温泉街と初夜
僕達は綾羽市から離れ、一泊二日の温泉旅行に来ていた。
探偵業の束の間の休息だ。
「悠斗さん悠斗さんっ、色んなところに温泉がありますよ!」
温泉街を前にしてはしゃぐサユキは子供のようだった。
「うんうん、わかったから。はしゃぎ過ぎて転ばないようにね?」
僕の注意に彼女は頬を膨らませて答えた。
「もう! 子供扱いして!」
「ごめんごめん。サユキがはしゃいでるのが可愛くて」
「へ?」
サユキはボンっと顔を真っ赤に紅潮させる。
「あ、ありがとうございます……?」
「うん。じゃあ転ばないように、はい。手、繋ごうか」
僕はそう言って彼女に向けて手を差し出した。
「は、はい……」
サユキはギュッと手を握りしめる。
「せっかく一泊二日もあるんだから、色々見て回ろうか」
「そうですね。赤城刑事にお土産買っても良いかもしれないですね」
「確かに、それも良いかもね」
僕達は他愛もない話をしながら、郊外の温泉街を歩いた。四方八方で湯気が立ち上り、温泉が露わになっている。とても美しい光景だ。
***
夜になった。
僕達は予約していた宿の部屋でくつろいでいた。
「ふぅ……流石に一日中歩き回っていると疲れるね」
僕は敷かれた布団の上で足を伸ばしながらそう言った。
「そうですね……」
サユキは顔を真っ赤にして返事をした。
「サユキ、どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「いや、だって、お布団がくっ付いているので……」
「あ……」
盲点だった。
普段、僕達は探偵事務所で寝泊まりしているが、寝室は別にしている。一緒の部屋で眠るのはこれが初めてだ。しかも二つの布団が繋がっているときた。サユキが緊張するのも頷ける。
「えっーと、それじゃあ、布団、離す?」
「いえ! このままが良いです……」
サユキは食い気味に否定した。
「そ、そっか……それじゃあこのままで……」
「はい……」
「じ、じゃあ、そろそろ寝ようか。明日もいっぱい歩くことになるだろうし」
「そうですね……」
僕は部屋の明かりを消して、布団に横になった。
しばらくの沈黙が場を支配したのち、サユキが「悠斗さん……まだ起きてますか?」と尋ねてきた。
「うん、起きてるよ」
「あの……もっと近づいても良いですか?」
サユキはそう訊いてきた。
これ以上近づくということは、僕の寝ている布団にサユキが入ってくるということだ。僕はゴクリと固唾を飲み、深呼吸をして心を落ち着かせる。
平常心だ。
心を清らかに保つのだ。
「うん。良いよ」
僕はサユキにそう返した。
「じゃあ……失礼します」
そうしてサユキは僕の布団の中に入ってきた。僕は彼女に背中を向けているため、サユキの表情を伺うことはできないが、彼女の身体はひどく熱くなっていた。雪女である彼女にとって、これほどまで体温が上昇しているのはいささか心配ではあるが、今はそれどころではなかった。心臓がドクンドクンと脈打ち、鼓動が早くなっている。彼女の身体の温もりが直接背中に伝わってくる。サユキの柔らかい身体の感触も鮮明にわかる。この状態はまずい。理性が飛びそうだ。
「サユキ……ごめん。僕、もたないかも」
「え……?」
僕は咄嗟に彼女に覆い被さった。
彼女の両手を押さえ込み、動きを封じる。
「悠斗さん……?」
「理性が飛びそうなんだ……申し訳ないけど、これ以上はもう……」
次の刹那、僕は彼女の唇を口で塞いでいた。
「んう」
彼女は声を漏らす。
僕はそのまま彼女の首元にキスをした。
「んっ」
「あ、ごめん……」
僕は彼女の艶っぽい反応を見て我に帰る。
「嫌だった……?」
「いえ……嫌じゃないです」
彼女はそう言ったのち、僕の首に手を回してキスをしてきた。
「続けてください。嬉しいので」
「わかった。怖かったり、痛かったりしたら、すぐに言ってね」
「はい……」
僕は再び彼女にキスをした。
そしてサユキの胸を触った。
柔らかい乳房の感触が手のひらをかえして脳に直接伝わってくる。初めて女性の身体に触れた。これほどまでに柔らかいものなのか。
「ん……っ」
「サユキ……かわいいよ」
「悠斗さん……」
そして僕達はどちらからともなくキスをした。
「嬉しいです……私、愛されてるんだなって実感してます」
「勿論、愛してるよ。サユキ」
「私も愛してます。悠斗さん。これからもずっと一緒にいて下さい」
「勿論だよ」
その夜、僕達は互いの身体に触れ合い続けた。
一通りの行為に及んだのち、僕達は同じ布団の中で眠りについた。




