ふたりと精霊⑤
リリアンヌ視点
勢いのままに、精霊の加護を貰ってしまった。
スノウを助けたことは、後悔していない。
加護を授かったことも、とても嬉しい。
嬉しいけれど――
「ホ~」
「あ…」
スノウがぱたぱたと羽ばたき、肩へ移動した。
「そこがいいんだね?」
「ホ~?」
駄目かなと言うように、スノウが一鳴きした。
「ううん、いいよ」
「…精霊が何を言っているのか、分かるのですか?」
「…なんとなくですが」
リリアンヌは、気まずそうにアランフォースから目を逸らした。
アランフォースは、何も聞いてこない。
聞いてこないから、甘えてしまっている。
だけどアランフォースは、騎士だ。
国王直属騎士団の、副団長だ。
起きたすべてのことを、父に報告するのだろう。
自分が加護を授かったということを、アランフォースは気付いていない。
けれどこれは、隠すことはできない。
スノウは、自分から離れることはない。
見た目からして、ただの鳥でないことは一目瞭然だ。
それに、白のちからを持っていることももう隠せない。
これはもう、アランフォースに確実に気付かれている。
白のちからを持っていて、加護を授かって、
それが報告されたら――
その後、どうなるのだろう。
精霊から加護を授かるなんて、少なくとも四百年は例がなかったはずだ。
加護を貰って良かったね、では終わらないだろう。
霊拝師として、セスランディア大聖堂に入るのか。
それとも加護を持つ者として、どこかで調べられるのか。
スノウがいたことで、もう確信した。
“デューゼの森の悪夢”は、必ず起こる。
スノウの加護を貰ったのならば、
マドカがいないのならば、私が――
「…リリアンヌ殿下」
「…はい」
リリアンヌは、ゆっくりと顔を上げた。
「私に何か、力になれることはありますか」
アランフォースは、じっと真剣な表情を向けていた。
「いえ、そんな…!」
咄嗟に、首を振った。
「騎士様のお手を煩わせたら、お父様に叱られてしまいます…!」
本来なら、すぐにでも国王の前に連れて行かれたかもしれない。
精霊の話の前に、立ち入り禁止区域に踏み入れてしまったのだから。
それなのに、まず父のもとへ行こうと提案してくれている。
それだけでもすごくありがたいのに、
これ以上、アランフォースを巻き込むわけにはいかない。
「…リリアンヌ殿下」
アランフォースが、もう一度名を呼んだ。
「もし、お困りのことがあるなら――私にできる範囲で力を貸します」
「…!」
リリアンヌは、はっと息を呑んだ。
驚くほど、まっすぐな目だった。
「あの…でも、本当にこれ以上は――」
「何と言って説明するつもりなのです?」
「…えっ?」
「ロデオ総長に、どこまでをお伝えするつもりなのですか」
「どこまでって…どういうことですか?」
リリアンヌは、困惑したように首を傾げた。
「ユーレンス副団長が、すべてをお話するのではないのですか…?」
「ですから、どう報告するかをリリアンヌ殿下と決めたいと思っています」
「…ほ、本当に…?」
本当に、話を合わせてくれるというのだろうか。
「ええ。もちろんです」
アランフォースは、迷いなく答えた。
「…ユーレンス副団長。お願いがあります」
それなら、まだ――
「私が白のちからを使えることは、秘密にしていただけませんか?」
まだ、隠すことができる。
「…ロデオ総長は、知らないのですね」
「はい。…誰にも言っていません」
正確には、数人、知っている人たちがいるけれど。
「その…精霊を見つけたことは、正直にお父様へお話します」
肩にいるのだから、隠すこともできない。
「だけど…白のちからを持っていることは、まだ秘密にしておきたいのです」
「分かりました」
アランフォースは、あっさりと返した。
「え…いいのですか?」
白の使い手を隠匿することは、罪となる可能性があると騎士が言っていた。
それはきっと、アランフォースだって同じだ。
「何でも力になると約束しました。リリアンヌ殿下がロデオ総長へお伝えするまでは、誓って誰にも話はしません」
「あ…ありがとう、ございます…!」
込み上がる涙を、必死に堪えた。
「必ず…いつか必ず、自分の口からお父様へお話しますから…」
なんて優しいのだろう。
なんて、まっすぐな人なのだろう。
こんな人だとは、知らなかった。




