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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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大国の王①

リリアンヌ視点



庭園近くまで戻ってくると、さすがに自分も異変に気が付いた。


何人もの近衛隊の兵たちが、茂みを掻き分けて何かを捜している。



「…!いらっしゃいました!」


近衛隊のひとりが、はっとこちらに顔を向けた。



「ここだ!」


「すぐにロデオ総長へ知らせろ!」


「アランフォース副団長とご一緒だ!」


庭園の先の大広間まで、ざわざわと騒がしかった。



「た、大変なことになってしまいました…」



「…事情説明の際は、お傍にいましょう」


アランフォースは、抱きかかえたリリアンヌをそっと下ろした。



「リリィ!」



「…!」


大広間の方から、父が駆けてきている。


その後ろから続く、母と兄の姿も見えた。



「おい、何があった…!なぜ客間から出たりしたんだ!」


ロデオは勢いのままリリアンヌの前に屈むと、がっと両腕を掴んだ。



「…ごめんなさい、お父様。私が、外に出たいと我儘を言ったのです」



「誰かに何かされたわけではないんだな!?」



「違います。誰にも、何もされていません」

リリアンヌはしっかりと首を振った。



「どうしても庭園へ行きたくて…そうしたら、迷子になってしまいました。本当にごめんなさい」



「なぜ、アランフォースと一緒にいる?」

ロデオは、リリアンヌの背後をぎろりと睨みつけた。



「迷子になったところを、助けてくださったの。アランフォース副団長がいなければ、ここへ戻ってこられませんでした」



「…お前に、後で話がある」



「お父様…!アランフォース副団長は、助けてくださったのです」


アランフォースを睨み続けるロデオに、リリアンヌは必死で弁明した。



「それに私は、勝手に侍女から離れました。すべて私が悪いのです。本当に、ごめんなさい…!」


アランフォースもニアも、悪くない。


自分が、勝手をしただけだ。



「…リリアンヌ?」


アヴェリーンはロデオの後ろで、そっと首を傾げた。



「その肩の鳥は、どうしたの?」



「…あ」


そうだ。


その説明の方が先だった。



「この子は…精霊です。庭園の先で見つけました」



「…はぁ?精霊だと…?」

ロデオは眉を寄せ、リリアンヌとスノウを交互に見比べた。



「確かに…光っているな」

サイラスが、ロデオの後ろから覗き込んだ。



「精霊は皆、光っている。確かにそう習った」



「…はい。ですから、私も気付きました」


皆から見つめられるスノウは、丸い目を開き、首を傾けていた。



「今…見つけたのか?」


ロデオの顔に、困惑が広がった。



「それを…城で見つけたのか?」



「…ひとりで迷子になった時に、この子を見つけました」

リリアンヌは、慎重に頷いた。



そこまで、アランフォースと話を詰めていなかった。


勝手に話を作ってしまっているけれど、大丈夫だろうか。



「――それで、加護は貰ったのか」


低く鋭い声が、割って入った。



「!」


ロデオは、ばっと大広間の方へ顔を向けた。



「…あ」


リリアンヌの顔から、一瞬で血の気が引いた。



「加護は、貰ったのか」


大広間から出てきた男が、もう一度同じ言葉を繰り返した。



長い金色の髪に、自分や父と同じ、紅い瞳。


その肌は色白で、父や兄よりも体は細い。


それなのに、この場の誰よりも圧倒的な存在感を放っていた。



国王――レックスだ。



王の後ろから、先ほど見かけたエドガーも近づいてきている。



「…陛下、このたびは――」



「余計な挨拶は不要だ」


レックスは近づきながら、お辞儀するリリアンヌを一蹴した。



「どうなんだ。答えろ」



「…恐らく、貰いました」

リリアンヌは顔を上げ、慎重に答えた。



「なぜ分かる」



「精霊を持った時に、一瞬、自分と精霊が光りました。それが、加護を授かった証だと思います」



「……」


レックスはロデオの手前で足を止めると、じっとリリアンヌを見下ろした。



「……」


後ずさりしたくなる足を、なんとか堪えた。


ただ見られているだけなのに、すごい圧だ。



「精霊…?そう言いました?」


「加護を貰ったかと尋ねられていたぞ」


「本当か…?まさか陛下は信じられているのか?」


庭園まで出てきていた客たちが、ざわりと騒ぎ立った。



「…陛下。恐れ入りますが、我々は帰らせていただきます」

ロデオが、静かに立ち上がった。


囁き合う客たちが、見えなくなった。



「いや、ついて来い」


レックスの目は、まだリリアンヌに向けられたままだった。



「娘をどこに連れて行くというのでしょうか」



「玉座の間だ。起こった出来事を、すべて説明しろ」



「後日でいいでしょう!この子は、たった今戻ってきたところだ…!」



「いいわけがあるか」

レックスは、鋭い目をロデオに向けた。



「すべて語れ。異論は許さない」


とても、身内に向ける目ではなかった。



「…行くぞ。来い」


レックスは身を翻し、大広間へ戻っていった。



「お、お父様…私、行ってきます」

リリアンヌは、真っ青な顔でロデオを見上げた。


このままだと、父まで何かしらの罰を受けてしまいそうだ。



「…おいで。一緒に行こう」

ロデオは、そっとリリアンヌを抱き上げた。



「サイラス。アヴェリーンを連れて、先に屋敷へ戻っていろ」



「…分かりました」

サイラスは、じっと国王の背中を睨みつけていた。



「ごめんなさい…お母様、お兄様」



「大丈夫よ、リリアンヌ」

アヴェリーンは手を伸ばすと、娘の頬を優しくさすった。



「正直に言えば大丈夫よ。怖いことなどないわ」


母の手は、微かに震えていた。



「アランフォース、お前も来い」



「御意に」

アランフォースは短く答えると、進むロデオに続いた。



国王は、何も言わずに客人たちの間を突っ切っていった。


その後ろから騎士たちが、自分を抱えた父が、アランフォースが続いた。



誰もが、こちらを見ている。


しんと静まり、ただじっと探るような視線が突き刺さった。



「……」

リリアンヌはロデオの肩を掴み、後ろから続くアランフォースへ目を向けた。



アランフォースを、巻き込んでしまった。


また、人を巻き込んでしまった。



アランフォースが、小さく頷いた。


大丈夫だ、と言うように。



大丈夫なわけがない。


これから、国王に問いただされるのだから。



“物語”に、レックスはほとんど出てこない。


“デューゼの森の悪夢”で、父と共に討伐へ向かい、命を落としてしまう。


けれど、ブライアンが王座を継いだ後も、レックスの名は語り継がれていた。



――残虐王として。



気に入らない者がいれば、斬り捨てる。


欲しいものがあれば、必ず手に入れる。


情けは、一切ない。


“物語”では、そういう人物として語られていた。



もし精霊を寄越せと言われてしまったら、


そのために、捕らえられることもあるのだろうか…



言葉を間違えるわけには、いかない。



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