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序章Ⅲ(ちからの発現)②

リリアンヌ視点



「あれ、リリアンヌお嬢様?」


光が収まると同時に、

生垣の奥から、衛兵二人が顔を覗かせた。



「そんなところで座って、何をしているんです?」




「…ごめんなさい!」

リリアンヌは、慌てて立ち上がった。


「その…ボール遊びをしていたの!」




「…ボール遊びですか?」



「ええ、そう。そうしたら、勢いよくボールが木に当たって、驚いて転んでしまって」



「ああ…それで、ぶつかるような音がしたのか」



「…そんな感じの音ではなかったけどな」



「そうだな…もっと大きな音だったような」

衛兵たちは、首を傾げて囁き合った。



「きっと、ボールの当たりどころが悪かったのかも…!驚かせてしまって、ごめんなさい」

リリアンヌは、衛兵たちに向かって勢いよく頭を下げた。




「いいえ…!お嬢様、そんな気になさらないでください」


「そうですよ!何もなければ、それでいいんです」


衛兵たちが同時に言った。




「何もないわ。もう屋敷に戻るね」



「分かりました。お怪我はないですね?」



「ええ、大丈夫。ありがとう…!」

リリアンヌは衛兵たちに手を振ると、逃げるように屋敷の中へ駆けていった。




一体…どういうことだろう。


私が今使ったのは――多分、白のちからだ。



怪我をどうにかしたいと願ったら、治すことができた。

擦り傷も消え、右手の腫れも引いた。

足の痛みもなくなり、普通に走れる。



“物語”のリリアンヌは、白のちからを使えない。

正確には、使っている場面がなかった。


跳躍のちからは、物語通り使えた。


…さっぱり分からない。

幼少期の“リリアンヌ”については、あまり触れられていないから。



それに確か、

白のちからを使えることが分かれば――




「――リリアンヌお嬢様。廊下を走ってはいけませんよ」



「…!」


耳に届いた声に、はっと顔を上げた。




「庭園で遊ばれていたのですか?珍しいですね」

家令が、待ち受けるように廊下の中央に立っていた。




「ステファン…!聞きたいことがあるのだけれど」



「はい、何でしょう」



「白のちからが使える人は、必ず霊拝師(オランス)になるの?」

リリアンヌは、勢い込んで尋ねた。




「おや…お嬢様は、霊拝師についてもう習ったのですね」

ステファンは、驚いたように目を瞬いた。




「あ…ええ、そう。この間マルコ先生に聞いて、ずっと気になっていたの」



「お嬢様のおっしゃる通り、我が国では、白の使い手は必ず霊拝師となります」



「使い手…ええと…自分が白の使い手だということは、どうやって分かるの?」



「大きく分けて、二種類です。本人か家族が気付くか、もしくは鑑定士の方に調べてもらうかです」



「…!」


鑑定士…



「…それで、白の使い手だと分かったら、必ず報告するの?」

リリアンヌは、逸る気持ちを抑えながら尋ねた。




「そうですね。必ず、近くの聖院――国の施設に報告します」

ステファンは、言葉を選んでゆっくりと答えた。


「国は報告を受けると、騎士を派遣し、白の使い手を迎えに行きます」




「えっ、騎士?」



「ええ、護衛が必要ですから。そうして白の使い手は、王都にあるセスランディア大聖堂へ迎え入れられます」



「…セスランディア大聖堂」


聞き覚えのある単語が、強く記憶を刺激した。



「…ねぇ、ステファン。霊拝師は必ず、セスランディア大聖堂で過ごすことになるの?」




「ええ、そうですよ。癒しのため各地を訪れる時以外は、大聖堂で生活し、騎士により固く護られます」



「白の使い手は、皆そうなの?」



「白の使い手は、貴族からも平民からも生まれます。例外はございません」



「もし報告しなかったら、どうなるの?」




「お嬢様…霊拝師は、誰しもが憧れる職業です」

ステファンが、困ったように笑みをこぼした。



「白のちからを持っているにも関わらず報告しないような者は、この国にはいらっしゃらないでしょう」




「…そう」



「…さてはお嬢様、怪我をされましたね?」



「…えっ!し、していない…!」

リリアンヌは、思いきり首を振った。




「そうですか。てっきり怪我をされたから、霊拝師のことを尋ねたのかと思いましたが――失礼します」



「…!」


頭へ伸ばされた手に、リリアンヌはびくりと肩を揺らした。




「あまりお転婆が過ぎますと…御父上に、ご報告させていただきますよ」

ステファンの指の間には、木の葉が挟まっていた。



「…ごめんなさい」

リリアンヌは、ばつの悪そうな顔を浮かべた。




「お嬢様は大変慎み深いのですが、たまに突飛な行動をされますからね。心配で仕方ありません」



「本当に、ごめんなさい」



「お嬢様が傷を負えば、御父上は、この屋敷で働く者の大半を解雇しかねませんよ」



「えっ、どうして?」



「御父上にとって、何よりもお嬢様が大切だからです」

ステファンは、再び困ったように笑った。


「御父上や御母上、我々使用人のためにも、どうか無茶はお控えくださいませ」




「…はい、分かりました」

リリアンヌは、慎重に頷いた。




「…それで、お嬢様。何を急がれていたのです?」



「あ…ええと…お腹がすいたなと思って」



「ふふっ…そうですか。まもなく昼食のお時間となりますから、自室でお待ちください」



「ええ、そうするわ。ステファン、いろいろ教えてくれてありがとう」



「とんでもございません。いつでもお尋ねくださいませ」


ステファンと別れると、リリアンヌは歩いて廊下を進んだ。



「……」


歩きながらも、頭の中では、今の会話がぐるぐると巡っていた。




やっぱり…

白のちからを持っていることが分かれば、国に報告をしなくてはいけない。



“マドカ”は、王都よりずっと南にある町の孤児院で育った。

十歳の時に白のちからを持っていることが分かり、すぐに王都へやって来た。


本来なら、今すぐ私も父に報告しなくてはいけない。




…でも、まだ。

まだ、たった一度だけだ。



本当に私が白のちからを持っているのか――もう一度試したい。



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