交差するふたり③
アランフォース視点
「アランフォース殿!このたびの討伐も、お見事でしたな!」
目の前の男が、腹を揺らし、笑った。
「貴殿が、ほとんどひとりで倒されたとか。いやはや、さすがだ」
「恐縮です」
アランフォースは、軽く会釈をして返した。
「アランフォース殿は、本当に謙虚な方だな。これほどの功績を挙げられても、自慢のひとつもしない」
「私は、ただ与えられた任務を果たしているだけです」
「ふははっ…あの陛下に与えられた任務が、どれほど難しいことか」
笑顔を浮かべる男の目は、まったく笑っていなかった。
「だが、アランフォース殿。たまには、儂の騎士たちにも活躍の場を分けてはくれまいか」
「分けるも何も…それが、私の使命です」
アランフォースは、わずかに眉を寄せた。
「がははっ…貴殿の生真面目さを、少しでもあいつらに分けてやりたいな」
体が揺れるたび、身に着けている装飾品が光を反射して眩しい。
「ところで、アランフォース殿…結婚はお考えかな?」
男が体を寄せ、さらに装飾品の光が目を刺した。
「どうだね…結婚相手に、うちのアイラでも――」
「スワハマ大教主」
二人の横から、静かな声が割って入った。
「…おおっ、エドガー殿!」
「お久しぶりです、スワハマ大教主。このたびは、霊拝師たちも大変ご活躍でしたな」
エドガーは、薄い笑みを浮かべていた。
「エドガー殿。貴殿の部下たちは皆、口が堅くていけないな」
「ふっ…そうですか。皆、真面目で不器用な者たちばかりです」
「がははっ…的を射ているな。うちの騎士たちのように、少しは口を滑らせてほしいものだが」
「ええ、聖守護騎士団は、今日は随分と饒舌なようだ」
ふっ、とエドガーの目が細くなった。
「先ほど、トジャ殿が令嬢相手に、討伐は自分がしたと声高に自慢しているのを耳にしましてね」
「…は?」
スワハマの表情が、一気に変わった。
「霊拝師を護る騎士が、討伐ですか。まったく、面白い冗談だ」
「あの馬鹿…」
スワハマは小さく毒づくと、「失礼」と場を後にした。
それに合わせ、近くで控えていたスワハマの取り巻きたちも離れていった。
「…“うちのアイラ”、か」
エドガーはスワハマを目で追いながら、溜息を漏らした。
「霊拝師も聖守護騎士団も、大教主のものではないだろう。公の場で、頭の悪い発言は控えてほしいものだな」
「エドガー団長、助かりました」
「…私は、お前たちの子守ではないぞ」
エドガーは、ふっと苦笑を浮かべた。
「お前ならもう少しうまく話せただろう、アラン。スワハマくらい、軽くあしらえ」
「…取り合う必要を感じませんでした」
思わず、本音が漏れ出た。
「ここは、社交場だ。相手が誰であれ、最低限の挨拶は必要だろう」
「…もう、式は終わりました。宴の方にまで参加する必要はあったのでしょうか」
アランフォースは、手に持つグラスに目を落とした。
今は、酒を飲む気にもなれない。
「あるだろう。今日は、誕生日のブライアン殿下と共に、お前も主役だ」
「……」
「そう、嫌そうな顔をするな。光栄な話だろう」
エドガーはアランフォースの表情を見て、再び苦笑した。
「……」
この時間が、苦痛で仕方ない。
国王直属騎士団の一員として、警護のため参加する分には何も問題ない。
軍服を着ていれば、誰も話しかけてはこない。
大広間では、黒の軍服を着た部下たちが壁際に立っている。
まもなく、国王がここに来るのだろう。
…羨ましい。
今すぐにでも、そちら側へ回りたい。
「お話し中、失礼しますわ」
「…!」
「トムリンソン子爵、それに、ユーレンス子爵でいらっしゃいますわね。少し、お時間よろしいかしら」
頭に派手な装飾を付けた貴婦人が、二人のもとへ現れた。
「…ええ、もちろん」
アランフォースはグラスを片手に、体を貴婦人の方へ向けた。
「わたくし、ダイアン・バトンズと申します。ユーレンス子爵、このたびは、誠にご武功お見事でございました。授与式も、大変素敵でございましたわ」
「恐れ入ります。身に余るお言葉です」
バトンズ…
聞いたことのない名だ。
「トムリンソン子爵も、ユーレンス子爵のような部下がいらっしゃって、さぞ誇らしいことでしょう?」
「…ええ。私には、できすぎた部下です」
エドガーが、小さく笑って返した。
「ユーレンス子爵は、毎年のように武功を挙げられていらっしゃいますものね。本当に素晴らしいことですわ」
「…そのような言葉を頂けるとは、大変光栄です」
この女性は、自分が一体何を討ったのか、知っているのだろうか。
「うふふっ…騎士の方々は、本当に誠実な人が多いこと。お二人のような方たちが護ってくださるから、わたくしたちも安心して王都で暮らせますわ」
ダイアンの目が、ちらりと横に向けられた。
「ああ…わたくしたち、とは、娘のことなのですけれどね」
その言葉に合わせて、後ろで控えていた令嬢が貴婦人に並んだ。
「ユーレンス子爵。こちら、娘のニーナですの」
「初めまして。お目にかかれて、大変光栄でございますわ」
母親そっくりの令嬢が、にっこりと笑顔を浮かべてお辞儀した。
「…ニーナ嬢。こちらこそ、光栄です」
「こう見えてこの子は、まだ社交界に出たばかりなのですわ。大人っぽい見た目ですから、よく勘違いされてしまうのですけれど」
「…お察しします」
アランフォースは最低限の言葉を、感情のこもらない声で返した。




