表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
91/222

交差するふたり⑤

アランフォース視点



一塔の中から、人の気配がする。


当番の近衛隊兵が駐在しているのだろう。


不審な人影を見たと伝えれば、屋根の上まで通してくれるだろうが――



「……」


アランフォースはわずかに逡巡した後、見張り塔の壁に手を掛けた。


城壁の凹凸を使い、腕のちからだけで上へと登った。



一体、俺は何をしているのか。


そうは思うが、今は時間が惜しい。


屋根の上からは、まだ誰かの気配を感じる。



一気に塔を登りきり、屋根を駆けて裏側へ進んだ。




「――誰だ!」


裏側へ回ると同時に、侵入者を呼び止めた。



「…!」


豪奢なドレスをまとった少女が、さっと振り返った。



「……」


やはり、見間違いではなかった。


先ほど、王城の入り口で見かけた少女だ。



大広間へ入る直前――光るものに反応し、上の階へ目を向けた。


そこには支柱の間に屈み込み、じっと自分を見下ろす少女がいた。



可愛らしい橙色のドレスに、髪飾りが反射して光っている。


得物ではないと分かり、すぐ目を逸らして大広間へ進んだ。



たった一瞬、目が合っただけだ。


それなのになぜか、彼女のことが強く印象に残っていた。



その少女が――今、高い塔の屋根にいる。


どうやって塔を登ったのか。


それ以前に、なぜこんなところにいるのか。




少女は警戒しているのか、動かない。


片膝をついたまま、こちらをじっと見つめている。



風が吹き、黒い髪がなびいて、ドレスの裾が大きく舞った。


それでも、まっすぐ自分を見つめる大きな紅い瞳から――



目が、離せなかった。




「…君は?」


アランフォースは、静かに口を開いた。



「…騎士様、初めまして」


少女は片膝をついたまま姿勢を正すと、静かに目を伏せた。



「ロデオ・エラドリオールの娘、リリアンヌと申します。驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」



「…私は、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)副団長、アランフォース・ユーレンスと申します。お目にかかれて、光栄に存じます」


あまりにも場違いな彼女の挨拶に、思わず自分まで同じように返した。



リリアンヌ・エラドリオール――


類稀なる美貌を持つと噂されている、王弟ロデオの娘か。



王族であるにも関わらず、ロデオが溺愛するあまり、彼女の存在は隠されてきた。


社交場にも出てこず、その姿を見た者は少ない。



類稀なる美貌と言っても、まだ幼い子供だ。


王族らしい身内贔屓だろうと思っていたが――違った。



ブライアン同様、彼女もまた人間離れした顔立ちをしている。


王族は、我々とは違う存在なのだろうか。



「…リリアンヌ殿下。ここは危険です」


だが、今はそれどころではない。


ここから子供が落ちたら、怪我では済まない。



「一緒に、下へ降りましょう」



「……」


リリアンヌは両手を後ろに回すと、黙ったまま俯いた。



「…殿下。こちらへ」


アランフォースは左手を差し出し、慎重に近づいた。


何かする気だ。




「…ごめんなさいっ!」



「!」


目の前に飛んできたものを、咄嗟に掴んだ。


小さな指輪だった。




その一瞬の隙に――少女の姿が消えた。




「…!?」


すぐに塔の下を覗き込んだ。


通りの脇に広がる森の中へ、少女が入っていくところだった。



「…嘘だろ」


アランフォースは口の中で小さく呟くと――


躊躇いなく、屋根の上から飛び降りた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ