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アクロバティックサラサラが夜に舞う

 深夜二時。

 僕達は「アクロバティックサラサラが出た」と言われているビルに足を運んでいた。アクロバティックサラサラは怪異の中でも極めて霊に近い存在だ。怨念を持って死んだ人間は怨霊に転じやすいが、アクロバティックサラサラは怪異となって現世に現れる。そして人を攫っては喰い殺すらしい。これまで何件かアクロバティックサラサラが関与していると思われる不審殺傷事件が確認されており、僕の元に調査依頼のDMが来たことで本件に関わることになった。

 僕は霊刀を刀袋から取り出す。

「アクロバティックサラサラ……現れますかね……」

 僕の隣でサユキはそう言った。

「このビルには『赤いワンピース姿で長い髪をした女性を見た』っていう報告が相次いでる。きっと現れるよ」

 僕は暗闇の中でビルを見上げる。

 ふと、ビルの屋上に赤いワンピースを身に纏った女性が立っていることに気がついた。足元まで伸びた長い黒髪はサラサラと風に靡いていた。そして微かに感じられる妖気。間違いない。アクロバティックサラサラだ。

「サユキ」

「はい──創成・氷刀」

 彼女は氷の刀を生み出して構えた。

 僕も霊刀を抜刀し、中段に剣先を置いた。

 次の刹那、アクロバティックサラサラはビルの屋上から飛び降り、僕達の元へ迫ってきた。

 彼女は片足を振り上げ、強力な蹴りを放ってきた。

「閉栓結界!」

 僕は即座に結界を張り、アクロバティックサラサラの猛攻を回避する。

 彼女は蹴りが通らないことを悟ったのか、空中でバク転をして後方に移動し、間合いを確保した。

 そして互いに一足一刀の間合いに入る。

 僕とサユキは同時に駆け出し、交互に太刀を振るった。

 しかしアクロバティックサラサラは僕達の猛攻を難なく回避する。まるでバレリーナのような動きだ。

「くっ……!」

 攻撃が通らない。

 ことごとく回避される。

 まるで太刀筋を全て見切られているかのような感覚だ。

「創成・氷吹雪こおりふぶき

 サユキが咄嗟に着物の袖から吹雪を発生させる。

 目眩しにはなるが、果たしてどうか?

 アクロバティックサラサラは片足を水平に上げ、くるくると回転することで吹雪を霧散させる。

「そんな……」

「貴方達の攻撃は通りませんわ」

 突然、アクロバティックサラサラはそう口にした。ノイズ混じりの重低音がこだまする。とても女性の声とは思えない。人語を話すことができるのか。いや、当たり前か。怪異とは言え元は人間だったのだ。その名残がいきていたとしても何ら不思議ではない。

「──何故、人を襲うんですか?」

 僕は一縷いちるの望みをかけて彼女にそう尋ねてみた。

「何故……ですか。そうですわね……『人を食べたいから』以外にありますか?」

「分からない。良心が痛まないんですか?」

「良心なんてとうに捨てましたわ。今の私にとって人は食べ物。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」

「悠斗さん……気持ちは分かりますが……」

 サユキは氷の刀を構えながらそこまで言って口を閉じた。

 アクロバティックサラサラに僅かながらでも人間時代の心が残っていれば、彼女が苦しまない方法で祓うことも考えていたが、どうやら無意味だったようだ。

「うん……そうだね」

 僕は霊刀を彼女に突き立てて「あんたを祓う」と言い放った。

「できるものならやってみなさい。霊能者と雪女さん」

 僕は霊刀を横に構え、水平に太刀を振るった。

「零明流剣術・朧桜・横凪」

 青い斬撃はアクロバティックサラサラに迫るが、彼女は紙一重で攻撃を回避する。

 そしてそのままの体勢で強力な蹴りを放ってくる。

「ッ!」

 僕は閉栓結界を展開するが、結界はアクロバティックサラサラの蹴りに耐えられず、パリンっと破裂音を立てて崩壊してしまう。

「くそっ」

 彼女の蹴りの威力を殺すことができず、僕は咄嗟に霊刀で再び攻撃を受け止めようと試みるが、霊刀は弾かれてしまう。

 遥か後方の地面に霊刀は落ちてしまった。

 そして遠心力を溜め込んだ蹴りは僕の脇腹に叩き込まれる。

「ぐはっ」

 僕は血を吐き、そのまま真横に吹き飛ばされてしまう。

 ビルの側面に激突する。

 頭から血が滴り落ちる。

「悠斗さん!」

 ぐわんぐわんと視界が揺れる。

 脳震盪を起こしたようだ。

 まずい……体勢を立て直さなければ。

 しかし思考がまとまらない。

「私、霊能者の肉を食べるのは初めてですわ」

 アクロバティックサラサラはゆっくりと僕に近づく。

「させません!」

 すぐにサユキがアクロバティックサラサラの前に立ち塞がる。

「あら、彼を守るのですか? なんて美しいのでしょう……ですが惜しい。貴方の妖力では私は祓えません」

「それはどうでしょうか?」

 サユキは『封魔刀』に手をかける。

 そして地獄の業火を帯びた刃をアクロバティックサラサラに向けるのであった。



 私は『封魔刀』を握りしめ、アクロバティックサラサラと対峙する。悠斗さんはビルに身体を強く打ち付けてしまい、意識を飛ばしてしまった。彼の安否が気になるが、今は眼前の敵に集中しなくてはならない。悠斗さんの代わりに私がアクロバティックサラサラを祓うのだ。霊能探偵の助手として、譲れないプライドがある。

 やり遂げてみせる。絶対に。

「その炎……何か特別な妖気を感じますわね。面白いです……さぁ、かかってきなさい」

 アクロバティックサラサラはそう言い放つ。

 私は深呼吸をして、瞬時に駆け出した。

 そして炎刀を振るう。

 炎の斬撃は燦然と広がっていき、アクロバティックサラサラの体躯を焼き焦がす。

「ぐっ……!」

 流石のアクロバティックサラサラも『封魔刀』の猛攻を防ぐことは不可能であるようだ。

 このまま仕掛ける。

「封魔・焔咲!」

 私は剣技を放った。

 炎は薔薇の花弁のように重なって広がり、アクロバティックサラサラをさらに追い込む。

「やりますわね……!」

 アクロバティックサラサラは焼き焦げた傷口に気を止めることもなく反撃に出た。

 足元まで伸びた長い黒髪を自在に伸縮させ、私の足首を巻き上げる。

「ッ!」

 私はバランスを崩し、そのままアクロバティックサラサラの意思のままに体躯を地面に叩きつけられる。

「ぐはっ」

 全身を強打した。

 しかしアクロバティックサラサラの猛攻は止まらない。

 彼女は髪を操り、私を幾度もコンクリートの地面に叩きつけた。

 頭から血が流れる。

 意識が朦朧とする。

 反撃することができない。

 一体どうすれば良いのか。

 思考がまとまらない。

「くっ……」

 そして彼女は私の体躯を天高く持ち上げ、凄まじい勢いで地面に叩きつけた。

「うっ……!」

 私の意識はついに途切れてしまった。



 どうにか雪女を無力化させることに成功した。

 さて、まずは先ほど仕留めた霊能者の肉を喰らうとしよう。その後で雪女を喰らう。彼女はメインディッシュだ。

 私はビルに打ち付けた霊能者の少年の元に向かおうとした。

 しかし、そこに少年の姿はなかった。

 次の刹那、私の身体に斬撃が浴びせられた。

「ッ!」

 視線を飛ばすと、白髪の霊能者が頭から血を流しながらも刀を振り切っていた。

「そんな……確かに仕留めたはず……!」

「ついさっき意識が戻ったんですよ」

 私は後方に飛び跳ねて間合いを確保する。

 白髪の霊能者は私に刃を向けつつ、雪女の少女に目をやった。

「零明流霊術・閉栓結界」

 そして彼はコンクリートの地面に倒れ込む雪女の少女を守るように結界を張った。

「──よくもサユキを傷つけたな。ただじゃおかない」

「たった一撃喰らわせただけで随分と有頂天ですね」

「有頂天? ふざけるな」

 彼は白いパーカーを脱ぎ捨て、刀を持っていない左手に包めた。彼が包めたパーカーには青い線が走っていた。そして左手を振りかぶり、私に向けて拳を振るった。

「零明流体術・白雷芯」

 青い閃光が走り、私の半身を吹き飛ばした。

 あまりの攻撃速度に反応が遅れた。 

 深手を負わされてしまった。

 白髪の霊能者は止まることなく猛攻を続ける。

 パーカーを私の顔に被せて視界を覆い、その隙をついて私の体躯を斬り刻んだ。

「ぐあっ……!」

 パーカーには青い線が走っており、霊力を込めた結果なのだと理解した。霊力を帯びたパーカーは一枚岩の如き硬さを持ち、私の身体能力ではどうすることもできなかった。パーカーは私の顔面を覆うように被さっており、呼吸をすることも困難だ。

「この──っ!」

「零明流霊術・蒼極砲!」

 攻撃は止まらず、私の体躯に霊力の弾丸が撃ち込まれる。

「ぐあっ……あぁ……」

 私は半身が吹き飛ばされたことと霊力のこもったパーカーで顔面が覆われていることが相まって意識が飛びそうになる。

「苦しいか? 言っておくが、楽には祓わないさ。サユキを傷つけたんだ。それなりの報復は受けてもらう」

 彼は淡々とした声でそう言い放った。

 私は思わず身の毛がよだつような恐怖を覚えた。

「それにこれまであんたが喰い殺してきた人達の分も含めて、あんたには罰を与える。せいぜい足掻くことだな」

 彼はそう吐き捨てたのち「零明流剣術・居合・──」と口にした。

「ま、待って! 私が悪かった! 悪かったから! やめて! お願い!」

 しかし彼は聞く耳を持たなかった。

「宵影」

 次の刹那、強力な一太刀が私の体躯に叩き込まれ、私は黒い塵となって消滅した。

 

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