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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
序章/閉ざされた姫君
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ちからの目覚め①

リリアンヌ視点



授業のない午前は、自由に動ける。



少し前までは、乳母がつきっきりで世話をしてくれていた。


けれど母の許可が出て、付き添いもなくなった。


起床から昼の食事までは、ひとりきりだ。



「誰もいない…ね」


リリアンヌは、屋敷の裏にある庭園へ出てきていた。



色とりどりの花が咲き、手入れされた樹木が並ぶ、迷路のように広い庭園だ。


綺麗に刈り込まれた生垣は、六歳の体をすっぽりと隠してしまう。



使用人たちも忙しく動き回っているし、衛兵たちからも見えにくい。


ここなら、少しくらい妙なことをしても気付かれないだろう。


いろいろ試すには、ちょうどいい場所だ。



“リリアンヌ”は、特別なちからを持つ者(アニマソムニア)だった。


“跳躍のちから”と、“黒のちから”を持っている。


ただ、黒のちからは後天的に持つものでまだ使えない。


それに、とても危ないものだ。



今使えるとしたら、跳躍のちからだ。


ただ、高く跳べるだけのちから。


これが、何かの役に立つとは思えない。



“マドカ”のように、“白のちから”を持っていたのなら。


異形の存在の大群を消し去った、あのちからを使えたなら――



“デューゼの森の悪夢”から七年後、


加護を失ったマドカは、もう異形の存在を消し去ることができなくなっていた。


それでも白のちからを鍛えることで、異形の存在を“弱体化”して戦っていた。



白のちからは、本来、病気や怪我を治すためのちからだ。


どうしてそんなことができたのか――そこまでは、“物語”で描かれていない。



「…持っていないちからのことを考えても、仕方ないね」


今は、跳躍のちからをどう使うかだ。



物語の中で戦うリリアンヌは、とても格好よかった。


前線に出て、誰よりも高く舞って、美しく戦った。


鍛えれば…私も、あんなふうに戦えるのだろうか。



「……」


もう一度辺りを見渡し、樹木の陰に隠れた。


その場で小さく屈み、膝を曲げた。



「えいっ…!」


地を蹴り、低く跳び上がった。



すぐに地面に足がつき、半歩ほど前に着地した。


どう見ても、何のちからも使えていない。



「う~ん…」


いまいち、ちからの使い方が分からない。


心で願えばいいのだろうか。



「……」


今度は目を閉じ、胸に手を置いた。



――跳躍のちからを、使いたい。



心臓の辺りが、温かくなった気がする。


もしかして、これがちからを使う時の合図だろうか。



トンッ…と軽く地を蹴り――


体が、一気に跳ね上がった。



「…うわぁっ!」


空中で体勢を崩し、視界がぐるりと揺れた。


一瞬、エラドリオール邸の屋根が見えた。



「わわっ…待って!」



――ガサガサ…ッ



リリアンヌは、そのまま近くの樹へ頭から突っ込んだ。



――ドンッ



鈍い衝撃と共に、地面へ転がり落ちた。



「…いったぁ…」


やってしまった…



体中が、ずきずきと痛い。


視界に入る右手首が、あっという間に腫れ上がっていく。



「何の音だ!?」


「あっちからしたぞ」


屋敷の外から、鋭い声が聞こえた。



「…!」


あの声は、衛兵たちのものだ。


とてもまずい。



「…うう」


上半身は起こせても、足に力が入らず、立ち上がれない。


右手首だけではなくて、足も折れているかもしれない。



本当に、どうしよう…。


このままだと、騒ぎになってしまう。


父にまで報告が行き、今度は庭園に出るのも禁じられてしまうかもしれない。



そうしている間に、


衛兵たちの腰の剣が触れ合う音が近づいてきた。



「…っ」

リリアンヌは、ぎゅっと目を閉じた。



傷を、どうにかしたい。


治さないと、大変なことになる。



お願い。


どうか、お願い――



「…え!?」



その瞬間――リリアンヌの体が、白く光った。



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