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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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ふたりと精霊①

リリアンヌ視点



「はっ…はぁっ…!」


リリアンヌは、全速力で森の中を駆けた。



とにかく、塔から離れなければ。



聖樹の方角は、分かっている。


屋根の上から見えていたのだから。




間近で見たアランフォースは、とんでもなく格好よかった。


しかも、正装だなんて。


あんな姿、“物語”でも見たことない。



服の上からでも分かる逞しい体に、差し出された大きな手。


鮮やかな赤い髪が、風になびいて、何本かが端整な顔に掛かっていた。



それだけで、息を呑むほど目を奪われた。



「…っ」


小さく頭を振り、走ることに集中した。



見つからないように、じぐざぐと森を進んではいる。


だけどもう、アランフォースが兵士を呼んで追いかけてきているかもしれない。



とにかく、聖樹へ。


行く道を遮る樹を、高く飛び跳ねて越えた。



走る先に、辺り一面が淡く光る場所が見えた。


あそこは、聖樹の区域だ。



あと、少し――




「そこまでです」



「ぅわ…っ!」


体が宙に浮き、足が地から離れた。



「…!」


リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。



「あ…っ」



「私からは、逃げられませんよ」


体を持ち上げたのは、アランフォースだった。



「…あ、あの…」


アランフォースはリリアンヌを地面に下ろすと、その前に跪いた。



「指輪は、お返しします」


リリアンヌの左手を持ち上げ、そっと人差し指へ指輪を嵌めた。



「…リリアンヌ殿下。ここは、遊び場ではありません。今すぐ戻りましょう」




「あの…アラ…ユーレンス副団長」


見惚れている場合ではない。


今は、それどころじゃない。



アランフォースの声は穏やかだけれど、有無を言わせないような強い口調だ。


注意されるようなことをしたのだから、当然だ。



「私は、遊びでここまで来たわけではありません」


だけど、聖樹はすぐそこだ。


ここまで来て、引き返すわけにはいかない。



「事情は話せないのですが、とても大切な用事で…あの聖樹の下まででいいのです」


せめて、聖樹の根元が見える場所まで。



「…許可してくださいませんか?」



「…聖樹の下に用事があると?」

アランフォースは、小さく首を傾げた。



「はい。…あ、いえ、あるかもしれなくて」


つい、尻すぼみになってしまった。



精霊が、いるかもしれない。


いないかもしれない。



「聖樹の周りは、立ち入り禁止区域です。それは、リリアンヌ殿下も同じです」



「…分かっています。それでも、大切な用事なの…」



「……」


アランフォースの表情は、明らかに困っていた。



それは、そうだろう。


王族の子が、立ち入り禁止区域に入りたいと無理を言っているのだから。


それを許せば、アランフォースだってただでは済まない。



「ユーレンス副団長には、絶対にご迷惑をおかけしないと誓います」

リリアンヌは、必死になって訴えた。



「もし私が入ったことが露呈してしまった場合は、知らなかったことにしてくださって結構ですので」


父にどれだけ問い詰められたとしても、絶対にアランフォースの名は出さない。



「だから…どうか、お願いします」


もしかしたら、マドカは霊拝師(オランス)じゃなくても聖樹に来ているかもしれない。


もうとっくに、精霊を連れて行った後かもしれない。



ここは“物語”とまったく違う世界で、精霊なんていないかもしれない。


それなら、それでいい。



でも――もし本当に、精霊がいたら?


マドカに見つけられなかったその精霊は、どうなってしまうのだろう。



「…分かりました。私も参ります」


アランフォースが、ゆっくりと立ち上がった。



「え…い、いいえ…!」


咄嗟に、強く首を振った。



「ユーレンス副団長に、ご迷惑をおかけするわけにはいきません…!」



「そう思うならば、戻っていただきたいのですが――失礼します」



「えっ…」



「私も一緒について行きます。それが条件です」



「で、でも、自分で歩けます…!」


リリアンヌは恥ずかしそうに、アランフォースの腕の中で身じろぎした。


父のように、片手で抱え上げられてしまった。



「また逃げられてしまっては、困りますから」



「もう、逃げません…!だから、下ろしてください」



「駄目です。参りましょう」


アランフォースはもがくリリアンヌを抱えたまま、聖樹の区域へ足を進めた。



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