“仲間”との出会い⑤
リリアンヌ視点
「霊拝師様、いらっしゃいませんね~」
「…あ」
頭の上から聞こえた声に、はっと思考を止めた。
「もう、通る人も減ってきてしまいましたね」
いつの間にか上からニアが屈んで、同じように覗き込んでいた。
「…そうだね。もう、中に入ってしまったのかな」
リリアンヌは再び支柱から顔を覗かせ、一階へ視線を落とした。
今、気にするべきはアランフォースではなく、マドカだ。
先ほど見かけた霊拝師たちが、そのままの格好でいるならすぐ見つけられるはずだ。
ドレスの中に聖職者の格好をした人たちがいれば、騎士より目立つだろう。
「…いないね」
そもそも、祝宴に参加しているのだろうか。
アイラという人は参加しているかもしれないけれど、
それ以外の人たちは、ブライアンへ祝いの挨拶だけをしに来たのかもしれない。
それなら、客間のどこかにいるのだろうか。
それとももうマドカは、抜け道から聖樹へ向かってしまったのだろうか。
「誰かをお探しですか?」
後ろから、凛とした声が届いた。
「…えっ」
リリアンヌは振り向き――そのまま、固まった。
立っていたのは、白の長衣に、薄絹の外套を重ねた姿の女性二人だった。
外套と同じ色合いの被りものには、金糸の刺繍が控えめに施されている。
――霊拝師だ。
「迷子…かしら」
手前の霊拝師が一歩近づき、再び口を開いた。
薄い桃色の前髪が、被りものから溢れている。
透き通るような茶色い瞳が、綺麗だ。
少し吊り上がった眉も、
つんと上がった小鼻も、
まるで、作られた人形のように整っている。
すごく、目を引く人だった。
「…大丈夫?」
「…大変失礼しました」
リリアンヌはそっと立ち上がり、二人の霊拝師へ体を向けた。
三度も声をかけさせてしまった。
「初めまして、霊拝師様。私は、ロデオ・エラドリオールの娘、リリアンヌと申します」
いつものようにドレスの裾を軽く摘まみ、膝を曲げて挨拶した。
「迷子ではなく、人を探していました。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」
「…!ロデオ総長のご息女様でしたか」
手前の女性が、はっと姿勢を正した。
「私は、上級霊拝師のアイラと申します。お会いできて、大変光栄でございます」
「…!」
その名を、何度も聞いた。
彼女が、国一番の白の使い手だ。
「人探しですか…何か、お役に立てればいいのですが」
「あ…いいえ。実は、霊拝師様を探していたのです」
「私たちを…?どうしてでしょう?」
アイラが、きょとんと目を瞬いた。
「え…ええと…アイラ様は、これから祝宴へ参加されるのでしょうか?」
しまった。
理由も考えずに、霊拝師を探していると言ってしまった。
「いいえ。これから、大聖堂へ戻るところです」
「えっ?」
思わず、声が漏れた。
「え?」
合わせて、アイラも声を上げた。
「あの…父から、アイラ様は祝宴に参加されると聞いていたものですから」
いけない。
霊拝師を、困らせてしまっている。
「ああ…私が参加していたものは、授与式の方です」
アイラは、気にしている様子もなく答えた。
「ブライアン殿下へのご挨拶も終わりましたので、これから帰るところなのです」
「…霊拝師様は、全員帰られるのですか?」
「ええ。私たち二人が、最後です」
「そう…ですか」
ということは――
マドカは、もう抜け出しているはずだ。
だけどアイラも、その後ろの霊拝師も、特に慌てている様子はない。
まだ、気付いていないのだろうか…。
「…申し訳ありません、リリアンヌ殿下。人を待たせておりますので、この辺りで失礼させていただきます」
アイラが、控えめに口を開いた。
「あっ…呼び止めてしまって、申し訳ありませんでした」
考えるのは、後だ。
「私は、客間に戻ります。アイラ様、お声を掛けていただいて嬉しかったです」
「とんでもございません。それでは、失礼します」
アイラともうひとりの霊拝師が、リリアンヌに向かい、丁寧にお辞儀した。
「行きましょう、マコ」
「…あ、はい…!」
アイラに呼ばれた霊拝師は、慌ててリリアンヌから目を逸らした。
二人は廊下を進み、入り口に繋がる階段を下りていった。
「――あの…!」
「…え?」
アイラとマコはすぐに足を止め、ゆっくり振り返った。
「お嬢様ぁっ…」
「あのっ…もうひとつ、聞きたいことがあるの」
リリアンヌは止めるニアを無視して、立ち止まった二人のもとまで駆け寄った。
「はい、何でしょうか」
「少女の霊拝師様を、探しているのだけれど」
せっかく霊拝師に会えたのだから、
やっぱり、どうしてもマドカについて聞きたい。
「少女の霊拝師…?」
アイラは、不思議そうに首を傾げた。
「…はい。十歳くらいの…」
私より三歳上だから、十一歳のはずだ。
「…リリアンヌ殿下」
「はいっ…」
リリアンヌは、びくりと姿勢を正した。
どこか、アイラの表情が硬い。
「少女の霊拝師は――いません」
「…え?」
言葉の意味が、呑み込めなかった。




