交差するふたり①
リリアンヌ視点
客間から続く長い廊下を、
リリアンヌは、ニアの手を引いたままぐいぐいと進んだ。
「…お嬢様?まさか、裏の階段を使う気ですか?」
「うん。そうしないと、二階から庭園の方へ行けないもの」
本館二階の端に、使用人たちが使う古い階段がある。
そこを下りれば、城の裏手へ出られる。
“物語”でマドカが見つけた抜け道は、使わない。
というより、使えない。
その抜け道は、王城の本館にはないから。
王城には、本館の他に北館と南館がある。
抜け道があるのは、北館だ。
この二階から北館へ行くことは、できない。
正確には、道が分からない。
リリアンヌはニアから手を離すと、王城から出る木の扉をそっと開けた。
使用人たちは忙しそうに動き回っていて、誰もこちらに気付いていない。
目立たないよう、城壁に沿って、庭園の方へ進んでいった。
しばらく進むと、庭園との境目になっている生垣が見えてきた。
この生垣を越えれば、庭園だ。
「…!」
リリアンヌは、さっと生垣の陰に隠れた。
ちょうど生垣の内側を、近衛隊の兵士が通り過ぎた。
「……」
周囲を十分に確認して、再び生垣から顔を覗かせた。
「何度見ても、素敵な庭園だわ」
「ブライアン殿下は、まだいらっしゃらないのかしら」
「ちょっと、そこのあなた。白ワインを持ってきてくださらない?」
庭園は、大広間から出てきた客人で溢れていた。
椅子に座ってくつろいでいる人や、立ったまま談笑している人たちもいる。
その周りを、多くの近衛隊が見回っていた。
「お嬢様…!これ以上は、無理ですよぉ」
「もう少し…」
リリアンヌは王城を背に、生垣に沿ってどんどん進んでいった。
すぐ右側からは、客人たちの声が聞こえてきている。
先ほどよりも明るい曲調の演奏が、大広間の奥から流れてきていた。
庭園の先には、第一城壁の裏門がある。
裏門から先は、王家の人たち以外、許可がなければ入れない。
その先に、何度か行ったことがあった。
ただ、行った先は、裏門から左側へ進んだところにある花畑の方だ。
その花畑で小さい頃、ブライアンによく遊んでもらっていた。
聖樹は、門から右側へ進んだところにある。
こっちは、“物語”でしか行ったことがない。
しかも行ったのは、マドカだ。
「お嬢様ぁ…どこまで行かれるんですか?」
後ろから、ニアの涙交じりの囁きが飛んできた。
「…本当に、ごめんなさい」
今から自分が裏門の先に行くつもりだと知ったら、ニアは全力で止めるだろう。
だから――ここまでだ。
その時、大広間から、わっと歓声が上がった。
「あれ…何かあるみたいです」
ニアが、大広間の方へ顔を向けた。
「どうやら、国王とブライアン王太子がいらっしゃったみたいですね」
「きゃっ…ブライアン殿下がいらっしゃったわ」
「まあ…なんて美しいのかしら。ここからでもとても目立つわ」
「戻りましょう。ご挨拶に行かなくてはね」
庭園に出ていた客人たちが、大広間の方へ次々と戻っていった。
生垣の近くで巡回していた近衛隊たちも足を止め、大広間の方へ意識を向けた。
「あっ…ほら、お嬢様。ご主人様もいらっしゃいます。すぐに見つかっちゃいますよ」
ニアは大広間へ顔を向けたまま、後ろ手にリリアンヌを手招きした。
返事は、なかった。
「…?…あれっ!?」
振り返ったニアは、息を呑んだ。




