“仲間”との出会い④
リリアンヌ視点
「もう…仕方ないですねぇ」
ニアが、重い腰を上げた。
「ですが、霊拝師様が通るかまでは私も分かりませんよ?」
「うん。それでも大丈夫」
リリアンヌはソファの上に本を置き、扉に向かうニアに続いた。
「…!リリアンヌ殿下、どうされました?」
扉から二人で出ると、先ほどの年かさの使用人が振り向いた。
「あの…少しだけ、そこから王城の入り口を見てみたいの」
「なるほど…祝宴に参加される方々が、よく見えますからね」
使用人は、納得するように頷いた。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう…!行ってきます」
リリアンヌは使用人に返しながら、廊下を小さく駆けた。
「お嬢様~。お城で走っちゃ駄目ですよぉ」
「うん…!」
すぐに目当ての場所へ辿り着いた。
王城の入り口をくぐると、まず、大きな中央階段が現れる。
その階段の先は、王城で一番大きな広間だ。
今日の祝宴は、その大広間で行われる。
大広間に入る扉の手前には、さらに左右に分かれる階段があり、二階へ繋がっている。
案内された客間は、この二階にある。
二階の吹き抜けになっている廊下からは、大広間へ続く中央階段が見渡せた。
リリアンヌはつま先立ちになり、手すりの上から一階を覗き込んだ。
「うわっ…」
慌てて、すぐに顔を引っ込めた。
思った以上に客人が多くいる。
覗いていたら、見つかってしまいそうだ。
「……」
今度はしゃがみ込み、支柱の隙間から覗いた。
これならきっと、目立たない。
「私は、ここから見てますね」
ニアは、少し離れたところにある大きな花瓶の横に、隠れるように立った。
「…ごめんね」
リリアンヌは小さく謝ると、再び中央階段へ視線を落とした。
綺麗に着飾った男女が階段を上がり、続々と大広間へ吸い込まれていく。
自分もなかなか着飾ったと思ったけれど、大人たちは、もっとすごい。
令嬢や貴婦人たちは、誰もが華やかなドレスを身にまとっている。
豪奢な髪飾りが、光を反射して眩しい。
男性陣も負けじと、派手な上衣やコートを身につけていた。
胸元に着いている大きなブローチや、いくつもの飾りがついた上衣がよく目立つ。
まるで、お互いどれだけ豪奢に飾りつけられるか、張り合っているようだ。
開け放たれている大広間の扉の中から、明るめの曲調の音楽が聴こえている。
どこもかしこも、豪華だ。
その時――階下が、ざわっ…と騒めき立った。
「…?」
支柱に両手を付いて、さらに覗き込んだ。
みんな、入り口から入ってくる団体を見ている。
「…っ!」
その団体を見た瞬間、リリアンヌは大きく息を呑んだ。
入り口から入ってきたのは、数人の男性たちだった。
全員、正装姿だ。
着飾っている貴族たちに比べ質素で、装飾品は帯剣くらい。
それでも、すごく目立つ。
体格も雰囲気も、周囲の人たちとまるで違う。
あの人たちは、騎士だ。
その中でも――一番背の高い男性。
陽に灼けたような褐色肌に、燃えるような真っ赤な髪。
その特徴的な髪を後ろに掻き上げ、ひとつに結んでいる。
周囲の女性たちが、ちらちらと彼に目を向けている。
当の本人は、ただまっすぐ前だけを見て、
他の騎士たちと共に、中央階段を進んでいった。
アランフォース・ユーレンス――
“仲間”の、ひとりだ。
なんて格好いいのだろう。
まだ二十歳を過ぎたばかりのはずなのに、年齢以上に大人びて見える。
ふいに――アランフォースの視線が、上を向いた。
「え」
ぱちりと、目が合った。
アランフォースはすぐに目を逸らすと、
騎士たちと大広間の扉をくぐり、見えなくなった。
「うわわ…」
リリアンヌは顔を引っ込め、赤くなった頬を両手で隠した。
一瞬でも、目が合った。
なんたる幸運。
まさかこんなところで、アランフォースに会えると思わなかった。
“物語”通りなら、今、彼は国王直属騎士団の副団長のはずだ。
騎士だけで結成された、最強の集団。
先ほど一緒にいた騎士たちの中で、もうひとり、見覚えのある橙色の髪の男性がいた。
エドガー――国王直属騎士団の団長だ。
彼もまた、“物語”の序章で登場する。
騎士たちも、こういう場に参加するなんて知らなかった。
「あ…そっか」
そういえば今日は、褒賞授与式も兼ねていると父と兄が言っていた。
エドガーもアランフォースも、討伐に貢献して招かれたのかもしれない。
アランフォースはまだ若いのに、最強騎士団の副団長なんて。
きっと普段から、いろいろと功績を挙げてきたのだろう。
さすが――
未来の総長だ。
“アランフォース”は、父ロデオの亡き後、総長となる。
“デューゼの森の悪夢”で、異形の存在の大群に挑んだ王国軍は壊滅し、
彼だけがエドガーのちからによって、ひとり王都へ帰還する。
“リリアンヌ”と同じく――悲しい運命を背負うひとりだ。




