ふたりと精霊③
リリアンヌ視点
音が止まり――再び、静かな森に戻った。
「…っ…はっ、はっ、はぁっ…!」
リリアンヌは俯き、胸を両手で握りしめた。
胸が、苦しい。
全身から、一瞬で汗が噴き出た。
涙で霞む目をこすり、顔を上げた。
ふくろうの精霊は、攻撃を止めていた。
何が起きたか分からないのか、目を丸くしている。
「…はっ、はっ、はぁ…」
リリアンヌは荒い息をこぼしながら、アランフォースの脇を通り過ぎた。
精霊は、まだ動かない。
「…こんにちは」
目を真ん丸にして、じっとこちらを見つめている。
「…触れてもいいかな?」
リリアンヌは精霊の前で屈むと、そっと両手を前に伸ばした。
驚かせないように、ゆっくりと――
「ホ~」
「!」
精霊はぴょんと跳ね、リリアンヌの手のひらに乗った。
「小さい…」
こんなに、小さかっただろうか。
丸い黒目に、両手に収まるほどの体。
白いと思っていた光は、少しだけ青みがかっていた。
だけど羽は真っ白で、とても綺麗だ。
精霊は、くくくっと首を傾げると、再び小さく鳴いた。
「ホ~」
その目は、まっすぐにリリアンヌだけを見つめていた。
「…ごめんなさい」
ぽつりと、言葉が落ちた。
どこか――他人事のように考えていた。
この子は、ここで消えてしまいそうだったのに。
どうして、もっと早く助けてあげなかったのだろう。
「遅くなって、ごめんね…」
リリアンヌは両手に包んだ精霊を、そっと額に近づけた。
「…温かい」
この子は、こうやって生きているのに。
意思をもって、生きているのに。
「本当に、ごめんなさい…」
“物語”のことばかり気にして、この子の想いなど考えてもいなかった。
本当に、最低だ。
いつだって、自分のことばかり。
私は本当に、何も学ばない。
「ごめんなさい…っ」
目から、ぽたりと涙が落ちた。
「…ホ~」
精霊は、優しくリリアンヌの額に体を寄せた。
額に、羽が優しく触れた。
「ふふっ…くすぐったい」
まるで、もう大丈夫だと言っているようだ。
触れる羽が、じんわりと温かい。
ふいに――精霊とリリアンヌの体が、白く光った。
「え…!?」
体の中に、何か温かいものを感じる。
白のちからを使っていないのに――
光は、すぐに消えた。
「あ…!」
リリアンヌは、はっと精霊に顔を向けた。
この子が、何を考えているか伝わってくる。
今、この子は――
私に、加護をくれた。
「ホ~…」
「…あ、うん、そうだね」
精霊が、名前を欲しがっている。
「…スノウ。…あなたは、スノウ」
雪のように真っ白で綺麗な、ふくろうの精霊。
“物語”では、名前も出ずに消えてしまった精霊。
「スノウ…ありがとう」
「ホ~…!」
スノウは、嬉しそうに羽を小さくばたつかせた。
「…可愛い」
なんて優しい子なのだろう。
なんて、愛おしいのだろう。
この小さな子を、護りたい。
消えてほしくない。
「……」
リリアンヌは何も言わず、
小さな精霊を引き寄せ、抱きしめた。




