はじめてのデート
「サユキ、今日一緒にお出掛けしない?」
日曜日の朝。
二人で朝食を食べながら僕はサユキにそう提案した。
「へ?」
サユキは気の抜けた返事をする。
「ダメ……かな?」
「ダメじゃないです! 行きたいです! お出掛け!」
彼女は身を乗り出して食い気味にそう言ってきた。
「わ、わかった。それじゃあ今日行こう」
僕はその勢いの良さに圧倒される。
「一緒に出掛けるの初めてかな……デートだね……」
照れながらも彼女にそう言った。
「デート……確かにそうですね」
サユキはゆでだこのように赤くなった。
「なんだか緊張しますね……」
「うん、そうだね……」
しばらくの間、沈黙が場を支配する。
「そ、それじゃあご飯食べたら行こうか!」
僕はドキドキした気分を紛らわせるために朝食のベーコンエッグを頬張った。
「そ、そうですね!」
サユキも同じ気持ちだったのか、ベーコンエッグをモリモリと口に運ぶ。
互いに口いっぱいに朝食を放り込み、なんとも言えない絵面になるのだった……。
昼になった。
探偵事務所の『open』の看板を『close』にひっくり返し、僕達は外出していた。
「せっかくだから、手、繋ごうか……」
僕は内心ドギマギしていたが、隣を歩く彼女にそう提案した。
「は、はひ……!」
サユキは相当緊張しているのか、返事が甘噛みであった。
二人ともゆでだこのように頬を紅潮させながらも、どちらからともなく手を繋いだ。
「サユキはどこに行きたいとかある?」
僕はドキドキした気持ちを紛らわせる為に彼女にそう尋ねた。
「そ、そうですね……デートなんて今までしたことなかったので、正直どこに行きたいか分からないです……」
「そっか……それじゃあ僕が行ってみたい所でもいいかな?」
「はい! 勿論です!」
「ありがとう。それじゃあ行こうか」
僕はサユキのひんやりとした手を引いて歩いた。
そして僕達は水族館にやってきた。
「ここって……」
「そう。綾羽水族館。綾羽市の中でも唯一の水族館なんだ。綾羽市は海なし県の中にあるんだけど、都心に近いからこういう娯楽施設はまだ残っているんだ」
「そうなんですね! 私、水族館初めて来ました!」
「サユキはどこ見たいとかある? 一応イルカショーとかもあるみたいだけど……」
僕は水族館のパンフレットを広げながら彼女の返答を待った。
「そうですね……一通り見て回りたいです!」
「わかった。それじゃあ順々に見て回ろうか」
僕達は手を繋ぎながら、色々な水槽の中を優雅に泳ぐ魚達を見て回った。無論、イルカショーにも足を運んだ。イルカは容赦なく水をかけてきて、僕達は二人揃ってびしょ濡れになった。
僕達はレンタルタオルで身体を拭いたのち、水族館の中に併設されているカフェで一息ついた。
僕はコーヒーとオムライスを注文し、サユキはカフェオレとナポリタンスパゲッティを注文した。
「どう? 美味しい?」
僕はナポリタンスパゲッティを食べる彼女にそう訊いてみた。
「はひ! とっても美味しいです!」
「それなら良かった」
「──一口、いりますか?」
「……良いの?」
「はい……」
サユキはナポリタンスパゲッティをフォークに絡め、僕の口元に差し出した。
「あ、あーん……」
顔を真っ赤にしながら彼女はそう言った。
僕は内心心臓が飛び出そうなほどにドキドキしていたが、なんとか平常心を保ち、「あーん」と口を開けてナポリタンスパゲッティを食べた。
「美味しいですか?」
「うん。おいひい」
「良かったです」
「サユキも、僕のオムライスいる?」
「良いんですか?」
「うん……」
「それじゃあ、食べたいです……」
彼女は頬を紅潮させながらそう答えた。
「じゃあ、はい、あーん」
僕はサユキが行ったようにオムライスをスプーンですくい、彼女の口元に運んだ。
「あ、あーん」
サユキはパクッとオムライスを食べた。
「美味しい?」
「はひ……でも恥ずかしいですね。これ」
「うん……でも、恋人らしくない?」
「確かにそうですね。恋人らしいです……えへへ」
彼女は照れ臭そうに笑った。
その綺麗な笑顔に、思わず心臓の鼓動が早まる。
僕達はその後も水族館を思う存分楽しみ、気づけば外は夕暮れ時になっていた。
僕達は手を繋いだまま歩いて帰ることにした。
「今日、楽しかった?」
「はい! とても楽しかったです!」
「それは良かった……正直初デートだったから、自信なかったんだ……サユキに喜んでもらえて良かったよ」
「そうだったんですか……ありがとうございます。私のためにそこまで考えてくれて」
「当たり前だよ。恋人なんだから」
僕はそう言って笑った。
「──悠斗さん」
「なに──」
そこから先の言葉は、彼女の口付けによって塞がれた。
「え、今……」
「『これ』も、恋人らしいかなと……早とちりでしたか?」
彼女の氷色の瞳はひどく潤んでいた。頬は真っ赤に紅潮している。
「ううん……嬉しいよ。ありがとう。サユキ」
僕の言葉を聞くや否や、彼女はぱあっと表情を明るくし、「はい!」と笑って答えた。
そして僕達は夕暮れの中を並んで歩くのだった。




