ふたりと精霊④
アランフォース視点
「…あっ」
リリアンヌは突然思い出したかのように、はっと振り向いた。
「その…ご迷惑をおかけしました」
すぐ後ろで屈むアランフォースに向かい、気まずそうに眉を下げた。
その手には、しっかりと精霊を抱えている。
「…戻りましょう」
アランフォースは、静かに立ち上がった。
「はい…」
「…またお抱えしてもよろしいでしょうか」
「…はい」
「失礼します」
両手で精霊を持つリリアンヌを、行きと同じように抱え上げた。
「このままロデオ総長のもとへ向かわれるべきだと思いますが、いかがでしょうか」
「そう…ですね。はい」
精霊へ目を落とす彼女は、どこか諦めた様子だった。
「……」
アランフォースは聖樹に背を向け、無言のままその場を後にした。
…これから、どうするべきか。
エラドリオール一家なら、祝宴に参加していた。
庭園に戻り次第、まずロデオを呼ぶべきだろう。
リリアンヌがすでにいなくなったことに気付き、騒いでいるかもしれない。
聖樹へ行きたいと言う彼女を、止めることができなかった。
ただの我儘とは思えず、国王直属騎士団の者として付き添うのは間違いではないと判断した。
まさか、精霊を見つけることになるとは思わなかったが。
…これが、精霊――
ただのふくろうにしか見えない。
だが、ただの鳥は体を光らせはしないし、あんな攻撃などしない。
あれは――
異形の存在の攻撃に、よく似ていた。
「……」
アランフォースは足を進めながら、リリアンヌへ静かに視線を向けた。
手のひらに載せた精霊を見つめたまま、何か深く考え込んでいる。
一体…
この少女は、何者なのか。
明らかに、聖樹の下に精霊がいることを知っていた。
精霊が攻撃することも、知っていた。
白のちからを、使った。
今まで受けたことなどないが、あれは間違いなく白のちからだ。
討伐で負った火傷の違和感が、一瞬でなくなった。
ロデオの娘が白の使い手など、初耳だ。
白の使い手は必ず大聖堂へ入るものだと思っていたが、違うのだろうか。
それともロデオは、大聖堂へ入れることが嫌で彼女を隠し続けてきたのか。
尋ねたいことは、多くあるが――
だがそれは、自分の役目ではない。
「ホ~」
「!」
精霊が、小さく羽ばたいた。
「あ…」
そのままリリアンヌの肩へ止まり、収まった。
「そこがいいんだね?」
「ホ~?」
「ううん、いいよ」
「…精霊が何を言っているのか、分かるのですか?」
思わず、尋ねていた。
「…なんとなくですが」
リリアンヌは目を伏せたまま、静かに答えた。
「……」
彼女は先ほどから、当たり前のように精霊と会話をしている。
精霊が攻撃している時は、そんな様子はなかった。
むしろ、言葉は届いていなかった。
あの時だ。
精霊と彼女が、同時に白く光った時――
神秘的な聖樹の下で、初めて見る精霊。
彼女は小さく光るそれを、ゆっくりと両手ですくった。
何度も謝罪を繰り返す彼女の上では、聖樹の葉が輝き揺れていた。
まるで、物語の中に入り込んでしまった錯覚に陥った。
「……」
アランフォースは目を伏せ、心の中で苦笑した。
自分の役目でないと言いながら、
この不思議な少女のことばかり考えてしまう。
「…リリアンヌ殿下」
「…はい」
大きな目が、こちらに向けられた。
「私に何か、力になれることはありますか」
アランフォースは、真剣な表情で切り出した。
「いえ、そんな…!」
リリアンヌは、慌てたように首を振った。
「騎士様のお手を煩わせたら、お父様に叱られてしまいます…!」
「……」
思わず、笑いそうになるのを堪えた。
そんなこと、王弟の娘が気にすることではない。
むしろ、国のために生きる騎士として王族に協力するのは当然のことだ。
それに――ロデオが叱るのは、自分の方だろう。
「…リリアンヌ殿下」
彼女は何か、抱えている。
それが何かは、まだ分からないが。
放っておくべきではないと、直感が働いた。
「もし、お困りのことがあるなら――私にできる範囲で力を貸します」
そのせいなのか――
自分でも意外な言葉が、自然とこぼれていた。




