事を進めていると、彼女は自分のタルトを一口食べて、幸せそうに目を細めた。


「おいしい……」

「そんなに好きなのか?」

「ええ。甘いものを食べているときだけは、面倒なことを全部忘れられるの」


 その言葉には、ほんの少しだけ寂しさが混じっていた。

 俺は自分の皿に残っていたタルトを見てから、彼女のほうへ差し出した。


「よかったら、こっちも食べるか?」

「えっ?」

「俺はまだ肉も食べたいし。甘いものはそっちに任せるよ」

「……いいの?」

「ああ」


 リゼリアは嬉しそうに笑い、フォークで小さく切り分けた。


「ありがとう。では、遠慮なく」


 一口食べてから、彼女はふと思いついたようにこちらを見る。


「恒一も食べてみる?」

「いや、俺は――」

「はい、あーん」

「……はい?」


 フォークの先には、一口大のタルト。

 リゼリアは真剣な顔で差し出している。


「おいしいものは、誰かと分け合うともっとおいしいのよ?」

「それは分かるが……」

「ほら、早く」


 周囲の客が、ちらちらとこちらを見ている。

 俺は小さく息を吐き、観念して口を開けた。


「……あーん」


 タルトの甘さが口いっぱいに広がる。


「うん。うまいな」

「でしょう?」


 リゼリアは満面の笑みを浮かべた。

 そして、なぜか俺の顔をじっと見つめる。


「……何だ?」

「いえ。あなたって、思っていたより素直なのね」

「食べ物につられただけだよ」

「ふふっ。そういうことにしておくわ」


 そのあとも、彼女は何度か俺にタルトを分けてくれた。

 ……もしかすると、俺が異世界で最初に覚えるべきなのは、魔法でも剣術でもなく、この吸血姫のペースに振り回されない方法なのかもしれない。


     ◇


 食事を終え、宿を探すことになった。


「恒一、今夜はどうするの?」

「宿を取るしかないだろうな。手持ちのお金もないし、まずは簡単な依頼を受けて稼がないと」

「それなら、私が出すわ」

「いや、それは悪い」

「どうして?」

「君に頼りっぱなしになるのは、申し訳ないからな」


 リゼリアは、少し考えるように黙った。


「……あなたは、私に頼るのが嫌?」

「そうじゃない。ただ、俺にもできることを増やしたいんだ」

「……そう」


 彼女はゆっくりと頷いた。


「なら、今日は私が宿代を出すわ。その代わり、明日からは一緒に稼ぎましょう」

「それでいいのか?」

「ええ。出会ったばかりとはいえ、あなたは私を助けてくれた。今度は私が助ける番よ」


 彼女は俺の手を取った。


「片方だけが助ける関係なんて、つまらないもの」


 その言葉を聞いて、俺は自然と笑っていた。


「分かった。じゃあ、明日からよろしく頼む」

「こちらこそ」


 リゼリアは満足そうに頷くと、突然、俺の手を両手で包み込んだ。


「……それと」

「ん?」

「今夜は、私のそばにいてね」

「……宿は別々じゃないのか?」

「えっ?」


 今度はリゼリアが固まった。


「べ、別々!?」

「いや、普通そうじゃないか?」

「そ、それは……そうだけれど……」


 彼女は何か言いたげに視線をさまよわせたあと、ぎゅっと俺の手を握った。


「……じゃあ、せめて同じ宿にして。何かあったとき、すぐに駆けつけられるでしょう?」

「ああ、それなら構わないよ」

「本当に?」

「本当だ」

「……約束だからね」


 彼女はようやく笑顔を取り戻した。

 俺は思った。

 この世界に来て、俺はまだ何も知らない。

 自分の能力も、この世界の仕組みも、これから待ち受ける冒険も。

 だけど、隣にいる彼女のことは、少しずつ知っていきたい。

 そう思える相手に出会えたことは、きっと幸運なのだろう。


     ◇


 その夜。

 宿の一室で、俺は自分のステータスを確認していた。

 視界に浮かぶ半透明の表示。

 そこには、昼間にはなかった項目が追加されていた。

 職業:時空士

 ランク:★1

 スキル:《二重衝撃》《空間固定》

 そして、最下段に見慣れない一文が記されていた。

《時空系統:未解析》


「……未解析?」


 呟いた瞬間、頭の奥にかすかな痛みが走った。

 俺は慌てて表示を閉じる。

 これ以上、無理に調べるのはやめておこう。

 自分の能力を理解するには、時間が必要らしい。

 そのとき、扉から控えめなノックが聞こえた。


「恒一……起きている?」


 リゼリアの声だ。


「起きているよ。どうした?」

「その……少しだけ、話がしたくて」


 扉を開けると、リゼリアは寝間着の上に薄い羽織を着て立っていた。

 いつもの凛とした姿とは違い、どこか落ち着かない様子だ。


「眠れないのか?」

「……少しだけ」

「何か心配事でも?」


 彼女は首を横に振った。


「そうじゃないの。ただ……今日は、あなたと出会って、いろいろなことがあったでしょう?」

「ああ。濃い一日だったな」

「だから、その……もう少しだけ、一緒にいたいと思ったの」


 胸の奥が、ほんの少し温かくなった。


「……いいよ。少し話そう」

「本当に?」

「もちろん」


 俺がそう答えると、リゼリアの顔がぱっと明るくなった。


「ありがとう、恒一!」


 彼女は嬉しそうに部屋へ入り、俺の向かいに腰を下ろした。

 そして、しばらく他愛のない話をした。

 好きな食べ物。苦手なもの。街で見てみたい場所。いつか行ってみたい景色。

 そのどれもが、世界を揺るがすような話ではなかった。

 けれど、俺にとっては大切な時間だった。

 話がひと段落したころ、リゼリアが小さく呟いた。


「……ねえ、恒一」

「ん?」

「明日も、一緒にいてくれる?」


 俺は迷わず頷いた。


「もちろん。明日から一緒にやっていくんだろ?」


 リゼリアは、ゆっくりと微笑んだ。


「……うん」


 その声は、昼間よりもずっと柔らかかった。

 やがて彼女は立ち上がり、扉の前で振り返った。


「おやすみなさい、恒一」

「おやすみ、リゼリア」


 扉が閉まる直前、彼女はもう一度だけ顔をのぞかせた。


「……明日の朝も、私が起こしに来るからね?」

「寝坊しないように気をつけるよ」

「ふふっ。約束よ」


 扉が閉じた。

 俺は一人になった部屋で、先ほどの表示を思い返す。

《時空系統:未解析》

 それが何を意味するのか、今はまだ分からない。

 ただ一つだけ、確かなことがあった。

 この世界での生活は、まだ始まったばかりだ。

 そして翌朝。

 俺は、扉を勢いよく叩く音で目を覚ますことになる。


「恒一! 朝よ! 起きて!」


 ……どうやら、異世界での新生活は、思った以上に賑やかになりそうだった。

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