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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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“仲間”との出会い③

リリアンヌ視点



リリアンヌは、ぱら…と頁をめくった。



――どうか、名もなき小さきものに 

歩くちからを お与えください


その足が向かう先に 

嘆きがあるなら、立ち止まれるように


ちからが足りぬときは

光ではなく、温もりを


救うほどの強さがなくとも

寄り添うだけの勇気を

どうか、忘れさせぬように


これは、世界のすみを歩く

小人精霊ドーシュミのための 祈りだ



「…へぇ」


絵本と違い、一気に信仰色が強い。


まるで、祈りの書のような始まり方だ。



さらに頁をめくった。



――むかし


森の奥深くに ひとりの小さな精霊がいた

名を、ドーシュミという


小人精霊のなかでも、

ドーシュミは とりわけ小さかった


 


小人精霊は、“物語”の中でも出てくる。


ただし、女の子の小人精霊だ。


その子が、また可愛くて。



「…懐かしい」

リリアンヌは小さく笑みをこぼし、さらに頁を進めた。



精霊が、この世界に住む種族と出会い、助けていく話だ。


概要は変わらない。


出会う種族も、それぞれ特徴を捉えている。


ドワーフ族は“物語”に登場しなかったけれど、


きっと、人族から見たドワーフ族はこんな印象なのだろう。



この物語は…いつ書かれたものなのだろうか。


なんだか、全体的にもの悲しい。



誰かを助けるたびに、ドーシュミは疲れが溜まっていく。


ゆっくりと、足取りが重くなっていく。



だけど、助けを求めるものは多い。


どの種族も困り果て、立ちすくんでいる。



世界が、静かに疲れている。


そう感じるような物語だ。



あっという間に、物語の最終章に突入した。


ここが、前回読めなかった部分だ。



――すべてを背負わぬものに 休む場所を

与え続けた小さき手に

ふたたび満ちる静けさを


聖なる樹よ、

彼を英雄にせず 名も刻まず、

ただ 癒してください


明日、また歩き出せるだけの

ちからが 戻るまで


そして願わくば、

この世界が 小さな善意を

必要としすぎぬ夜でありますように



「…!」


聖なる樹――


聖樹のことだ。


精霊と深く関係する、不思議な光る樹。



“物語”では、各地に存在する聖樹の傍に精霊が現れた。


聖樹にはきっと、精霊を元気にするちからがあるはずだ。


それに、瘴気が蔓延る“死の大地”でも枯れることはなかった。



この不思議な樹は、王都にもある。


王城の裏で固く護られ、見ることはできないけれど。



だけど、“物語”の序章でも深く関わってくる大切な樹だ。


その聖樹のもとで、マドカが――



「…あっ!」



「ふぇっ…!?び、びっくりしたぁ」


離れて作業をしていたニアが、びくりと肩を震わせた。



「あ…ごめんなさい、ニア」



「突然、どうされたのです?」



「ええと…少し、寝惚けていたのかも」

リリアンヌは、誤魔化すように笑って言った。



「ええ…?本当ですか?随分と真剣に読まれていたのに?」



「うん…ごめんね」


言いながらも、心臓はばくばくと早鐘を打っていた。



自分が何を忘れていたか、やっと思い出した。



ブライアンの十四歳の誕生日。


今日は、マドカが精霊に出会い――加護を授かる日だ。



“物語”の序章で、マドカと共に、異形の存在の大群を消し去った精霊。


ちからを使い過ぎて消えてしまった、名もなき精霊。



マドカは、十歳の時に白のちからを持っていることが分かり、遠い町から王都へやって来た。


そこから一年後の今日、他の霊拝師(オランス)と一緒に、ブライアンへ祝いの挨拶をしに登城する。



そこで、たまたま見つけた抜け道を使い、王城を脱走しようとする。


マドカは、故郷に帰りたかったから。



けれど抜け道が繋がっていた先は、王城の裏手だった。


マドカは導かれるように聖樹のもとへ向かい、そこで鳥の精霊を見つける。



本編が始まる十年前の、重要な出来事。


“デューゼの森の悪夢”が起こる日のことばかりを気にして、すっかり忘れていた。



「……」


マドカに…会えるかもしれない。



マドカは、いつ脱走しようとするのだろう。


いつ、精霊を見つけるのだろう。



本当に見つけたら、どうなるのだろう。


王城は、騒ぎになるのだろうか。



「…よし」

リリアンヌは、ソファからすくっと立ち上がった。



「ニア…!お願いがあるの」



「はいはい、なんでしょう。あんまり、良い予感はしないですけれど」



「あのね…私、霊拝師様を見に行きたいの」

リリアンヌは上目遣いで、懇願するように言った。



「…はいい?」



「さっき馬車から見かけたのだけれど、もっとよく見ることはできないかな」



「お嬢様は本当に突然、変な我儘を言われますねぇ」

ニアが、困ったように眉を下げた。



「私は、ご主人様にすべての報告を命じられています。お嬢様がここから出たら、それもお伝えさせていただきますよ?」



「…う」


それは、困る。


良い子で待っていろと、二度も念押しされたのだから。



「…ん?」


でも…出てはいけないとは、言われていない。



「そもそもご主人様は、このお部屋で待つようおっしゃっていたじゃないですか」



「ううん、言っていない」


言葉尻を取るようだけれど、ずっと部屋にいろとは言われていない。



「ニア、お願い…そこの廊下から、下を覗くだけでいいの」



「ああ…そこの廊下からは、お城の入り口がよく見えますからね」



「うん。お父様に報告してもいいから、お願い」


それで後から怒られたとしても、甘んじて受ける。


どうしても、マドカに一目会いたかった。



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